バーチャルエンジニアリングまとめと感想

 少し前ものづくり太郎さんがおすすめの本として紹介してて話題のバーチャル・エンジニアリング(内田孝尚著)。実は前からメルカリで購入したまま置かれていたので、読んでみました。せっかくですので、感想を描いて見たいと思います。


概要

 著者は自動車メーカーのホンダでCADシステムや3D図化プロジェクトの統合リーダーをされていた方です。バーチャルを利用した欧米のものづくりと日本を比較しながら、最新のバーチャルでのものづくりを紹介しています。 
 バーチャル技術の発達による自動車における企画から設計、開発、量産、営業までの流れの変化を説いており、日本の匠の技術や現場を中心としたものづくりの変化の必要性を訴えています。主な概要は下記3点です。

モノができる前に全てが決定している。スリアワセをより効果的にするものがバーチャルエンジニアリング

 バーチャルエンジニアリングとは、3Dデータや高度なシミュレーションソフトなどを利用して、バーチャル上で設計を完成させること。そのため従来ものを作ってから検証を行っていたことをデジタル空間ででき、設計・開発期間を大幅に短縮できる。さらにバーチャル上のため、様々なスペシャリストが企画・設計段階から参加することができるので、従来少人数で行っていたスリアワセをより高度に行うことができる。

従来 
 企画→構想設計→詳細設計(試作やテスト)→量産→セールス
 試作をしてみてからのスリアワセを行う現場の技術力が鍵。機能を満たす最適解を決めるのは生産現場。
※スリアワセ…実物を目の前にして強度や機能などを検証、様々な試作・テストを繰り返して製品を改善していくこと。まとめチームが行う。

VE(バーチャルエンジニアリング)
 現場で行っていた詳細設計(試作やテスト)・スリアワセ作業をバーチャル上で行う。物理的距離などにとらわれず誰でもいつでも参加できる。そのため企画・構想設計段階から、各スペシャリストが(バーチャル)スリアワセ作業に参加できる。参加者はまとめチームだけでなく、スタイリング、企画、設計、製造、ユーザーまで広がっているため、様々な意見を企画・構想設計段階で知ることができる。
バーチャル上で行うことで設計時に製造を考慮して検討でき、機能を満たす最適解を様々な関係者で決定することができる。

日本のものづくりが得意としてきたスリアワセのスペシャリストである匠の技術者こそVEとマッチングさせることでより効果を発揮することができる。

3D図面によるものづくり

 欧米では2005年あたりから3D図によるものづくりが主流。それまでの寸法が書かれていただけの2D図から図面の役割が変わっている。

2D図…寸法交差中心。製造現場の人が図面を読み取って製造。現場のやり方に委ねられる。

3D図…幾何交差中心。加工ツールと検査システムが正確に機能すればどこで作成されても同じものができる。

さらに3D図のルール・機能が拡張されて、属性情報を持たせることが可能になっている。属性情報を元に製造するため、3D図自体が製造仕様書となる。例えば、溶接する部品の場合、寸法を元にした溶接の位置だけでなく、流れる電流値や時間なども指示することなど。
※属性情報…寸法だけではない製品の仕様や機能の情報。色や材質、強度、製造方法など。

属性情報を持った3D図により、標準化することができ、理論上、世界中どこでも、誰でも同じ品質、同じ強度のものができる。そのためメイドインジャパンの品質のみが強みではなくなる。


シーンベース開発

製品の使われるシーンをイメージして、その状況で必要とする機能や課題をバーチャルモデルで検証、設計仕様を決めていく手法。欧州では道路が0.1mm単位でバーチャル化しており、ドライバーの属性情報(年齢や運転技術など)も特性として持たせてシミュレートしている。
 3D図とバーチャル技術があれば実施でき、今まではハードウェアを作ってからしか検証できなかったことを事前に検証して開発ができる。

従来
完成車メーカーは部品がサプライヤからきて、組み上げて初めて検証→図面修正していた。そのため手戻りが多く、完成車メーカー主体だった。

シーンベース開発
サプライヤ側もシーンモデルができた段階でバーチャルで機能を検証できる。そのため完成車メーカーとサプライヤで共同設計ができる。
→完成車メーカーは企画ブランド構築・構想設計に集中してデザインできるようになり、ビジネスモデルが変わる。

高品位・高精度はNC機と3Dデータがあればできるので、「人々の欲求を具現化するコンセプトの創造」が重要となる。

感想

 昨今日本でも図面の3D化や工場をデジタルで再現するデジタルツインという言葉はよく聞きますが、それらの本質を理解できました。個々の作業が効率化(例えば3D図の方が干渉確認がしやすい、デジタル上でレイアウト変更の確認ができる。など)ではなく、「ユーザーも含めた様々なスペシャリストが企画・構想設計段階から参加することで全く違う、よりユーザーが利用するシーンに合わせたものづくりができること」が本質だと理解できました。
 この本は著者が自動車メーカーの方なので、自動車の開発・設計に合わせて書かれているため、話も理解しやすい面もありました。(例えばユーザーが使用するシーンは想像がしやすかったです)。ただこれは自動車に限らずどのようなものづくりでも同じことがだと思いました。

 高品位で高精度なだけでなく、使われるシーンをイメージしてより人々の欲求を具現化するコンセプトを創造することとは、モノではなくコト(サービス)売りが必要ということと同義と感じました。これらはものづくりを行う企業・個人全ての人に言えることだと思いました。

 しかし反面、やはりそのコンセプトを実現する技術も重要であることには変わりはなく、自社や自分のできる人々の欲求を解決する方法を模索、挑戦し続けることが大切ではないかと考えました。
 例えば、3D図とNC機があっても、NC機が常に求められた精度を出すためには匠の技術者のきさげ作業が施された機械が必要であったり、自動車部品でもバーチャルでの検証から実際のものづくりの方法を利益が出る形で考え、ライン構成することなども匠の技術・知見が必要だと考えました。

 バーチャルエンジニアリングによって、企画・設計段階で様々な人が関わることができ、試作する前にある程度検証ができることはわかりましたが、実際の製造現場ではそのような体制はなかなか取れていないと思います。まだまだ2D図でのやりとりも多いです。そのためまずは3D図、及びその3D図に属性情報を持たすことから始めて、徐々に工程をバーチャル化していくことが必要であると思います。


久しぶりの記事投稿

また久しぶりに記事を書くと、非常に書くのに時間がかかり、文章も思うようにまとめられませんでした。感想も本当に簡単な感想しか書けず、少しショックでした。記事を書くことも、他のことと同じくコツコツ継続することが大切だと痛感しました。また自分の考えや気持ちを書くことをぼちぼち継続していきたいと思います。

 




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