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近所の人の反応と、飼い主がいる疑惑について

野良さんの話2回目。
近所の人の反応と飼い主がいる疑惑について。

野良さんの面倒をしばらく見る決意をする

野良さんが現れた当初、近所の人たちは野良さんを追い払っていた。それは当然のことで、ここにいるのは飼われている猫さんたち。(わりと外を出歩いている)

飼われている猫さんに病気を移されたら困るし、なにより猫はテリトリーを重視する生き物だからストレスや喧嘩になったら困る。(実際、去勢済の猫さんも他所から来る猫と喧嘩してよく傷を作っていた)

私も最初は面倒を頼まれてる猫さんの飼い主に頼まれて、かわいそうだけど野良さんを追い払っていた。

しかし野良さん、人間にフレンドリーなんですよね…。(脅威になってる他の野良猫たちはほんとに人間を見るとすぐ逃げる)
くわえてあんなにお腹を空かしているし、怪我もしているし…

細かい心情の変化を今となっては忘れてしまったのだけど。
私が見ている限りは野良さんはこのへんの飼い猫さんたちには危害を加えていないように見えた。(嫌がられてはいる)頭を垂れて、どちらかというと下出に出ているように見える。
唸られても唸り返さないし、私の見ている前で飼い猫さんが一度『来るなよ!』と牽制にひっかいたのだけど、野良さんは唸りも反撃もしなくて私がちょっとびっくりした。

17日に私はこんなLINEを大家さんに送っている。

他の猫さんの飼い主とも相談して、飼い猫さんたちの健康と安全を最優先するのはもちろんなのだけど、その上で野良さんをしばらく面倒見て、病院にも連れていき、里親を探そうと決心したのだ。

こう考えたのは、16日に写真を撮っていた怪我も影響している。
(ちょっとショッキングな写真ですみません)

明らかに健康を損なっているし、明らかに人間の助けを必要としているように見える。
私は来月の生活費しかもってないような人間だけど、それでもこの子の命を少し助けることはできるのではないだろうか。と思ったのだ。

住んでいる地域の猫の里親探しコミュニティにも相談を始めた。

飼い主がいる?

しかし翌日、近所の人から言われた話で、私の決意はグラッグラに揺らぐことになる。

「この猫、飼い主いるよ。」

えっ?!マジ?こんなにボロボロなのに?去勢もされてないのに?

「飼い主はちゃんとエサをあげてる。見てみて、太っているでしょう。彼はオスで、縄張りを広げるのと珍しいエサを食べに来てるだけ。」
「ここはタイで、日本とは違う。タイにはタイの猫の飼い方がある。彼はタイの猫だからタイのやり方で飼われている」
「あの猫はあなたのいないところで他の飼い猫をいじめている。首に噛み付いたりしている。大家さんも何度も見ている。他の猫は怯えている。追い払った方がいい」

太っている?

確かに野良さんは顔が大きくて一見体格が良いように見えるけど、あんな腰の周りが落ち込むような痩せ方をしていて、充分に餌をもらっているとは私にはちょっと思えない。

いじめているというのも本当だろうか?
私の前では本当に、全く危害を加える素振りはないのだけど。

しかし、飼い主がいるのであれば勝手なことはできない。
こんなにボロボロになっているのに病院に連れて行った形跡が見られないし、去勢もしていないし、この怪我も多分病院には連れて行かないんではないだろうか。
私が自分でお金を出して病院に連れて行くのは向こうにも損がないしいいかもしれないけど、少なくとも去勢に関しては飼い主の意見をまず聞かなければいけない。

しかし、飼い主はタイ人で、英語は話さないということだった。
タイ語で交渉…。

考えるだけでも気が重いことだ。
そりゃ何年も海外にいて、英語を話さない人たちとのコミュニケーションは何度も何度も取ってきたけど、全く見も知らぬ人をいきなり訪れて飼い猫について(それも健康状態などについて)話すというのは、友人同士の雑談やこっちがお客さん側で向こうが商売をしている側のコミュニケーションとはわけが違う。
自分が放置していた猫について、ある日外国人がやってきて、ようわからんこと色々言い出したら嫌だよね。

それに私が相手に対して要求することも明確に決まっていない。相手の答え次第で柔軟に反応を変えていかないといけない。
私は相手に一体何を求めたいのか?
「怪我をしているみたいなので病院に連れて行こうと思うんですがどう思いますか」?
「去勢されてないみたいなんですが」?
「ご飯をあまりもらってなかったみたいのですが」?
「家のアパートの猫達の縄張りに来ているみたいで迷惑なのですがそちらで何とかできませんか」?

最後の文は、こう言えば?と複数の人に言われたことだったのだけど、こう言われて飼い主はなんと答えるのか?答えられる?聞かれたのがもし自分だったら答えられないかもしれない。
良識のある人だったらごめんなさいというかもしれないし、強気な人なんだったら猫なんだから仕方ない、私は知らないというかもしれない。いずれにせよ答えにくいし、その答えが意味があるものになるかどうか自信がない。『猫が迷惑をかけていると飼い主にクレームをつける』という効果しかない気がする。
そのコミュニケーションを仮に取ったとして意味があるとは思えない。私の目的は猫を助けることだ。

もっと明確な、こうしてくださいとか私はこうしたいんだけどいいですか、だったらまだ言う意味があると思う。
「怪我をしているようなので病院に連れて行こうと思うんです。お金は私が全部出しますから。いいですか?」とか、
「去勢はもしお金の問題なのであれば私がなんとかします。だけど去勢はしたくなくてしていないんですか?」とか。(後者はまた答えによって難しい…)

でも私はまだ飼い主に何と言っていいのか分からなかった。
放置されるのであれば助けてあげたいけど、飼い主がいるならちゃんと面倒を見てほしい。そこまで自分が全部持つという肚はまだ決められていなくて、病院だってできるなら飼い主に出してほしい。だけどそれは私が求められることじゃないし。会話のゴールがはっきり見えない。
そういう会話の微妙なさじ加減を、タイ語で?

