見出し画像

原子力規制委員長の「言い分」

 原子力規制委員会の山中伸介委員長は能登半島地震を受けて、2024年1月10日(水)の定例記者会見で、志賀原発周辺のモニタリングポストが一部使えなくなったこと、外部から電源を受けるための変圧器が破損し油が漏れたことなど自体は安全上それほど問題ではないとの考えを述べた。
 今回震度7の地震が起きたことによってさまざまな問題が生じたが、原発の安全に関する新しい知見があったかどうかを判断するにはある程度の時間がかかるとの見通しを山中委員長は示した。
 能登半島地震について新しい知見かどうかは「やはり1年程度の時間をかけて新しい知見かどうかということを地震関連の研究者あるいは国の調査機関等できちんと調べて頂いて、我々としては志賀原子力発電所の審査会合と並行しながら分析してゆくことになると思っています」。
 その間に再稼働判断が下る場合はどうするのかという点については「新知見の内容次第だと思っている・・・少なくとも志賀原子力発電所については(再考をし)なければいけない知見だろうと思っている」。
 志賀原発は2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、1,2号機ともに発電を行っていない。2023年3月、原子力規制委員会は、志賀原発の敷地内の断層10本について「活断層ではない」とする北陸電力の主張を了承し、以前の判断を転換し、2号機の再稼働が視野に入ってきていた。
 現在進められている志賀原発2号機の審査会合への影響は避けられないと「考えています」と山中委員長は述べた。
 今回の地震によって志賀原発に限らず地震が多いこの日本で原発は無理だとの意見が出ていることに関して、山中委員長は「現時点では出来る限りの審査を行ってきています。志賀原発については断層に関してきちんと公表する必要があると思います。他のサイト(原発)に関しては、きちんと審査されていると思っています」と述べるにとどめた。

変圧器の損傷は「想定外」
 原子力規制員会の伴信彦委員が変圧器の損傷というのは「想定外」だったケースだと発言したことに関して、山中委員長は「そもそも新しい規制基準のなかでは外部電源に期待をしないという想定のもとで、電源関係の多重化あるいは多様性の確保を行ってきたわけです」。
 「今回の変圧器そのものが損傷を受けたことについてはきっちりと原因を究明していただきたいのですが、他の(原子力)発電所に今回の事象が安全上影響が及ぶという認識ではない」と心配を一蹴した。
 どうして安全だと言えるのかという理由については、「電炉の多重化」、「号機間の融通」、「非常用ディーゼル発電機」、「可搬型電源」、「ガスタービン」、多数備えている「直流電源」を山中委員長は挙げた。
 ただ、「変圧器そのものの損傷について何か新しい知見があれば新しい規制も」ありうるのではないかとの考えを示した。
 だが、変圧器自体の耐震性だけを見直すことは考えていないと述べた。

志賀原発2号機

「万が一の事故でもモニタリングには問題なし」
 一部のモニタリングポストで放射性物質のデータが観測不能になっていたことについて山中委員長は今回は問題なかったとした。
 今回の地震でモニタリングポスト116ヵ所のうち最大18ヵ所が欠測したが、志賀原発から「15キロ圏内については欠測がなかった。万が一、志賀原子力発電所から放射性物質が放出される事故が起きても十分モニタリング出来る状態であったという認識です」。
 (会見の終わり近くで、総務からモニタリングポストからの通信に問題があったものの、計測自体はされていたとの説明があった)
 原発事故に備えての退避の目安はモニタリングポストによる放射性物質の放出の測定値に基づくと原子力災害対策指針では示されているとの疑問については、今回はこれまでのところ問題なかったと山中委員長は一蹴した。
 「そのうえで、可搬型モニタリング機器を設置する。あるいは設置も出来ない場合、航空機、ドローンのようなものでモニタリングする準備をしていたので、18ヵ所そのもの(の欠損)が問題だとは認識していない」。
 だが一方では、「従来の多重化では足りないので新たな手立てを講じる必要がある」との考えを明らかにした。
 今回の地震では家屋の全壊、半壊が多数となったエリアがあったために原子力災害対策指針の「屋内退避」という一つの前提が崩れたのではないかとの質問に対して、山中委員長は「屋内退避出来ない状況が起きたのは事実。その知見を整理したうえで必要であれば見直していきたい」と述べた。

正確な情報発信に向け努力必要
 北陸電力からの最初の情報では「志賀原発での火災」での謝った情報や、「変圧器から漏れた油の量」、「主水槽の水位の変化」についてのデータの修正などについては、さらなる情報発信についての努力の必要を説いた。
 「緊急時の情報発信、情報共有の在り方は福島第一原子力発電所事故の大きな教訓であり、日々訓練しているところです」。
 そのうえで山中委員長は大きな問題はないとした。「今回、原子力発電所の重要な情報に関しての大きな項目についての情報発信には間違いなかったと考えていますが、火災発生の有無とか水位計の変動についてなどは不十分で、まだまだ努力していただかないといけないと思っています」。
 原子力規制委員会はともに訓練などをしている事業者の情報発信・情報共有の在り方については「審査のなかで見ていきたい」と言う。
 志賀原発2号機の油漏れについて、山中委員長は2万リットルが漏れたが、これは全量に対して6分の1程度だと説明した。
 当初、北陸電力は3500リットルと発表していた。
 だが、山中委員長は「量云々というより内部の圧力上がれば油が漏れるという安定装置がついているので漏れること自体問題ではないが、破損して漏れたということについては原因を究明する必要」があると話した。
 津波については「非常に時間が短かったことについては当初は地震の規模だけが情報が入っていたので津波が生じるとは考えていなかった」と述べたが、正確な津波の到達時間については分からないとした。

未知の断層による地震?
 さらに、山中委員長によると、石渡明委員からは海岸の隆起については新知見ではないかとの考えが表明されたという。
 また「未知の断層から今回の地震が起きた可能性」に関して石渡委員から言及された。新しい断層がある場合には「それぞれの事業者(電力会社)が改めて評価するよう指示しているところ」だと山中委員長は発言した。
 約1時間半におよんだ定例記者会見では、朝日新聞、フリーランス、NHK、共同通信、東京新聞、河北新報、読売新聞などの記者から質問があった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?