見出し画像

家族をつないだ愛犬と、父のこと

父が大変なときも、ずっと家族の支えになってくれた存在があった。
実家の愛犬、ミルだ。
今日はそんな愛犬のことを書きたいと思う。


今から30年以上前のある土曜日の昼下がり、学校から帰ると玄関で父に呼び止められた。
そこには小さなダンボールがひとつ。
当時わたしは小学2年生だった。

「みさ、この箱の中見てみぃ」とニコニコしながら父が言うので近づくと「ガサガサッ!!!」と何かが動いた。
ドッキーーー!!
恐る恐るのぞいてみたら、まっしろでころころの仔犬がいるではないか。
生まれて初めて抱っこした。あたたかくて、心臓がドクドクしてる。
かわいすぎる小さな命。

まるでドラえもん映画のひとこまにありそうな出会いやな。

名前はタッチ。
あのアニメの主人公の名前をとって母が名付けた。
生後まもなく保健所に保護され、引き取り手がなければ1週間後に命がなくなる予定だったそうだ。そんな仔犬を父が連れて帰ってきたのだ。

タッチはくろぺん家の家族になった。
当時、犬を飼うことについて父と母との間でどんなやり取りがあったのかは知らない。「飼いたい」と言い出した父が、「お世話は全部自分がやるから」なんていう流れな気もする。

父は暑い日も寒い日も雨の日も、毎日欠かさず散歩に行っていた。
玄関の近くで飼っていたので、家族の「いってきます」と「おかえり」を、タッチは毎日見守ってくれていた。
そして17歳のとき、両親の腕の中で息を引き取った。

長生きしてくれたけれど、それでもお別れはつらい。
父と母は、「もう2度と犬は飼わない」と言った。


ところが、数ヶ月後のある日、母と妹がふらっと立ち寄ったペットショップで出会ってしまった。運命のポメラニアンに。
最初はちょこっと抱っこするだけのつもりだったようだけど、当時社会人1年目で仕事に忙殺されていた妹が、その小さくてまっ白なふわふわを離さなかった。
一応父に「連れて帰っていい?」と電話で確認したそうだけど、答えはもちろん「あかん!」。それでも強行突破で連れて帰る妹、さすがの強さである。

こうして突然、くろぺん家に家族が増えた。

ところが、父は怒った。
もう犬は飼わないと言ったのに。勝手に連れて帰ってくるとはどういうことや!と。(そりゃそうだ)
リビングの小さなケージの中で眠る毛玉のような犬には目もくれず、2日ほどプンプン怒っていた。

そして3日目。
とうとう我慢できず2人は見つめ合う。
500gの赤ちゃん犬と、60前のメガネのおじさん。
母と私と妹は、その様子を息をのんで見守った…

あっという間に優しい顔して抱っこしちゃう父に、「お父さん、犬だいすきやもんなぁ!!!」と叫びたかった。笑
その日のことは、くろぺん家では笑い話として何度も語り継がれている。

こうして迎えられた2代目愛犬ミルは、わが家に大きな変化をもたらした。リビングで過ごすみんなを笑わせ、癒して、家族の距離をグッと近づけた。
父の膝の上にミルがいるから、父のすぐそばにいく。今まではそんな距離で話すことなんてなかった。ミルが家族を繋いでくれた。

ミルにとっていちばん好きな人は父だったけど、父もまた同じようにミルに癒されていた。「みささんと結婚させてください!」の挨拶の日も、父はうれしいような寂しいような表情で、膝の上のミルをずっとずっと撫でていた。

父が大腸がんの手術で入院していたとき、ミルは健気に父の帰りを待った。父のにおいがする場所で寝て、父が帰ってくる玄関や窓際でずっと待っていたそうだ。犬を飼っている家には、どこにでも忠犬ハチ公がいるんだな。泣ける。

待ちに待った大好きな人が無事退院してきたとき、きっと盛大に尻尾をぶん回して喜んだだろう。そして父も癒されたに違いない。


そんな2人の関係性が変わってしまったのは、父が脳出血で倒れてからだった。4ヶ月間のリハビリを終えて帰宅した父は、今までとは変わっていた。
表情も、歩き方も、まるで違う。
ミルはすぐに異変を察知している様子だった。とても戸惑ったと思う。

父は右半身が不自由になってしまったため、1日のルーティンをこなすことに必死だった。歩くこと、食べること、話すこと、どれも全力でやっていたから、ミルを抱っこしたり、撫でたり、そんな余裕はどこにもなかった。
あっというまに2人の間に距離が生まれた。

父が病気になってからもずっと、ミルは母の心の支えとなり、癒しとなってくれていたけれど、母も父の介護で急に忙しくなった。
両親どちらもが、いっぱいいっぱいで乗り切る日々が始まった。
その頃のミルの心の中を想像すると、今でも…涙が出てくる。

そしてミルもその頃から少しずつ、目が見えなくなり、耳も遠くなり、おばあちゃんになっていった。
鼻もきかなくなっていったけど、最後までチュールのにおいだけは敏感に反応してくれて喜んでくれたのがうれしかった。チュールってほんとすごいわ!チュールに感謝している。

実家に帰るたびに、ミルに会えるのはもう最後なのかな…、と思うようになってきた。残された時間がそう多くはないことはわかる。「ミルちゃん、まだ生きててなぁ。」が帰りのあいさつになっていた。

2022年の夏、先に父が天国に行ってしまった。父がいなくなった実家で、母がひとりぼっちではなくミルがいてくれる、ということが、どれだけみんなの救いになったかわからない。本当にほんとうに、最初から最後まで家族に寄り添い、癒してくれた。

その半年後、ミルは母の腕の中で息を引き取った。16歳10ヶ月だった。

母から連絡をもらったとき、また2人でわんわん泣いた。なぜだかわからないけど、父の時よりもたくさん泣いてしまった。別れが悲しいのと、最後さみしい思いをさせたんじゃないかという思いと、心からの感謝の気持ちでいっぱいになる。かわいくて、おもしろくて、最っ高の家族だった!!

きっと虹の橋を渡って、大好きな父に会いにいったと思う。
そこにいる父はきっと身体が不自由じゃなくて、たばこ臭くて、ミルがずっと会いたかった父のはずだ。

ミルちゃんの話は、まだ声に出して話すことができない。noteに綴れてよかった。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?