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大人も、自分を大切に。お互いの“人間らしさ”を感じる時間を過ごしたい。似内成美

こんにちは。ラーンネット・あーるnote編集部です。

今年6月で開校1周年を迎えるラーンネット・あーる(以下、あーる)。2024年度からは開校日が週3日から週5日となり、通っている子どもは18人にまで増えました。それに伴い、子どもたちとともに学び、探究心に火をつけるナビゲータも新たなメンバーを迎えました。今後の記事では、1人ずつナビゲータを紹介していきます。

今回インタビューさせてもらったのは、4月からスクールディレクター兼ナビゲータとしてあーるの子どもたちと過ごす似内成美(にたない なるみ)さん、通称なるちゃん。11年間、公立中学校の美術教員として生徒と関わってきたなるちゃんに、あーるの魅力と転職した理由を聞きました。


人権教育を学ぶ中で、視野が広がっていった

—— 最初に、自己紹介をお願いできますか。

はじめまして。似内成美です。これまで代表のいさみん(齊藤勇海さん)が担っていたスクールディレクターを引き継いで、スクールディレクター兼ナビゲータとして週5日間をあーるで過ごしています。スクールディレクターは、一般的な学校で言う校長のような立場です。もともとは中学校で美術の教員をしていたので、あーるでも主にアートを担当しています。

—— これまでの11年間は中学校で美術の教員をされていたのですね。どのような教員時代を過ごしていたのでしょう?

最初の9年間は、「私が市内の中学校の美術教育を引っ張っていくんだ!」くらいの意気込みで働いていました。美術に関する勉強会や美術館のイベントに足を運んだり、市内の研修会の代表もしたりしていました。

その後、10年目に校内の人権教育推進担当者になったことで、美術教育を中心に見ていた自分自身の視野が少しずつ広がっていったんです。人権教育に関わる課題として、インクルーシブ教育やジェンダー規範、年々増え続けている不登校の子どもの存在にも目を向けるようになりました。私にとっては、新しすぎる世界。その役職を担ったことがきっかけで、あーるの代表であるいさみんと出会うことにもつながりました。

あーる代表との出会いで、「オルタナティブスクール」を知る

—— どのような経緯で、齊藤さんと出会うことになったのでしょうか?

人権教育推進担当者になってからは人権に関する研修会にたくさん参加し、さまざまな価値観にも触れてきました。その中で出会ったのが、徳留宏紀(とくどめ ひろき)さんという方です。

徳留さんは元中学校教員で、学校を離れてからは大学院で非認知能力の研究をしたり、教育関係者や保護者に向けて講演を行ったりしていました。次々と新しいチャレンジをしていく姿に刺激を受け、出会ってからすぐに意気投合。その後、徳留さんから「紹介したい人がいる」と言われて出会ったのがいさみんでした。

当時のいさみんは小学校教員を退職し、ラーンネット・グローバルスクール(以下、ラーンネット)のナビゲータになったばかりの頃でした。たまたま3人とも同い年だったこともあり、一気に距離が縮まった感じもありました。

※ ラーンネット・グローバルスクール:ラーンネット・あーるの運営母体。あーるの他、「フルスクール」や「ラーンネット・エッジ」、「バンビーナ」なども運営している。

代表の齊藤勇海さんと

—— ラーンネット・グローバルスクールのことは以前から知っていたのでしょうか?

いいえ。実は、「オルタナティブスクール」という言葉を聞いたのも、そのときが初めてだったんです。それまで美術教員として熱心にやってきた自負はありましたが、「なんて狭い世界で生きてきたんだろう…」と思いました。

それから、2023年6月にあーるを立ち上げた話をいさみんから聞きました。大人も子どもも自分を大切にする。日常の中に余白をつくる。そんな価値観を聞いて、なんて素敵なスクールなんだろうと思っていました。

振り返ってみると、11年間の教員生活のうち、最後の2年間で急に世界が広がったような感じです。それまでは、中学校の美術教員としてずっと勤めていくと当然のように思っていましたから(笑)

子どもたちとの関わりを考え、教職を離れることを決意

—— どのような思いがあって、中学校を離れることにしたのでしょうか?

