見出し画像

日本から船便で届いた大切な手紙

娘の高校留学を機に、メルボルンに移住して397日となりました。日本にいる夫から大きなダンボールが二つ船便で届き、その中に一通の手紙が入っていました。


先月の中旬、義母が亡くなり、山口県・萩にある夫の実家に一時帰国をしました。葬儀を終え先週メルボルンに戻ると日本で暮らす夫から船便で大きなダンボールが二つ届きました。

メルボルンの冬に備えてダウンやセーター、食料品がほとんどでしたが、その中に私と娘にあてた義母からの手紙が入っていました。日本からこちらへ発送したのは2月下旬でしたが、船便だったのでゆうに2カ月かかりました。

見た瞬間に涙腺崩壊

その手紙は、夫が娘にプレゼントした本の間に挟んでありました。先週、お別れしたばかりの義母からの手紙を見た瞬間、私はひどく動揺して、この時点で涙腺崩壊。亡くなった人から、こんな形で手紙を受け取るのははじめてでしたから。

義母は手紙を書くのが好きな人でした。いつもの美しい筆跡と大好きな鳩居堂の封筒と便せん。それを手にしただけで涙が止まりません。となりにいる娘も私の気持ちをすぐに察知して、“大丈夫? あとで読んだら”とやさしく声をかけてくれました。それでも、私は義母からの手紙を読みたくて、読みたくて、どうしても読みたくて、感情がどうにかなってしまっても、読みたいと思いました。

手紙には昨年末にオーストラリアから送ったクリスマスプレゼントやメッセージカード、フォトアルバムのお礼、一昨年のお正月に萩で一緒に食べたバナナパフェがおいしかったこと、普段の暮らしぶりが細かく書いてあって、すぐそばにいるような気持ちになり、話しているようでした。

“娘にたくさん友だちができますように”、“ふたりとも身体に気を付けるように”、そして手紙の最後には、“また逢える日を心待ちにしています”と書いてありました。4枚の便せんはびっしりと文字で埋まり、4枚目の最後は文があふれるほど、たくさん、たくさん、書かれていました。2月5日、亡くなる2ヶ月前の日付でした。

しばらく何も言えず、ただただ涙が止まりません。となりにいた娘もじっとだまっていました。ひとこと、“私は、今は読めそうにないや。もう少し時間が経ってからにしようかな”と言いました。“うん、そうだね。読みたくなったら、読めばいいよ”、泣きながら言いました。

きっと一緒に過ごした最後の日、笑っていただろうな

お通夜は、葬儀所にある宿泊所で義母の棺のそばに布団を3組敷き、ひと晩一緒に過ごしました。正直、葬儀所で寝るのが少し怖くて、夫に“テレビをつけっぱなしにしてほしい”とか、“一緒にトイレいこう”とか、“お風呂に入るの、どうしようかなあ”、なんて言っていました。そんな私や娘に夫は、“何言ってんの、大丈夫だよ”とほほ笑んでくれました。こんな状況でも、変わらず私たちにやさしく接してくれました。

私たちのそんなやりとりをきっと義母も笑っていたと思います。夫と結婚して今年で25年になりますから、義母ともかなり長い付き合いです。私は義母の前でもさほど変わらない性格なので、”円さんは、相変わらず面白い人ねえ”って思っていたはずでしょう。

萩の実家に戻り遺品整理をしていると、可愛いカメオのブローチを見つけました。義母はお洒落が好きな人で、スカーフやブローチ、イヤリングをよくつけていました。私が美容ライターということもあり、義母に似合いそうな口紅やチーク、香水を選んであげるとすごく喜んでくれて、“円さんは、素敵なお仕事をされているわね”って、よく褒めてくれました。

当たり前のようで、当たり前ではない1日を大切に


義母からもらった最後の手紙を読んで、これからの人生についてより深く考えるようになっています。
初回記事のnote『はじめまして』の中で、“自分はこれから、どう生きたいのか”ということを自身に向けて書きました。義母の手紙に、“身体に気を付けて、良い生活である様祈っています”、娘には、“たくさんお友達を作って、世界に羽ばたいて下さいね”とありました。私は、娘が高校を無事に卒業できるようメルボルンでの暮らしを全力でサポートしよう、日本にいる夫にも心配かけないよう、さみしい思いをさせないようにしようと、心に誓いました。

1日、1日、大切に生きよう

人生には必ず終わりは訪れます。

高齢ではありましたが、2ヶ月前、義母は私たちに逢えることを楽しみしていました。叶えてあげることはできませんでしたが、亡くなった後に届いたこの手紙には、たくさんの愛が溢れていて、読み返すたびにすぐ私のそばでほほ笑んでいるように感じます。

身近な人の死、とくに家族を失うとこれからの人生を考えるきっかけになります。
7年前に父を亡くした時も、そう思いました。義母は、私たちに“良い生活”であることを祈ってくれています。私にとって良い生活とは、”1日、1日を大切に生きること”。人生って、1日、1日の積み重ねですからね。

メルボルンに移住して、生活も環境も一変し、何なら“人生再スタート”ぐらいに感じた1年でした。どうしようもなく落ち込み、沼にハマった日もありました。謎の胃腸炎にかかりトイレから出られない日もありました。最近はどうも体調に対して過敏になり、少しの頭痛でも心配しすぎてストレスになることもあります。そんな感じで海外暮らしをしていますが、それでも自分で決めた移住でしたし、日本にいる夫、家族にも背中をたくさん押してもらってここにいます。やはり、感謝しかないのです、ありがとう。

私は50歳ではじめて海外移住しましたから、人生100年としたらちょうど折り返し。
とはいっても、人の寿命はわかりません。今、私が人生のどの地点にいるかは謎です。

だからこそ、1日、1日を大切に生きたい。

当たり前のようで、当たり前ではない、明日に向かって前を向いていくだけです。

お母さん、お手紙ありがとうございました。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?