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東京サッカーに存在する『領土問題』『歴史認識』 2019アウェイ東京V

「歴史は勝者が作る」という言葉があります。

世間的には勝者の記憶しか残らないですし、また勝者の行ったことは「勝ったから」という理由で正当化されます。しかし、真実はいつも一つとは限りません。敗者の立場から見た歴史というものもあるはずです。

そして、日本サッカーにおいて東京ヴェルディというクラブは、まさに「敗者の歴史」を体現しています。

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著者 円子 文佳 (まるこ ふみよし)
Twitter https://twitter.com/maruko2344

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3月30日、柏レイソルはJ2第6節、アウェイで東京ヴェルディと対戦しました。

この試合、シュート数では26対4と柏が圧倒的でしたが、試合結果は0-2で柏の敗戦でした。

試合内容については例によってスルーしますが、飛田給という地を訪れて考えたことを書いていきます。

日常の中にも旅はあります。

僕は柏レイソルを応援していますが、住んでいるのは東京都です。

しかし僕の家の位置からだと、柏よりも調布の方が遠いです。そして、東京Vの試合を見に味スタに行くのは9年ぶりです。東京とはいえ、そこに旅を見つけることは出来るかもしれません。


・青赤一色(?)の飛田給

味の素スタジアム。東京ヴェルディの試合で来るのはかなり久しぶりです。
最寄り駅は京王線の飛田給です。このスタジアムはFC東京もホームとしています。


そしてスタジアム周辺の風景。どこもかしこも青赤のカラーリングで、ヴェルディのホーム感が全くないです。この日は敵の東京Vでしたが、可哀想に思えてしまうほどです。

これはなぜでしょう。こういった何気ない出来事について、普段と違う角度から考えてみることは旅といえます。


・東京Vは調布市でホームタウン活動を行えない

東京V、FC東京とも、ホームタウンを「東京都全域」としています。
しかし、「出資自治体」に違いがあります。東京Vの出資自治体は、稲城市、多摩市、日野市、立川市です。一方FC東京は、三鷹市、府中市、調布市、小平市、西東京市、小金井市です。
地図にすると下のようになります。赤丸の位置が味の素スタジアムです。

お互い、相手の出資自治体ではホームタウン活動を原則として禁止する、という取り決めがあるそうです。そして、肝心の味の素スタジアムは調布市にあるのですね。
そのため東京Vは、調布市にある味スタ周辺ではホームタウン活動が出来ない、なのでスタジアム周辺が青赤一色(変な表現ですね)に染まってしまっている、という説明です。

でもおかしいですよね。現にヴェルディも味スタを使っているのに、「スタジアム周辺は調布市だから、緑の看板を出すのは禁止だ!」というのは不自然だと思います。そして、おそらく緑の看板を出すこと自体は禁止されてはいないでしょう。


・東京Vは人気がない?観客動員を比較してみる

何か規制や制度のせいで飛田給に緑が少ないわけではなく、市場のメカニズムによって自然とこのようになっている、という考えもあるかと思います。「FC東京は人気があり、東京Vはファンが少ないから、味スタ周辺は青赤一色になっている」という説明です。

確かに現状のFC東京と東京Vを比べると、人気の差はかなり大きいように感じてしまいます。とはいえここ十数年は、両チームの在籍しているカテゴリーが違います。FC東京は基本的にJ1で、東京VはJ2でした。そしてJ1に在籍している方が観客動員数は自然と多くなります。

両チームとも2001年よりホームスタジアムが調布になっています。それ以降の1試合当たり観客動員数をグラフ化してみました。

大きな差があるように見えますが、東京Vは2006年にJ2に降格しています。それ以降、2008年に一度だけJ1に昇格した年があります。逆にFC東京は2011年の一年だけJ2に降格しています。おかげで今回、データ的には良いサンプルが取れて助かります。


・『F:V=5:3』?