さらに答えがタイ語で返ってきたとして、簡単な答えならまだ分かるけど、ある程度の長さの文章の場合どうする?ちゃんと理解できるか?
スマートフォンのGoogle翻訳を差し出して喋ってもらうというのもこれまでの人生でもちろん何度もやってきたけど、それは相手に答えるモチベーションのある場合で。相手にも答えたいと思う気持ちがあるから面倒でもスマートフォンに向かってなにか喋って、分かった分からないみたいなやりとりができるのだ。そうじゃなかったら面倒だし、私を追い払ったほうが早い。
うるさい!ってドアを閉められたらどうする?どう会話を持っていったらそれを回避できる?

考えれば考えるほど難しいことの気がして、気持ちがすっかり袋小路に入ってしまった。

(タイ人の友人に頼むことは考えられなかった。みんな忙しいし、野良さんを助けたいという気持ちが共有できている人ならいいけど、野良さんに関しては完全に私のわがままだし、あまり難易度の低くなさそうな交渉に時間を割いて付き合わせるお願いをするのは気が引けた。そもそも私自身、何をどう話すかしっかり定まってないのだ。そんな状態で通訳なんて頼めない。
『タイ語が話せる人に頼む』という単純なアイディアと実行との間には深い乖離がある。)

主観と事実のはざま

しかしとにかく飼い主に会わないことには始まらない。
なので、飼い主がいるよと言っていた近所の人に飼い主の紹介を頼んだのだけど、答えはノーだった。

「Don't worry! He is okay! Just leave it. Don't worry!」
(Don't worryを何度も言われた)

んんん…

うーん。どうも主観と事実が混じっている気がする。

『主観と事実が混じっている』という事はよくある。『He is okay』というのは彼女の主観だ。私の判断とは違う。私には事実とは思えない。
判断が食い違うのは違う人間だから当たり前で、それ自体は別に問題のあることじゃない。しかし彼女の主観によって、本来私が決めるべき私の行動を『Don't worry』『Just leave it』と決められることには非常に違和感がある。私はこういうのに敏感で、とても苦手だ。

He is okayを事実として私に諦めるという行動を求めているのを見ていると、飼い主がいるという話も事実なのか彼女の主観なのか分からないな、と思うようになってきた。もしかしたら猫がその家から出てきたのを見て、ここで飼われてるんだ、と思っただけかもしれない。

彼女の言うことが全て事実であればそれはそれで仕方ないけど、それが事実かどうかこれはやはり確かめる必要があるなと思った。

結局、飼い主ではなかった

この頃頭の中がかなりぐちゃぐちゃになっていたのですが、問題はあっさり解決した。

あの家、と近所の人が言っていた家の人がたまたま外に出て車をメンテナンスしていたのに歩いていて出くわしたのだ。

ちょっと緊張したけど、これは話しかけるチャンスだ…、怪我の写真も持っているから、あなたの猫が怪我をしていますよ、というところから会話を広げよう。

と思って、声をかけた。

「นี่แมวของคุณใช่ไหมค่ะ?」(ニーメオーコンクンチャイマイカ?/この猫はあなたの猫ですか?)
「No.」

えっ

会話が終わった!

あんなに悩んでいたのは一体…

あっ、これで会話を終わらせてはいけない、Google翻訳を使ってさらに質問をした。
「この猫、どこの猫か分かります?」
「あそこの猫だよ。」
とその人は私の住んでいる所を指差した。
えええ。

私の知る限り、今までこの猫はうちの近くで見たことなかったし、飼っている人もいないはず。やっぱり野良だったんだ。
「ขอบคุณค่ะ!」(ありがとうございます!)

わーーーーー良かった〜〜〜〜〜人の言うことを信じなくてよかった!!
人間不信!
私こんなんばっかりやな…
いやーしかし『飼い主いる』っていうのをそのまま真に受けて「そうなんだ〜じゃほっとこ」ってなってたらこの猫さん最悪死ぬことになってたかもしれないしさ…
裏を取るって大事だな…

確かにこんなズタボロになってて飼い主がいるほうがおかしいというか、この状態で飼い主ですって言い張られても『飼い主とは?』ってなっちゃうもんなあ。ご飯あげてたら飼い主って言えるのなら、私だって何度か食べさせたから飼い主だよ。
そうだよなあ、野良だよなあ。

いやー交渉の必要がなくなって本当に良かった…
(近所の人に飼い主じゃないって言ってたよ、と伝えたら、ふーん…という反応でした。いやはや)
(ちなみにいじめてる疑惑も大家さんや別の人は見たことないと言っていたので私は勘違いではないかと思っている。これだけ見ていて私の前では本当に一度も攻撃的な態度をとっていないし。)

というわけで、悩んでいた大きな問題がなくなって、次のタスク(Next Action)は病院につれていくことになったのでした。
続く。

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