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会計に、地図を。

 『会計の地図』という本を出します。

この本のコンセプトは、「会計を万人の共通言語にする新しい入門」です。

今まで会計に触れてこなかった人も、
何冊か会計の本を読んだけど理解できなくて挫折した人も、
自分は詳しいけど他人に教えることが難しい人も、
全員ふくめて、

「みんなで会計の話ができるようになること」


を目指す本です。

「会計」と聞いた時の第一印象って、どんな感じですか。

・簿記とか、商学部とか、経理とか、財務とか、会計士的な?
・上司が会計の本ばっか読んでるんだよな
・社会人として知らないと恥ずかしいもの。いや、よく知らんけど
・「お会計お願いします」って私が言った瞬間に君がトイレに立ったあの日のことは忘れない

「会計」にまつわるイメージは人それぞれだと思いますが、少なくとも、「みんなが当たり前のように知っていて簡単なもの」ではなく「専門的で難しいもの」というイメージが強い言葉だと思います。

でも、それって、おかしくないだろうか、と。

会計は、お金の流れを記載して内外に説明するための概念と方法であり、すべての仕事は会計と切っても切り離せないはずです。それなのに、専門的なイメージが未だに根強い。「みんなのためのもの」なのに、「一部の人のもの」になっている。私自身が会計に対して抱いていたのは、端的に言うと「開かれていない」というイメージでした。

そもそも、会計用語って、わかりやすく伝えようとする意思が感じられなくないですか。「ちょっと何言ってるかわからない」概念のオンパレードすぎる。

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私がバカだからわからない可能性は93%くらいあります。しかし、会計が「みんなに関係するもの」ならば、バカでもわかるものになってなきゃダメだろうと思うんです。

そこで、この本では、こういう方法をとりました。

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全ページを通して、この図をベースに解説します。

「貸借対照表」だの「負債」だの「税引前当期純利益」だの、すでに日本中、世界中に流通している会計用語そのものを更新することはできない。それなら、視覚的に理解できる「図」を新しい共通言語にしよう、というチャレンジです。

だから、こうなります。

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徹底的に、こう。

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この図を使って解説する会計用語は、全部で15あります。15しかありません。その15こを通して、次のような疑問に答える本です。

・そもそも、何のために会計はあるのか?
・どうすれば、会計の概要をつかめるのか?
・自分の仕事は、会社にどんな影響を与えているのか?
・自分は、社会と、どうつながっているのか?
・自分は、社会のために何ができるか?

つまり、自分から始まり、「会計」というレンズを通して、「自分と社会とのつながり」をつかむまで伴走する。そういう本です。

全体の目次は、こうなっています。

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著者は、近藤哲朗さんと、沖山誠さんという人です。

近藤さんは「株式会社そろそろ」の代表取締役であり、一般社団法人「図解総研」の代表理事。沖山さんは図解総研の共同理事です。沖山さんは、近藤さんのサポート的な立ち位置で当初から関わってくださってたんですが、有能すぎて彼なしにこの本はできなかったと言い切れるので、「著者」になってもらいました。

主著の近藤さんは、SNS上で「チャーリー」という愛称で知られています。「チャーリー・ブラウンに似ているから」という理由で。不朽の名作『ピーナッツ』の主人公であり、スヌーピーの飼い主。あのチャーリーです。

つまり、            

近藤哲朗さん(愛称:チャーリー)

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この人が、こう。

本家「チャーリー・ブラウン」

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たしかに。髪型以外は似ているような気がします。

かくいう私は、こちらも不朽の名作『バガボンド』で、武蔵に土をつけた胤舜(いんしゅん)に似ていると言われます。

つまり、

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これが、こう。

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『バガボンド』井上雄彦(第5巻・講談社刊)より引用

たしかに。髪型を含めて似ていると認めざるをえない。

しかし、愛らしい「チャーリー」に比べ、「胤舜」は愛称たり得ないと思うので、自称は拒否しています。

ところで、このチャーリー・ブラウンの生みの親であるチャールズ M.シュルツは、『ピーナッツ』という作品を生涯、独力で作り続けました。1997年、75歳の誕生日プレゼントとして取った5週間の休暇以外、亡くなる直前の1999年12月の断筆宣言まで、1日も休まず、17,897日分のコミックを描き続けた。資料収集からセリフの書き込みに至るまでのすべての作業を、アシスタントをつけることなくたったひとりで行ったと言われています。