中学校での授業では、40人以上の生徒を1人で見る必要があります。そうすると、なかなか生徒一人ひとりと満足のいく関わりができないこともあって。もっと子どもたちと夢中になって、自分らしさを追求できるアートの授業をしたい気持ちがありました。

また、息子がこの春から小学校に入学するタイミングでもあったので、夫婦でお互いの働き方について話し合いを重ねていました。と言うのも、息子は1歳半健診を受けた頃に発達の遅れや偏りを指摘されて、ずっと児童発達支援事業所で療育を受けていました。けれど、私も夫もフルタイムで働いていたので、息子のことを考える余裕もないくらい毎日が目まぐるしく過ぎていたんです。

小学校に入学すると、息子自身の環境は大きく変わります。親として息子と向き合う時間をもっと取りたい気持ちがあり、中学校の教員を辞めることを考えるようになりました。そんなときに、いさみんからあーるでナビゲータを募集している話を聞きました。

—— ちょうどいいタイミングだったのですね。

そうですね。最初はまさか自分があーるで働くとは思っていませんでしたが、実践したいアート教育や息子との時間のことを考えると、新しい働き方にチャレンジするのもありかもしれないと考えるようになったんです。

実際にあーるで過ごすようになった今は、ミーティングのない日は15時半頃に退勤することができています。家に帰ってからは、息子の話をじっくり聞いたり一緒に絵本を読んだりする時間も取れるようになり、私自身が余裕を持った日常生活を送れている実感があります。

アートの時間

あーるは、“人間”を感じる場所

—— あーるのどのようなところに惹かれたのでしょうか?

一番の魅力は、子どもだけではなく、あーるに関わっている大人も生き生きしているところですね。あーるに限らず、ラーンネット全体に対して感じていることです。

実際にラーンネットでのミーティングに参加したときには、ナビゲータ一人ひとりが自分の考えを持っていて、それを思いっきり表現していたんです。その様子を見て、「人と人がつながるってこういうことなんだな」と感じました。それぞれが自分を大事にし、幸せな状態であるからこそ、人の幸せも願えるんだと思います。ラーンネットには、その土台があると感じました。

中学校の教員時代に一緒に働いていた先生たちは、自分たちのいろんなものを犠牲にして働く人がすごく多くて。みんな子どもたちのことが大好きで、いつも子どもたちのために何ができるかを考えている人ばかりだったのですが、他の業務が多すぎて常に余裕なく働いているような感じでした。

年1回の歓送迎会でじっくり話したときに、同僚の先生の好きなことや得意なこと、意外な一面を初めて知ることもありました。「一緒に働いてきたのに、全然知らなかったんだ…」と思うこともありましたね。そんな経験もあって、お互いのことを深く知れるような余裕のある働き方ができるといいなと思っていたんです。

あーるで働き始めてからまだ日は浅いのですが、ここでは“人間”を感じるんです。子ども同士の関わり、子どもとナビゲータの関わり、保護者とナビゲータの関わり…。あーるでは、人と人がお互いをじっくりと感じながら過ごしているような気がします。

—— これから、あーるで取り組みたいことはありますか?

当たり前のことですが、これまであーるを担ってきたいさみんにどんなに近づこうとしても、私がいさみんと同じようになることはできません。もちろんまずはいさみんがどんな風に子どもたちと関わっているのかをよく観察して、大切にしている価値観を感じとっていきたいと思っています。その上で、私らしさを大事にした関わり方をしていきたいですね。

そして、毎週月曜日は六甲山のびのびロッジに行くので、自然とアートを掛け合わせた時間を過ごせるといいなと思っています。あーるの校舎内だけではなく、街中に出ていく機会も多いので、人やモノとの出会いを大切にしながら、子どもたちの変化を味わう時間を過ごしていきます。

なるちゃんのInstagramでは、アートの時間の様子を投稿しています。


取材・文:建石尚子


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