櫻坂46「承認欲求」MVの(たぶん)最速解説

櫻坂 46 の新曲「承認欲求」の楽曲と MV が解禁されました。前作「Start over!」に続いて加藤ヒデジン監督が続投とは驚きです。自称ヒデジン監督の TO なので誰よりも早く映像解説を書きたい、という承認欲求が沸き上がります。
しかし、あろうことか自宅のネットワーク回線がリビングのテレビを除いてほとんど不通
になる異常でステキな事態に。映像のスクリーンショットすらできない状況なのでひたす
ら文字だけの解説になります、ご容赦ください。

トリッキーなカメラワーク

冒頭、ロケ地であるホーリネス教団淀橋教会の天井を大写しにした仰角映像から、背を向けて立つセンター森田さんの高さまで下がり、さらに急激に回り込むような形で正面を映す一連のカット。ワンカットで撮影したうえでスピードを上げていると思われますが、がたがた揺れたりせず自然に見せていて、さらにピントが全然ぶれていないところに驚きを感じます。超広角レンズを使用したのでしょうか。

クラシカルな撮影技法を非常に巧みに組み合わせて迫力を出していた前作に比べ、とにか
くトリッキーでホラーなカットを挟み込んでくるのが今作
。1 番 A メロでメンバーたちの
アップが続くシーンでは、真正面を向いたカメラ目線、かつ無表情の顔が連続して不気味さを醸し出します。
サビではヒデジン監督の十八番でもある円形モチーフが登場。SNS をテーマにした歌詞に
合わせ、中心で踊るメンバーを周囲のメンバーが円座になって撮影するシーンが入ります。

シャイニング、パプリカ、それとも?

2 番では場所がガラッと変わり、ホテルのような建物の廊下になります。ここも異様なほどに同じ構造(柱、照明、絵画など)が連続した空間で、だまし絵のようなホラーっぽさがあります。質感を見るに CG のような気がしますが、つるつるに加工したセットの可能性もあり、何とも言えません。
ホテルの廊下を舞台にした映像作品といえば、(ほぼ間違いなくヒデジン監督が大好きである)スタンリー・キューブリックの「シャイニング」が浮かびます。これまたお得意の左右対称な構図はまさにシャイニングですね。
一方、だまし絵のような見せ方だと今敏の「パプリカ」や、それにインスパイアされたであろう「インセプション」、さらには「チェンソーマン」にも似ているように思います。そして、つい先月ヒデジン監督の作品で、同じような廊下を舞台にした Sexy zone の「本音と建前」もありました。

その後廊下を一人で走っていく小林さんを追いかけるように、森田さんの後方から他のメ
ンバーが一気に走ってきますが、ここだけ動きが急にダイナミックになっていて浮いてい
るようにも見えました。できることなら、人ならざるものがヌルヌルと移動するような動きにしたほうがよかったかなと。

逆にサビにかけての横スクロールは目から鱗でした。一人一人は決して激しく動いているわけではないけど、画面全体をゆっくり平行移動させるだけで一気に味わいが増しま
す。これまたヒデジン監督作品の「夏の近道」でも廊下のシーンがあり、正面からのワンカットでフレッシュな躍動感を出していましたが、今度は横から捉えることで全く別の見せ方に成功しています。膝スライドダンスをここに入れてくるのも大正解ですね。床・壁・天井が一度に映るほどの引きのカットって撮れるのかな、とも思いましたが、TAKAHIROさんの投稿に廊下の風景が出ているので、CGではなく大がかりなセットなのかもしれません。
また、1 番から随所で風になびくドレスのカットがありますが、この 2 サビ前のドレスの大きさはどうなってるんだ?これも極端なレンズの使用、あるいはその後の画像編集によるものでしょうか。専門家がいたら教えてほしい。

カメラの横幅が足りないならつなぎ合わせればいいじゃない(?)

少し話がそれますが、MV や映画をはじめとする映像コンテンツでは画面の縦横比(アスペクト比)に作家の個性が現れます。ヒデジン監督はテレビに近いスタンダードな比率の画面のことが多いですが、「流れ弾」「摩擦係数」「静寂の暴力」などを手掛けている池田一真監督は横長の画面を好んでいます。大勢のメンバーを一つの画面に映し出せる点では横長の画面が向いていますが、ソロや少人数のアップではむしろ横に長すぎない方が、縦の長さを目いっぱい使って迫力のある画面になります。
これまで横長ダンス映像を使ってこなかったヒデジン監督でしたが、ここへ来て横長解禁。
それも尋常じゃなく長い。何だこれは?
およそ普通のカメラで撮れる幅ではありません。どうやって撮ったのか分かりません。背景が全て CG で、別々の場所で撮影したものを合成しているか、あるいはセット全体で同時に複数のカメラで撮影したものを繋ぎ合わせたか。森田さんが空中浮遊しているカットなどは合成が多いように思えたので、CG 前提と考えてもよさそうですが、うーん分かりません。

白い布の意味とは

冒頭のタイトルは白文字、衣装も白が基調で、時々巨大な白いドレスが出てきて、さらにはホテルのシーツのような白い布にくるまれて浮遊するように、ひたすら白い布が出てくるのも特徴です。ヒデジン監督ご本人の言葉にある「意思に敷かれる」を表現しているのかもしれません。また、前作での黒いカジュアルな衣装との対比という観点で見ても面白そうです。これは衣装担当のスタッフさんの領域かもしれませんが(スタッフクレジットが読みづらくて誰か分からない…)、一見統一的なオフィス服に見えながらも、「凝り固まったものを破壊するような単純さと無邪気さ」(ご本人談)の演出に一役買っていた衣装と正反対のものをぶつけてきたのではないか。いかにも純粋無垢な象徴に見えるものが、案外がんじがらめな存在になるというメッセージを落とし込んだのではないかとも思えます。冒頭で森田さんが眼鏡姿なことからも、「Start over!」との連続性は意識していると思いますし、また歌詞の方向性にも沿っていそうです。

監督、次も待ってます

ここまで見てきた「承認欲求」MV でしたが、正直な感想としては「曲も映像も前作に比べればある程度想定内」というところでしょうか。BLACKPINK のような K-POP 要素強めのサウンドはスタイリッシュでかっこいいですが、劇的な転調は少ないので、その分映像もおとなしめだったと思います。無機質で不気味なカットやスマホを使った演出もその場その場でインパクトはありつつ、全体を通してみたとき、主に 1 番やラストのサビのダンスシーンと見事な化学反応になっている、とまでは至らなかった気もします。ぶっちゃけ、一番強烈だったのは実写アーニャばりのピンクヘア小池美波さんでした。まじで誰が考えた、あれ。歴史の授業で戊辰戦争のイラストに赤髪官軍兵士が現れたときに通じる驚きでした。
とはいえ、毎回新作が出るたびに画面にくぎ付けにしてくれるヒデジン監督の魅力は私ご
ときが語り切れるものでもありません。きっと私が理解できてることの 100 万倍くらいア
イディアやメッセージが詰まってると思います。まだ足を運べていない新せ界リニューア
ル展示も合わせ、今後の作品が待ち遠しい限りです。

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