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ニュースウオッチ9⑬本気の再発防止策がNHK崩壊を食い止める

⑫反省しないNHKからの続き/

前回に引き続き、再発防止策を盛り込んだ文書を取り上げます。要は反省文なんですけど、よくよく見ると不可思議な代物なんですよ。NHKらしいと言えますが。



曖昧でおざなりな「謎の文書」

■タイトルの曖昧さ

BPOから「お叱り」を受けてNHKから出されたこの文書、タイトルだけ見てもどういう種類の文書なのかよくわかりません。正式名称は以下の通り。すごく長いですね。

『ニュースウオッチ9』新型コロナワクチン接種後に亡くなった人の遺族を巡る放送についての意見を受けて

<タイトルがはらむ問題点>

  • 「遺族を巡る放送」とだけ書かれていて、何が問題だったのかが少しも示されていない。「虚偽放送」がダメならせめて、「不適切放送」くらいにはしてほしいものです。

  • 「意見を受けて」でタイトルが終わっていて、じゃあ何をするの?という肝心な点が書かれていない。結論、主張、意思の部分が欠けているのです。タイトルからしてすでに無責任さが色濃くにじんでるんですよ。「自分たちは悪くないけど、BPOに意見されたので、反省するふりしてみました」という裏メッセージが伝わってきます。

NHKの代わりに、まともなタイトルを考えてみましたよ。↓

新型コロナワクチン被害者遺族を巡る『ニュースウオッチ9』の不適切報道について、BPO意見を受けて策定したNHKの取り組み

はむた作

ますます長くなってしまいました。でも、これでNW9の問題点が明らかになったし、「誰の意見を受けて誰が何をするのか」もはっきりしましたね。

取材要項取材依頼メールにも言えることだけど、こういうときにNHKが出す文章って、文法的におかしいんですよ。主語や目的語が抜け落ちていて、曖昧模糊としている。何が言いたいのかわからない。なぜそうなるのかと言えば、非を認めず、過ちを隠したいからです。だから奥歯にものが挟まったような言い方になる。このタイトルも同じです。


■反省文を使いまわし

NHKの番組は数年おきにBPO案件化しているので、「意見を受けて」の文書は、タイトルを含めテンプレ化しています(調査報告書の方はそうでもない)。項目立ても決まっています。

1) 委員会決定の放送対応
2) 放送現場への周知
3) 経営委員会・放送番組審議会への報告
4) 放送倫理委員会の開催
5) コンテンツ品質管理連絡会の実施
6) BPO放送倫理検証委員会との研修会
7) 再発防止に向けて

2023年3月4日提出の「『ニュースウオッチ9』新型コロナワクチン接種後に亡くなった人の遺族を巡る放送についての意見を受けて」より抜粋

NW9とBS1は項目名が寸分たがわず同じで、クロ現は少しだけ異なってますがほぼ同じ。各項目の中身も似たり寄ったりです。再発防止策がワンパターンなのは、前回の記事でご説明した通りです。
  

■「何の」再発を防止するのか?

この「意見を受けて」文書には、「再発防止」および「再発防止策」という単語が、計12回出てきます。でも、いったい何を防止するのかよくわからない。「何を」「何の」という部分がここでも抜け落ちている。非を認めていないから、ごまかそうとするから、こういう中途半端でモヤッとした書き方になるんですよ。

問題発生の経緯と原因について、NHK側は過失と「認識不足」で押し通しています。でも、BPOは疑念を示しているし、遺族会はもちろん納得していない。「にわかには信じがたい言い訳」だからです。

過ちを認めないまま、過ちを繰り返さないための対策を立てるなんて、できるはずがありません。何度も同じような不祥事をやらかすのは当然です。


本気で「再発防止」するために

■「謝ったら死ぬ病」への処方箋

NHKに限らずテレビ局は、とにかく過ちを認めたがらないですね。故意や過失が明らかな場合でも、かたくなに否定します。この傾向は、「謝ったら死ぬ病」と言われています。

それにしても「謝ったら死ぬ病」っていう言い方、ひっかかりますね。茶化すニュアンスがあって不謹慎だし、「病気だから仕方がない」と暗に免責している。マスコミは自虐を、世間一般の人々は侮蔑をこめて、この言葉を使うようですが、問題の矮小化につながるのでやめた方がいいと思います。

間違いをなくす努力は必要ですが、ゼロにすることは不可能です。間違ったときにどう対処するかが問われている。潔く過ちを認めて真摯に謝罪すれば、かえって好感を持たれるのでは?と思うのですが、NHKにその姿勢は見られません。

再発防止策というのなら、もっと科学的かつ合理的な対策を検討できないのでしょうか?過去の事例を分析して、最適な防止策を導き出すことは可能なはずです。

NHKには役員や本部部局長からなる「放送倫理員会」というものがあります。さらに、全国の放送局に「コンテンツ品質管理責任者」が配置されています(2022年のBS1問題以降に設けられました)。これらのメンバーに、リスク管理の専門家は含まれているのでしょうか? 外部の専門家による定期的なチェックなどはされているのかな?

