【創作】おもしろそうにおよいでる
子どもの日が近づき例年通り僕らは倉庫の奥から出された。
「今年もよろしく頼むな。あら?こんなとこに穴なんかあったっけな?もう随分と使っているから無理もないか。直せるかなぁ」
僕の尾びれの穴を見つけた太一が慌てた様子で言った。ホントは他にも小さな穴がちらほらとあるんだけど太一を心配させたくなから僕は何も言わなかった。
僕に続いて緋鯉と青鯉も出された。被っていた埃を太一が丁寧に払ってくれる。二匹とも嬉しそうだ。
太一は僕らの口ひもを金具に取り付けて滑車で引き上げた。予め立てて置いたポールに僕、緋鯉、青鯉の順番で並んだ。
「わーい!鯉のぼりさんだー!」
太一の息子のしょうちゃんがユラユラと舞う僕らを見て目をキラキラさせている。
「翔太、すごいだろ!パパが小さい頃にじいじに買ってもらった鯉のぼりだよ」
太一は毎年そう言って僕らのことをしょうちゃんに自慢してくれる。太一の話をよそにしょうちゃんは目を輝かせて僕らを見ている。太一は少し困った顔で、でも嬉しそうに僕らを眺める。
ふいに柔らかな春風が僕らを包む。風に乗った僕らは体をはためかせて大空を泳いだ。
「パパ見てー!お魚さんたちが泳いでるよー!おもしろーい!」
しょうちゃんが声を上げて笑う。太一が優しい眼差しをしょうちゃんにむける。それはかつて太一に向けられていた温かなものと同じだった。
二人に見せつけるように力一杯泳いだ。来年も再来年も穏やかで幸せな日が続くようにと、僕らは泳ぎ続けた。
おしまい
🎏🎏🎏🎏🎏
こちらの企画に参加しています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?