見出し画像

UXデザイナーが定量調査を行うことで変わること

こんにちは!GoodpatchでUXデザイナーをしています田口です。
この記事では主にUXデザイナーの方やUXデザイナーを目指す方向けに「UXリサーチにおける定量調査の役割」について、リサーチ会社でプロジェクトを支援した経験や、その後、自身で新規事業開発やプロダクトマネージャーをしていた経験も踏まえて、ぼんやり思っていることを書こうと思います。

この記事で伝えたいこと

私の考える結論は下記のとおりです。

・定量的にボリュームがわかるので説得力が増す
・“このターゲット”や“この課題”を持っている人が実は少なかった、と諸々進めた後で発覚することが減り、プロジェクトの成功確率が高まる
・PdMに任せるのではなく、UXデザイナーもできるようになるべき

なお、定性・定量どちらがいい悪いを言うつもりは全くなく(もはや定性調査がなければUXデザインは全く成り立たないですし)、使い分けが大事である、という前提で、具体的にお話ししていきたいと思います。

よくあるUXデザインプロセスと課題

安藤昌也さんが『UXデザインの教科書』で示しているような下記UXデザインプロセスは、割と一般的になっています。

UXデザインの教科書をもとに筆者で作成

①②のプロセスでは定性調査(ここではインタビューを前提に話を進めます)を行い、ペルソナやカスタマージャーニーマップの作成、価値マップによる価値の探索、ユースケースを整理し、シナリオ作成などを行うことが多いです。

ペルソナ(左)と価値マップ(右)のイメージ

私も何度も行っている上記プロセスですが、割と初期に行うペルソナ作成が後のプロセスの土台・立ち返るものになっています。だからこそペルソナ作成時、もっというとターゲットを決める際には注意を払っています

※ぺルソナは「佐藤達也30歳。東京都在住。SaaS系企業のプロダクト開発部に所属。プロダクト開発の優先順位づけが課題」のように、一人の人物をイメージできるまで具体性を高めたもの。一方でターゲットは「東京都在住30歳男性」のように不特定多数を示したもの、と区別しています。

新規プロダクト開発での定量調査シーン

例えば、新規事業・新規サービス・プロダクト開発のシーンにおいて、ターゲットは様々な変数で決められます。

よくセグメンテーションに用いられる変数

割とどの業界でもサービスがコモディティ化してきている中で、新規参入時は様々な切り口の掛け合わせでターゲットを決めていくことが多いです。その際、地理的変数や人口動態変数の場合は、統計情報からターゲット市場の推計は難しくないですが、心理的変数や行動変数などがそこに組み合わさってくると、市場にどの程度その顧客が存在しているか見えにくくなってきます。

ここで一度立ち止まって確認したいのが意図せずニッチなターゲット設定をしていないか?という観点です。定量定性問わず社内に調査が根付いていない会社は、インタビューなどの定性的な情報や競合のポジショニングを踏まえ「自社の強みや技術を活かせそう」といった仮説からターゲット設定しているケースも少なくありません。(むしろそういう方が多い気も…)
だからこそ、下図のように、事前に定量調査を行い、その仮説を持っている人がどの程度いるのか?を量的に把握できると良いと思います。

スタートアップの撤退要因調査で、最も多い理由が「市場が存在しなかった」という結果もある通り、実はターゲットや仮説としている課題のボリュームが少ないケースはそれなりに発生するケースであり、だからこそ、事前に定量的に検証し、必要に応じてセグメントの再考をできると「プロダクトをリリースしたもののPMFできずに困ってしまう」なんてケースが減るのではないでしょうか

グロースフェーズにおける定量調査の使い所

定量的なボリュームの把握→深掘り

先ほどは新規事業・新規プロダクト作成のシーンに着目して話をしましたが、グロースフェーズでのUX改善のシーンにおいても定量調査は非常に有効です。グロースフェーズでは、プロダクトビジョンやミッション実現のため、もしくはKPI指標改善のために企画を検討し、UXデザイナーが体験設計することが多いのではないでしょうか。

