空き家対策に「さかさま不動産」 借り主が家主を募集 全国に広がる

地方に移住して夢をかなえたい若者を、空き家を貸したい人につなげる新たなサービスが全国各地に広がっている。長野県辰野町でも始まったそのサービスの名は「さかさま不動産」。貸主らが物件の魅力をPRして借り手を募るのが不動産ビジネスの常識だったが、さかさま不動産は借り主が家主を募集する逆転の発想で始まったサービスだ。 1月22日、辰野町中心街にある改装中の建物で、2022年12月に東京から移住してきたばかりの絵本作家、秦敬仁さん(34)が、地域のまちづくりに取り組む一般社団法人「○(まる)と編集社」代表理事の赤羽孝太さん(41)と話し込んでいた。秦さんは、書店兼ギャラリーを開くという夢をかなえるために「100平方メートル以上、家賃は月5万円前後」と借りる物件の条件を伝え、「貸主にアピールする上でも、子や孫の世代が集まれるような場所にしたいと思う」と意気込んだ。

 赤羽さんは、自身が2022年7月に立ち上げた県内の営業拠点「さかさま不動産長野支局辰野営業所」のホームページに秦さんの紹介文を入力する。「地域の人たちに受け入れられそうな提案だ。すぐに貸してくれる人がみつかると思う」と笑顔だった。

 同町出身の赤羽さんは、大学進学を機に首都圏へ。1級建築士として都内に設計事務所を構えていたが、地元に貢献したいと考えて16年に「町集落支援員」になり、町にUターンした。そして、空き家の持ち主の多くが「若者たちに貸したり売ったりしても、地域にうまく溶け込めるのか。どういう人か分からない人に譲るのは怖い」と考えていることを知る。そうしたミスマッチの解消が地域づくりにつながると考えた。

 その後、「○と編集社」を起業。横浜市内に拠点を残しているが、町での生活は年間9割を超え、故郷で14年10月に自らが中心となって立ち上げた空き家バンクの運営にも関わってきた。

 地域で掘り起こした優良な空き家をバンクに登録し、新たなサービスで借りたい若者の熱い思いを持ち主に伝えたい。赤羽さんは「地域が欲している『良い人』をたくさん集め、県内のあちこちに紹介したい」と話す。

 町も赤羽さんらに空き家の情報を提供するなど、全面的に協力する。まちづくり政策課の一ノ瀬敏樹課長は「貸主が増えることは空き家の解消につながるはずだ」と期待を寄せている。若者たちの紹介文は、空き家を所有する高齢者でも容易に把握できるよう、A4サイズのチラシにして公民館で配ったり、回覧板で回してもらったりする計画だ。(安田琢典)






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