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[エッセイ]風薫る季節〜私は小説を書き始めた (約1400文字) #色のある風景#風薫る


風薫る昼下がりの公園
藤棚の木漏れ日
散歩する犬
駆け回る幼な子
まだ傾かない日差しの中を行く母の
片方の手に買い物袋
もう片方に幼な子

親子連れを優しく見つめるのは
ベンチに腰掛ける
いぶし銀の髪を束ねた御婦人

ツバメの子は、やがて巣立ち
雀の子は、飛び方を覚える

葉桜揺らす風は万物を育む
母の眼差しを持っているような気がする…


風薫る五月の公園



春はあけぼの
やうやう白くなりゆくやまぎわ…

清少納言 枕草子

家庭訪問期間中の早帰りの午後、
たびたび祖母を見舞った。
病室で入学したばかりの高校生活の話をしたり、古文で習った、
清少納言のこのフレーズを音読したりした。

五月には特別な空気がある…
それは母を想う風である。



幼い頃はデパートで、祖母への母の日のプレゼントを買う季節でもあった。

「ピンクやオレンジ色の、もう少し明るい色を選べば良いのに」
と私は言ったが、母は、
「これが似合うと思う」と言って、
祖母に「ちょっとグレーがかった色」のカーディガンやベストを選ぶものだった。



やがて時が過ぎ、母の日は、私が母にプレゼントを贈る日となった。

お菓子やカーネーションに添え、
あまり自分のものを買わない母のために洋服を選んだりもした。

デパートに行ったり、テレビ通販や
ネットで探したりもした。

深夜0:00に始まる番組で
「お母様世代の方には、こちらのグレーがかった色の方が顔色が映えますよ」とバイヤーさんは語った。
「なるほど…そうだったのか」
ちょっとグレーがかったアンサンブルを選んだ。


ある年、母は、「ピンク色の服が着たい」と言いだした。

その頃から私にとっての「母の日」は
年に何回も来るようになった。

ピンクのTシャツ、
ピンクの花柄の長袖、
ピンクがかったバラ柄のボレロ
ピンクのチューリップを植えたり
ピンクのマーガレットを植えたりもした。

ピンクのマーガレット
マーガレットのピンクもいろいろ


その傍で、私は小説を書き始めた。
あらすじを考えるたびに、私は母にその構想を語った。

青の都サマルカンドの沙漠のオアシスを染めるオレンジ色のグラデーションの夕焼けの美しさ。
「まるで、そこに行ったような気がするよ」と母は言ってくれた。
わたしの心にある、行ったこともない沙漠の風景を心に描いてくれているようだった。

砂漠のシーンにはラクダが登場する。
ひとこぶラクダ、ふたこぶラクダの分布や、野生化したラクダの話等々…
熱心に語る私に、母は、
「あんたは、おもしろいね」
と笑って聴いてくれた…


私は去年は、リハビリ用に使ってもらいたいと、「アフタヌーンティー」のピンクのポシェットを贈った。
それにちょうど入るくらいの
スヌーピーの絵のふわふわのハンドタオルを添えて…



今年、母のいない初めての母の日を迎える。

一度も使わなかったポシェットは、今、私のもとにある。

風薫る五月
もうすぐ私は生まれ育った
この土地を離れ旅立つ。

優しい風が葉桜を揺らし川を渡る季節は、いつもより、ゆっくりと過ぎている。
藤の花に気づかぬうちに藤棚の葉は、いつのまにか日差しを遮るに充分なくらい茂っている。

風薫る五月
私は、そのポシェットを持って、
新しい土地を歩くことになる。

そこで、あの砂漠の続きを書き綴ろうと思う。


春はあけぼのなら
風薫る五月は私にとって、
何もかもを育むような季節…
母を想う季節なのである。

イチゴ色の
濃いピンクの躑躅
いちごミルク色の
ピンクの躑躅
ピンクの寄せ植え
ピンクミックス
散歩道のピンクのマーガレット




小牧幸助さん
いつもありがとうございます。
企画に参加させて頂きます。
よろしく、お願い申し上げます!

#シロクマ文芸部
#風薫る


1000文字超えてしまいましたが、
主催の三羽 烏様より参加の許可頂きました。ありがとうございます😊
参加させて頂きます♪

#色のある風景

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