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凛がうめた彼の菊|ショートショート|

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※やや下ネタが含まれます。

私、藤堂凛とうどうりんは気になる。

あらゆるものが私にどう作用するのか気になる。

例えば、ここ東京から香川の讃岐うどんを食べにいってその日のうちに帰ってきたらどうなるのだろうとか。
明日なんとなく北海道までいって眺める五稜郭がどんな風に見えるだろうとか。
モルディブで過ごす9日間のツアーが、私をどんな人間に変えてくれるのだろうとか。

そんなことが気になる。

国内でも最大の高低差を誇る岐阜のバンジージャンプは私に何を感じさせるのかとか。
女装した友人と歩く表参道は私をどんな気分にしてくれるのかとか。
バイクなんて手にいれてしまった日には、どこまでも自由になってしまうだろうなとか。

とにかく気になる。

でも不思議と一人だとやる気がでない。
誰かに誘われたら行くし、気になったことがあれば進んで誘いにいく。

私は時間も場所も選ばない。
朝の4時だろうが、夜中の3時だろうが、気になったら声をかける。
時には、声をかける前から友人の家の前にたどり着いて、家の外から電話をかける。

「海行かない?」
「凛?どうしたのこんな時間に。え、それっていつ?」
「今」

逃げ道をふさいで捕まえたら、たちまちプチ旅行の始まり。
江の島の向かいにある片瀬東浜海水浴場で夜明けを眺めてから、そのまま千葉の東京ディズニーシーを楽しみつくす。その翌日には青森のねぶた祭を目指して車を意気揚々と走らせるなんて毎日を送る。

国内をあっちらこっちらに飛び回る私をみて、みんなが不思議そうな顔をする。仕事ってわけじゃないのに、どうしてそんなにフットワークが軽いのか、と。

私からしたら、気になったことをそのままにしておくほうがよっぽど不思議だ。
身近な友人たちに「私って、狂人なのかな」と尋ねてみたら「ふつうに狂ってるよね」と言われた。
きっと、狂っているのはほかのみんなで、そんな狂っている人が普通な私を見るから「私が狂っている」と錯覚するのだろう。
至極当たり前の友人の意見を耳にできて、ちょっとした安堵が広がる。

私とって国内なんてのはすべて徒歩圏内。
昨日と今日の境目で決心さえしてしまえばいけないところはない。
行動は早いから、時間はいくらでも短縮できる。
その代わりにお金はいつも足りない。
通帳を開いて、月末までの残高を眺める。
そうして私の好奇心にやっと蓋をする。

私には彼氏がいた。
何の変哲もない、普通の彼氏だ。とんでもない嘘つきということを除けば、いたって「普通の人」だった。
大学時代に知り合った彼もまたフットワークが軽かったから、あちらこちら一緒に飛び回ったものだった。

二人で探求のたびに出掛けては、自分たちの変化を逐一報告しあっていた。旅にはまってからというもの、国内はほとんど行きつくした気がするけれど、結局私も彼も、大学で出会ったころのままだった。
好奇心の行きつく先が、単なる事実の答え合わせにすぎないことも多かった。
それでも、いくばくか心が満たされる感覚は確かにあって、私たちを次の旅にいざなってくれた。

「旅」なんて仰々しい言葉を使っているけれど、それは「普通じゃない人たち」に向けた言葉であって、わたしは「旅」だなんて微塵も思っていない。
せいぜい「散歩」くらい。

国内なんて全部徒歩圏内みたいなものなのに、なにかとお金以外の理由をつけてはみんな行けないフリをしているんだ、と、私は踏んでいる。
誰だって朝早めに起きたら散歩に出掛ける。五体満足な体があればぜんぜん簡単なことで、私はそこから足が伸びやすい人ってだけ。
だから普通じゃないのはみんななのだと私は思う。

ある時から、だんだんと彼が「普通じゃなく」なってきた。
何かと理由をつけて、旅行にいかなくなってしまった。
おおかたお金がないのだろうと思っていたから、深くは踏み込まなかったし、私は私で旅を続けていたから、退屈している彼に想い出話を語るのも悪くなかった。そのころ、彼は自宅にこもってずっと何かをしていた。