この『会計の地図』という本、とくに「会計の地図という図法で一貫して会計のエッセンスを伝える」というコンセプトもまた、近藤さんの「発明」であり「作品」です。経営者であり、会計の専門家ではない彼は、私が最初に声をかけた2017年11月から、3年以上の月日をかけて資料を読み試行錯誤を繰り返し、新しい「会計の入口」を作りきりました。

近藤さんは、大学で建築を学び、大学院に進んで都市工学で修士号をとった経歴を持っています。幼い頃からおりがみに没頭する中で空間認識力を高め、建築を学ぶ中で「物事を構造化して捉え最適解を導き出す」こと、「複雑なものをシンプルにすること」に無上の喜びを覚えたことが、この本のずば抜けた図解力とイラストレーションセンスにつながった、と、勝手に私が思っています。

近藤さんの図解は、ただの「絵」ではないんです。「文字で解説した同じことを再確認するための図」ではないのです。言葉では伝えきれない、目に見えなかったはずの「構造」や「関係」を可視化する「言語」の域に達していると思います。この本は、完全にその図解がメインです。200ページしかないのに、120以上の図解が入っています。文字よりも図が占める面積のほうが広い本です。

近藤さんは、執筆中、何度も不安になったんじゃないかなと思います。というのも、本の制作期間中、近藤さんと私は会計の専門的な議論をほとんど交わさなかったからです。近藤さんが作った図や原稿に対して私は「最高ですね」「これはもっとよくできそうですね」「これが本当に自分が読みたかったことですか?」みたいなことばっかり言ってきました。

「この人、本当に会計のことわかってんのかな……」
「この人と会計の本作って大丈夫なのかマジで……」

と、心配になって当然な関わり方をしてきました。近藤さんは一度もそんなことは言わなかったけれども。

わたしは、近藤さん自身の力でこの本を書ききってほしいと思っていました。近藤さんは、自分でこう書いています。

会計の地図を書いたのは、過去の自分のためです。自分が会計を学び始めたときに、こういうふうに説明されたらわかりやすかっただろうな、つまづかなかっただろうなと思うことを、まとめました。

つまり、この本は、かつて会計の初学者だった近藤さんが、疑問に思ったこと、わかりにくかったこと、「こうやって学びたかった」という悩みや不満に答える本です。

だからこそ、「会計とはこうなんだ」「こう書かないといけないんだ」という先入観をできるかぎり排して、実感のない対象に忖度することなく、臆することなく、近藤さん自身が学び、近藤さん自身の力で「これこそ過去の自分が欲しかった本だ」と自己満足できる状態までたどり着くことが、最低限かつ最高の到達点だと思っていました。

待てや。おまえ何きれいごと言ってんだよ。編集者、仕事しろよ。

そういう向きもあるでしょう。いや、わたしもそう思いますし。

もちろん、わたしも何もしてなかったわけではありません。

近藤さんを3年間、待っていました。編集者とは、待つのも大事な仕事のうちなのです。

いや、やっぱり仕事しろよ。


待ってください。ちょっとは勉強しました。

『起業のファイナンス』(磯崎哲也/日本実業出版社)
『「のれん」の会計実務』(EY新日本有限責任監査法人/中央経済社)
『バリュエーションの教科書』(森生明/東洋経済新報社)
『無形資産が経済を支配する』(ジョナサン・ハスケル , スティアン・ウェストレイク/東洋経済新報社 )

など、過去の入門書や専門書もいろいろ読んではいましたし、わたしのキャリアの最初は『企業実務』という企業の経理も読む専門誌でたくさんの税理士・会計士と仕事してきましたし、何よりこの本は『会計の基本』日本実業出版社)という名著の著者、公認会計士の岩谷誠治さんに監修を託しています。近藤さんの新しい試みが、会計学的な会計実務的な取り決めや表現と相反することはないか、間違った方向に読者を導くことにはならないか、わかりやすさと会計的な正しさを両立させる着地点はどこなのか、徹底的に議論して完成まで持っていきました。

