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短編小説「枯れ葉の私」

その日もまた、風が冷たく吹き抜ける。街は人々で溢れ、車が行き交う。私は一つの枯れ葉だ。孤独な存在。誰もが私を踏みつけて、見向きもしない。ただ、風に揺れ、地面を転がる。それが私の生きる証。季節は移り変わり、私もまたその一部となる。

初夏の陽光が、枝に茂った木々の間から差し込む。私は枯れ葉の中で、その光景を静かに眺める。夏の訪れは、新緑の葉々が風に揺れることで告げられる。私はただ、その美しい風景を見守ることしかできない。私は過去の季節の名残りであり、新しい命の息吹を感じることはできない。

しかし、私もまた自分なりの役割を果たしている。地面を覆い、栄養を提供し、新たな命の芽吹きを支える。時には雨に濡れ、時には風に吹かれ、季節の移り変わりを静かに見守る。それが私の使命だ。

秋が深まり、風はますます冷たくなる。街は紅葉で彩られ、人々は厚着を身にまとい、街頭で暖かい飲み物を手にする。私もまた、その中でただひたすらに静かに在り続ける。季節の移り変わりに従い、風に揺られる。時には強い風に巻き上げられ、空高く舞い上がることもあるが、いつも地面に戻る。私はただ、そこに在り続ける。

冬が訪れ、街は雪に覆われる。一面が真っ白に輝き、寒さが身に染みる。私もまた、その中で凍てつく季節を静かに迎える。枯れ葉たちは白い雪の下に隠れ、眠りにつく。寒さの中で、私はただ一つの存在であり続ける。季節が過ぎ去り、春が訪れるまで。

そして、春が訪れる。雪が解け、地面が暖かくなる。枯れ葉たちは眠りから目覚め、新しい命を求めて地上に顔を出す。私もまた、その中で一つの枯れ葉として生きる。新しい葉々が芽吹き、風に揺れる中、私は静かに在り続ける。

季節は移り変わり、街は変わっていく。しかし、私はいつも変わらずそこに在り続ける。枯れ葉の私。孤独な存在だが、それでも地面に根を下ろし、季節の移り変わりを静かに見守る。それが私の役割であり、使命だ。

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