もともと私も彼もそれなりに奔放な性格で、別段セックスには困っていなかった。
「普通」に探求を繰り返して、ああすればこうなるってノウハウは着実に蓄積されていったけど、そのうち研究熱心なわたしたちは当然マンネリという結果にたどり着いた。けど、別にそれにも困っていなかった。
それも探求の果ての答えだと思えば納得もいったし、特に私と彼の関係にひびを入れるものではないと思っていた。

ある日、好奇心に負けて、自宅でこそこそとやっている彼の部屋に突撃してみた。
合鍵はもらっていたからお義母さんに挨拶して「部屋で待つ約束」を創って、帰宅時間までまだまだある彼の部屋に忍び込んだ。

2階の奥、親御さんの目がすっかり届かなくなった位置にある開かずの間をあけて中に侵入する。
収集癖のある彼の部屋はショーケースがとある壁一面にめぐらされていて、中には私との思い出の品たちが丁寧に飾られていたりする。それに対して特に感情を巡らすでもなく、パソコンやベッドの周りに視界を向ける。

なにやら、珍しいものが置いてある。
ふわふわと毛皮のような材質をした二つの輪っか。
穴ぼこだらけの知育教材にでも使われていそうなボール。
ピンク色のおもちゃにコードがついたような物体。

あまりに見慣れないものだから、一瞬それが何かわからなかったが、あっと気づいた。
これは大人のおもちゃというやつだ。
無防備にもパソコンの横に放っておかれたそれを見て、彼が何に執心しているか察する。
彼はどうやら新しい探求への扉を開きたいようだ。
なるほど、あちらはあちらでちょっとした旅を堪能していたわけだ。おもしろいからそのまま取り扱い説明書を読んだり、パソコンで調べものをしたりしながら彼の帰宅を待つことにした。

部屋に入った彼を待ち受けていたのは両手にアダルトグッズを手にした私だ。
びっくりしてドサリと肩掛けバッグを落とした彼はそのまま10秒くらいは放心していただろうか。
状況がようやく呑み込めてきたのか、彼はいつものよくもわからない日本語でまくしたててくる。

「え、なんで凛が部屋に、今日は遅くなるし一緒にいられないと事前に伝えてあったのに母さんはなんでそのことを疑いもせずにいれるんだって、まってくれその手にもっているのは違うんだこれは」

こうしてのべつ幕なしにしゃべり続ける彼の言葉を、はじめの頃は感心して聞いていた。
だけど、私の探求心を満足させる真理がそこに含まれていないとわかり、最近はどうしたらこのおしゃべりをとめて旅に注力できるかなんてことを考えはじめるようになった。

試しに左手にもっているバイブのスイッチを入れてヴヴヴヴと振動音を響き渡らせる。すると彼が口をあんぐりさせたまま動きを止めた。

これはチャンスと、私は本題に入ることにする。

「男の人ってお尻できもちよくなれるの?」

その言葉は知的好奇心を大いに震わせたようで、すっかり素直になった彼とあれやこれや段取りを決める運びとなった。

私もこれには期待していた。
いつもは入れられる側だったけど、逆の立場となると未知の世界だ。

といっても私はすこし潔癖症のきらいがあったから、試すときは絶対に旅先のホテルか彼の家という約束だけはとりつけた。
よくわからない未知の液体が私の家に飛び散ることを想像すると、さすがの探求心もしぼんでしまう。

どうやら彼も自分の体を開発しようと頑張っていたが、どうしても一線を越えられずにヤキモキしていたらしい。
そんな彼からのお願い事は「普通じゃない」人たちからすれば到底受け入れられることじゃないのだろうと思った。
男性の友人に片っ端から女装して表参道を歩くよう頼んでも、誰も答えてくれなかったぐらいだから。