でも、岩谷さんに監修を依頼したのは、原稿が完成した最後の最後、全体の制作期間の95%以上が過ぎたあとです。ベースになっているのはすべて、近藤さんが創作したコンテンツです。

だからこそこの本は、会計はむずかしい、わかりにくいと思っている人の「気持ち」を置き去りにしない本になっていると思います。

そして、この本は、近藤さんのもう1つのモチベーションが起点になっています。

本文中に、こういう一節があります。

少し長くなりますが、引用します。

 のれんを生み出すためには、クリエイティブな発想が必要である。ブランドやアイデアや戦略などという目に見えないものは、時間をかければ生み出せるというものではないし、お金で得られるものでもない。そこには、人の「工夫」が求められる。人の創造性こそ、のれんを生み出す源泉になっているのだ。
 
 そう考えると、のれんは、会社の経営者じゃなくても、会社に勤める誰であっても、アイデアや工夫次第で生み出せる資産だ。企業価値の最も重要なところにこそ「クリエイター」の力が求められているとも言える。しかも、財務的にも、そう扱われている。

 僕はかつて、ディレクターとしてWebサイトやアプリなどの企画・設計の仕事をしていた。僕の周りには、新しいアイデアを考えたり、斬新な概念を生み出したりする創意工夫あふれるクリエイターがいて、その仕事ぶりに感動してきた。しかし、クリエイターのアイデアは著作権で保護されにくかったり、安く見積もられたりして、本来生み出している価値以上の評価はなかなか得られていないように思えた。

 だから、「クリエイターの本質的な力こそが会社の価値に深く影響する」という事実を知ったとき、ものすごく勇気付けられた。

これは、本書で最も重要なトピックの1つ、「のれん」という概念の説明であり、唯一、近藤さん自身の過去を本文中で明かしている箇所です。

会計の話は、基本的に数字の話だから、どうしても無機質気味になる。その数字を生み出した「人の動き」や「心の動き」はあまり語られることがない。しかし「のれん」は、そういう目に見えないものを会計的に可視化する概念でもある。近藤さんが一人の「クリエイター」としてそこに希望を見出したことが、この本が生まれるきっかけになっています

だから、「自分の仕事って、どんな価値があるんだっけ?」とか「自分って、なんか社会の役に立ってんのかな」と悩む人にも、わたしはぜひ、この本を読んでほしいと思っています。

最後にもう1つだけ。

この本には、「全体の地図」という、本全体を俯瞰する図があります。

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この地図は、最初、白地図です。

「売上」から始まって、1つの会計用語を説明するごとに、1つ地図が埋まっていく、という構成になっています。

こんなふうに。

売上

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利益

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何となく、既視感がありませんか?

ないと思います。

こういう「あなたもそう思いませんか?」みたいな唐突な問いかけは、原則として無理やり自説にこじつける誘導尋問なので気をつけたほうがいいです。

ちゃんと言います。

この図は、わたしの中で、イメージしていた元ネタがあります。

これです。

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わたしが小学生の時に胸を躍らせまくったスーパーファミコンのマスターピース『スーパーマリオワールド』の世界地図です。

近藤さんが書いた文章を引用します。

地図は、現在地がわかる。
地図は、目的地にたどりつける。
地図は、自分を冒険に向かわせる。
会計という広くて豊かな世界を歩き回る最初のツールとして、本書を活用していただければ幸いである。
(「はじめに」より)

最初に全体像が見えている。
進むべき道も見えている。
1ステージをクリアするごとに、足跡が刻まれていく。
自分が今どこにいるのかを確認しながら、迷わないように、道のりを振り返りながらクリアするまで伴走する。

そういう本です。

これから会計を学ぼうとする人が携える、地図になりますように。

実は今日、3月15日は、近藤哲朗さんの誕生日です。

限りなくどうでもいいがわたしにとってはどうでもよくないこととして、3月17日は、わたしの誕生日です。

そして、その間に当たる明日、3月16日が『会計の地図』の発売日です。

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