結果の検証もせず、専門家の介入もないとしたら、再発防止策の合理的・科学的根拠は薄いでしょうね。いわゆる「エビデンスがない」状態です。これでは問題が繰り返されるのも当然です。

外部の専門家も交えてしっかりと検証した上で、実効性のある再発防止策を立てていただきたい。形式的に謝って、さっさと忘れて次に行くのでは、公共放送としてあまりに不誠実です。NHKは「情報空間の健全性」の担い手たらんとして、最近しきりとSNS等の「ファクトチェック」をしたがりますが、はたしてその資格はあるのかと、大いに疑問に思います。よその媒体の真偽をとやかく言う前に、自らの虚偽報道や誤報、不祥事を真摯に振り返ってほしいです。

ちなみに、かつて「セシウムさん事件」を起こした静岡放送は、綿密な報告書を作成してるし、検証番組も作ってますよ。


■岩盤のような隠蔽体質に風穴を

NW9の件に関して遺族の会の鵜川氏は、正しい内容で放送しなおして欲しいと要求しましたが、NHKはそれに応じませんでした。検証番組も作られていません。静岡放送のケースとは違って、単なる不手際や過失にはとどまらないからでしょう。何としてでも真相を隠し通したいという意思を感じます。その強固な意思の前で、BPOも追及を阻まれました。BPO倫理委の意見書には、その苛立ちが滲んでいます。

NHKの隠蔽体質は強固なもので、過ちは徹底的に隠そうとするし、露呈したらなりふり構わずごまかそうとします。私は自分がクローズアップ現代で捏造されたとき、NHKとやりあってそれを痛感しました。押し問答をしている最中にNW9の件が発覚して、ひどく驚きました。問題の構造がクロ現とそっくりだったのです。その後もNHKの不祥事は続いています。

この調子でNHKが都合の悪い真実を隠蔽し続ければ、公共放送としての建前と実態がどんどん乖離していきます。乖離を放置していると、その欺瞞はいくら隠しても隠しおおせなくなる。内部もその欺瞞によって疲弊・腐敗していく。組織はこうして崩壊への道をたどるのです。その兆候が最近はとみに感じられます。

NHKがぐだぐだになろうがつぶれようが、私個人は溜飲が下がるというのが本音なんですよ。でも、一市民としての立場で考えると、公共放送がダメになると民主主義もやばいよな、と危機感を覚えます。こういった問題はNHKに限らずマスメディア全体に言えることではありますが。

じゃあどうすればいいの?といっても、具体的な方策はすぐ思いつかないのですが、とにかく透明性を高めていくことに尽きるのではないでしょうか。隠蔽体質が諸悪の根源だとしたら、内側と外側から同時並行的に切り込んでいくしかない。

一般の視聴者・市民の側は、NHKへの意見や批判を遠慮なく表明することです。NHKにもBPOにも意見を受け付ける窓口はありますし、NHKの経営計画案への意見募集や総務省のパブリックコメント募集といった機会もあります。取材などで直接関わった人は、具体的な問題点を指摘できますから、SNSで発信するといいですね。NHKの不祥事があまりに深刻で、対応が不誠実な場合には、受信料の不払い運動が有効かと思います。

NHKの関係者、「中の人たち」にも期待したいところですが……問題意識のある人ほど組織内にとどまっているのが難しくて、外に出てしまうみたいですね。志ある人が内部にどれだけ残っているかわかりませんが、少しずつでもいいからよい方向に変えていってほしい。NW9でもクロ現でも、それ以前の多くの番組でも、たくさんの取材対象者がNHKの取材と放送によって傷ついてきたのだから、罪滅ぼしをしてください、と言いたいです。


【追記】NHK公式サイトには、「放送倫理に関する調査報告等」というページがあり、過去のBPO案件の報告書が載っています。
2014年クロ現と2022年BS1スペシャルはあるのですが、NW9はまだ出てません。今のところ、BPOのサイトから飛ぶしかなさそうです。


⑭参照資料リストへ続く

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