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「強者の理論」にはもううんざりなんだよ

努力が足りない。
熱意が足りない。
本当にやりたいと思うのであれば出来るはず。
こんな言葉が飛び交う世の中にうんざりする。

最初に言っておくと、「どれだけ努力したって夢は叶わない」的な話をしたいわけではない。
何かを出来なかった人を盲目的に追い詰めて傷付ける人が少しでもこの世から減ってほしいと思ってこれを書いている。

私は京大出身だ。兄は東大出身だ。ちなみに二人とも現役で合格した。

と言うと、たいていの人が「遺伝だね、ご両親も頭いいの?」と聞いてくる。
言われるたびに「ふっざけんな」と思っていた。
両親は大学中退と高専卒だ。ちなみに両親とも努力家で勉強家なので頭が悪いとは全く思わない。けれども、私たちが合格したのは死ぬ気で勉強したからだ。
「遺伝ならハーバード卒の夫婦の子供は全員ハーバード入れんのかよ。お前が出来なかったことを自分のせいにしたくないからって人の努力を見ないフリすんなよ」と怒ったりしたこともあった。

でも、確かに、ふと思う。
私たちは私立の進学校に通わせてもらっていた。
進学校の全員が東大や京大に行くわけではないし、そもそも偏差値の高い大学に行くことが大事かどうかなんて話はどうでもよいが、少なくとも大学に行くための環境は圧倒的に整っていた。
中高だけでなく、小さい頃から本を読んだり新しいものを見るのが好きで、たくさん本や図鑑を買ってもらったり、旅行に連れて行ってもらったり、家のパソコンを使わせてもらってプログラミングをしたりもした。
我が家には車もなかったし、一軒家に住んだこともないし、予備校は高いと言われて行かなかったけど、それでも学ぶ環境は人以上に整っていたのでは、と思う。
ちなみに私は小さいころからあまり友達がいなかったので、1人で学ぶ時間というのは人より多かったのでは、とも思う。

じゃあ、京大に受からなかった人たちは、努力が足りなかったからなのだろうか?

地方の学生が起業しようとした時もそうだ。
「成功したかったら東京に行け」と聞き、一番安くて狭い夜行バスに毎週何時間も揺られ、友達の家やネットカフェを転々としながら、興味を持ってくれる投資家を必死で探し、夜の新宿を歩く孤独と苦しさを味わう学生が東京生まれ東京育ちの学生起業家とフェアだとは思わない。
その人自身の家庭に余裕がなければそんな生活は長くは続けられない。きっとタイミングと運が悪ければ、諦めて大学を卒業し無難に就職するだろう。
そんな人に対して人々は、「本当にやりたかったらいくらでもできる。地方だから不利と言うのは甘え」と無責任に言う。

「本当にやりたいなら出来るだろ」って言うけどさ。「甘えんな」って言うけどさ。
それってあなたが経済的に不自由ない環境に生まれたからじゃないの?
五体満足でなんの障害もないからじゃないの?
自己肯定感をそれなりに満たせるような容姿で生まれてきたからじゃないの?
追い詰められて出来ないことを自分のせいにしてうつ病になった人が近くにいないからじゃないの?
「わからなかったら調べる」という方法を学べる環境にいたからじゃないの?
ご縁をくれる人に出会えたからじゃないの?
いくらでも頑張らせてくれて、頑張ったら褒めてくれる場所しか知らないからじゃないの?

あなたは偉いよ、あなたの努力はすごいと思うよ、辛いこともたくさんあったと思うよ、しんどい思いで頑張ってきたあなたにとって環境のせいにして挑戦しないやつらにイライラするのもわかるよ、でもそうやって「全ては努力次第」って言って、自分基準でしかない努力を人に押し付けて傷つけるから、誰かが今日も出来ない自分を責めて死ぬんだよ。

ドイツの地理学者フリードリヒ・ラッツェルが主に提唱した環境決定論という概念がある。
めちゃくちゃ平たく言うと、人間を構成するすべてが取り巻く自然環境によって形成されるという学説だ。

私は自分の意思で自分の道を切り拓いてきたつもりだけど、外的要因によって思想が作られ、行動パターンが作られてきたのは間違いない。

誰もアフリカの紛争地域にいる子供に「自分の努力が足りないから貧困なんだよ」と言わない。みんな環境という要素のパワーと暴力性を知っているはずなのだ。


私が伝えたいのは、「努力でどうにもならないことなんてこの世には腐るほどある」ということ、「あなたが出来なかったことは、環境を変えることでしか出来るようにならない可能性もあるから、私はあなたが環境を変えたいと思ったときに変えられるような仕組みづくりを今日も頑張るよ」ということ。

五体満足に生まれ、両親や周りの人の愛情を浴びて中産階級以上の家庭で育ち、進学校に学歴も担保され、育ちのいい人同士で夢を語り、自由に自分のやりたいことを選択出来てきた”努力主義者”の皆さん、世界中の人々が諦めなくて済むような環境を整えるの手伝ってくださいよ、お得意の努力ってやつで。


(個人的に、妖怪ウォッチは日本の児童の自己肯定感を上げる一助になったのではないかと思います。私が今日寝坊したのも妖怪のせいです。)

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