でも「普通」なら気になるはずなのだ。こんな機会はそうそうないし、ひさしぶりに旅以外で面白そうなことが目の前に現れた。

快諾した私は、時間を見つけては彼の家に突撃し、探求の毎日を続けた。
乳首に振動する道具を押し付けたり、口にギグボールをはめて雰囲気を出したりしてみる。
しかしはじめた当初は大した反応が見られない。
押し殺すような声をあげる、というより、まるで自己暗示のように積極的に快感にむかおうとしているようで、あまりいじらしさも感じられなかった。
わざとらしく振舞う彼に対して、私なりにサポートを続けた。

つぎに腸内洗浄をしっかり施してから、彼の両手に手錠をかけて四つん這いにさせる。
そうして最低限の抵抗しかできなくなった彼をベッドに放置しながら、大量のバスタオルを用意して、ゴムをゆっくりと指に装着する。
後ろから彼の下腹部に近づいて、少しづつ異物の侵入を許す彼の体を労わりながら、ことを進めた。

最初は、指先の奇妙な感覚にちょっとだけ心が浮ついた。
昔動物のお医者さんって漫画で読んだ直腸検査を、人間でやれていることになんだか生命の神秘を感じてしまった。
彼の反応はこれまた露骨なもので、快感に向かおうと必死な様子だった。

中途半端にこりかたまった棒を同時に刺激して、菊門に快感の刷り込みを行うこと数週間。
ついに菊門の開発が完了した。彼はちゃんとイけるようになっていた。
彼は嬉しそうだった。私はよかったねって無機質に言った。

というのも、そのころには作業感が強くなっていたから、もう大した感想が私の中になかったのだ。
彼の体内への旅は、思ったよりも賞味期限が早かった。
日本一と呼ばれる長崎のイルミネーション観光にいきたかったし、ユニバーサルスタジオジャパンの新アトラクションに駆けつけたい気持ちでいっぱいだった。

たまに旅の予定がたたずに、彼の菊を攻める作業を従事させられた。
服役業務みたいな気分で彼をイかせては、よかったね、とか、気持ちよかった?と尋ねるbotになった。
そのうち菊を犯しながら旅行のプランを練るようになった。
できればスマホをいじりながらしたかったけど、彼の液体が私の所持品に触れるのだけは死んでも避けたかったから、さすがに実行には移さない。

そのうち私が捕まらなくなると、彼はひとりで研究をすすめるようになった電話ごしに報告を聞く。

「乳首でイケるようになった」よかったね。
「自分でもできるようになった」よかったね。
「こんなマシンを買っちゃった」よかったね。

私から「尿道を攻めたらどうなるかな」と試しに聞いてみたけれど、それは怖いからと入念に拒否された。
私の探求にはちっとも協力してくれる様子はないらしい。


それからしばらくして、彼の大嘘が発覚して、別れることになった。
彼は生来の嘘つきだったから今更だったけど、それに加えてすっかり普通じゃなくなってしまった彼に付き合う義理もなくなっていた。

こんなことを思い出したのは、「元」が付くようになった彼の誕生日が近づいてきたからだった。
一応、何かを送ってやるくらいの関係は続いていた。曲がりなりにも元旅仲間であって、簡単に彼との縁は切れずにいる。

ふと彼の菊門のことを思い出す。
反射的にスマホにキーワードを打ち込むと画面に「エネマグラ」が映し出された。
一瞬、これを贈ってやろうと思ったけれど、間女と仲良くやっているだろう彼らに放り込むのも忍びないと思い、リーズナブルなお酒を贈ってあげることにした。
ギフトを選んで、彼の住所を選択する。
取引完了のメールが届いたところで、彼の住所をまるっきり端末から消去した。
ちなみに彼は、まったくお酒が飲めない人だ。


現在、友人たちと広島行の新幹線に乗っている。100万のネモフィラ畑観光とお好み焼きを食べに向かう最中なのだ。
彼に贈ったお酒とまったく同じものを持ち込んで、座席のテーブルの上で蓋を開けて、飲み干す。

おいしい。
ちょっぴり背徳的の味がしたけど、私の探求心はそれっきりで満足してしまった。
「次は尿道を攻めさせてくれる人がいいな」なんてぼやくと
「やっぱり、凛は狂ってるね」なんて言われた。

それを聞いて、やっぱり私は普通なんだなと安堵した。


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