例えば、上記のようなKPIにおいて、そもそも全体の数値はどうなっているのかをGAやカルテ等で定量的に確認したり、UXデザイナーが考えているKPI改善の課題仮説の検証も(簡単に実装できるものであれば、実装しABテストで良いかもしれませんが)それなりに工数をかけてみるのであれば、定量調査でボリュームを確認できるとベターです。体験設計から実装まで2〜3ヶ月ほどかけてやってみたけど、全然KPIにヒットしなかったといったことになるくらいであれば、1〜2週間でクイック&ダーティー&低コストで定量調査をかけてみることをおすすめしたいです。

定性的な深掘り→仮説の定量化

また、グロースフェーズでは、カスタマー自身やカスタマーサクセスなど社内外から絶えず改善要望が上がってきていると思います。上がってきた課題をそのまま鵜呑みにすることなく、本質的な課題の検証をしていることと思いますが、課題の優先順位に迷うようであれば、課題の定量的な検証を行うこともとても有効です。

私の入っているプロジェクトでは、プロジェクト初期に一通りリサーチを行いますが、その後も定期的にインタビューや定量調査の機会を設け、顧客の声を拾い、精査するプロダクトディスカバリーのプロセスを踏んでいます。プロジェクト初期ではどうしても全体感を捉えるリサーチになりがちで、プロジェクトが進行して行けばいくほど、より具体で解像度が低いケースが出てくるため、クイックかつ低予算で、顧客の声を検証できるサイクルを回すことが重要です。

なお、プロダクトディスカバリーについては長くなってしまうので、ここでは触れませんが、今やインタビューや定量調査ともに実施するコストは格段に下がってきており(この後ふれます)、継続的に顧客の声を拾い、反映させる仕組みを整えることができるようになってきています。Inspired の著者であるMarty Cagan氏もその大切さを語っていますので興味があれば見てみてください。

定量調査はインタビューと同じくらいクイックにできるようになっている…!

でも定量調査(アンケート調査)って高いし時間がかかる気がしますよね。私も100万円以上、2〜3ヶ月かかるイメージを持っていましたが、今や低コスト化が進み、びっくりするほどクイックかつ低価格で実施できるようになっています。

大手調査会社のセルフアンケートツール

例えばもっとも安いQIQUMOというサービスを使うと、500人に10問のアンケートを5.5万円で実施ができます。慣れれば設計に1週間、画面を作って回答を集め結果を確認するまで1週間ほどで検証ができます。
定性調査同様に、設計の仕方や考え方など最初に一定の知識をつける必要はありますが、それさえ身につけば、実施に向けたハードルはかなり下がるのではないでしょうか。インタビューも1人1万円を切るくらいから実施できるようにきており、ずいぶん調査のハードルが下がっているありがたい状況です。

調査の特性を理解し、うまく使い分ける

改めてですが、定量調査と定性調査、どちらが良い悪いではありません。それぞれの特徴を理解し使い分けることが大事です。

インタビューを重ねることで参加者内での傾向は見えてきますが、それがターゲットの全体傾向であると判断するには慎重になる必要があります。それなりの時間やコストをかけるような場合、リスクを軽減するため、定性調査の前後で、量的検証も併せて実装できると良いと思います。

定量調査と定性調査の組み合わせ例

職域を超えてプロジェクトの成功確度を上げる

いかがでしょうか。定量調査って若干嫌煙されてきたような気がするのですが「意外とハードル低くできる」って思ってもらえると嬉しいです。それでも「PdMがやればいんじゃないか?」「UXデザイナーがやることなのか?」と思われた方もいらっしゃるでしょうか。

人が潤沢にいて、かっちり職種ごとの線引きが決まっていればそれでいいのかもしれません。でも、プロダクト開発現場ではそういった線引きは曖昧ですし、何よりPdMの判断が正解なわけでもありません。だからこそ、PdMの言葉を良い意味で鵜呑みにせず、定量・定性含めた調査のファクトから判断していくことが、プロジェクトの成功角度を上げるのではないかと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?