近年の観客動員数は、FC東京は大体25000人、東京Vは6000人になっています。2011年、J2時のFC東京は17562人で、およそ8000人減りました。逆に東京VはJ1時の2008年が14837人で、9000人増えています。どちらもカテゴリーの上下で10000人弱の変動が起こります。

まとめると

・東京Vとは、J2在籍時は1試合6000人を集めるクラブである。

・それがJ1に昇格すると9000人増加して、1試合15000人になりそう。

・一方FC東京は、J1在籍時は1試合25000人集めるクラブである。

ということになります。

仮に東京VがJ1の場合は1試合15000人になるので、FC東京とは10000人の差がある、ということになります。この数値は、「J1という装置を利用して、クラブが集客できるポテンシャル」であり、いわゆるクラブの人気=ブランドイメージの数値、ということになるのかなと思います。これがF:V=25000:15000で、比率にすると5:3ですね。

現在のサッカーの実力込み(お互いのJ1、J2というカテゴリーも含めて人気の差と考える)だと、25000:6000なので、およそF:V=4:1になります。こちらの方が一般的なサッカーファンのイメージに近いと思いますが、何かのはずみで東京VがJ1に昇格した場合はそうではなくなります。


今回は2001年からと20年近くに渡っての変化を観察しています。正直、ヴェルディが衰退している、FC東京が伸びているという先入観がありました。しかし観客動員数ということでは、2004年頃からは実はどちらもほとんど変化がないと言えそうです。良くも悪くも。

この数値に対して、飛田給駅前の青赤一色な光景はリーズナブルでしょうか?現状の観客数(F:V=4:1)に対してはそうとも言えるし、本来のポテンシャル(F:V=5:3)からすると偏りすぎとも言えるかもしれません。J1に昇格すれば観客数が増えるということは、地元でもっとプロモーション出来ればそれによって観客数が増える可能性はある、という考えです。


・ヴェルディ、読売、「悪」のイメージ

古参の「Jリーグファン」の間では、ヴェルディに対して「悪」のイメージを持つ人も少なくないと思います。

ヴェルディというクラブは、Jリーグ開幕当初は川崎をホームタウンにしていましたが、親会社だった読売新聞や「ナベツネ」がゴリ押しして東京への移転を進めようとしている、と報道されていました。僕も当時、大学2-3年生ぐらいでしたが、「ヴェルディは地域密着の理念に反する、悪のクラブである」と思っていました。そして実際に2001年(この時すでに読売新聞社はヴェルディの経営から撤退しています)からヴェルディは東京に「移転」しています。

「ヴェルディは川崎を捨てた過去がある」という歴史認識です。そのため現状では味スタ周辺が青赤一色となっていることについて、「ヴェルディみたいなチームは、地元の協力を得られなくて当然だ!」という見方があり得るかと思います。

例の読売のトップが、「ヴェルディの本拠地は東京でなければいけない」と言い張って、市の予算で等々力を大改修したり大変なバックアップをしていた川崎市に対し、後ろ足で砂をかけるようにして移転しました。
そもそも、当時頑として「ヴェルディ川崎」を名乗らなかったですからね。「読売ヴェルディ」と言い張っていました。これ自体、Jリーグの理念にケンカ売る行為です。
(中略)
「Jリーグのファン」である人からは相当な反感を買いました。要するに、他チームのファンほとんどから大なり小なりの反感を買ったんですよ。
その状態で、いずれ人気選手にも斜陽の時代が到来し、Jリーグバブルも沈静化し、ミーハーファンは来なくなります。
そうなったとき、前ホームタウンにそんな仕打ちをしたチームを、現ホームの地域の人々は諸手を上げて歓迎しますかね?一生懸命応援しますかね?

Jリーグの東京ヴェルディはなぜ川崎から東京に移転した…
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1347562173

この知恵袋の回答のようなイメージです。

一方、東京Vの側に立った歴史認識としては、「そもそもヴェルディは元々東京のクラブだった」という立場があるかもしれません。

実は(Jリーグ開幕前)、ウチは国立競技場をホームにするための申請をしていたんです。国立側も『人気クラブが使ってくれるなら』とウェルカムな感じでした。でも最終的に認められず、等々力をホームグラウンドにしたという経緯があります。

東京のクラブであり続けることの難しさJ2・J3漫遊記 東京ヴェルディ
https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201605270003-spnavi

本来は国立競技場をホームスタジアムにする流れだったところを、当時のJリーグの政治的な決定により川崎に移転せざるを得なくなった、という話です。ヴェルディの側からするとJリーグの決定によって、本来獲得できたはずの地盤を失った、ということになります。あまり語られない、敗者の歴史ですね。


・飛田給は日本サッカーのパレスチナである

改めて、青赤に占拠された飛田給駅前の風景について考えてみます。
現状、この土地はFC東京、東京V、両者のホームスタジアムのはずですが、事実上FC東京に「占領」されています。

東京Vからすると、「東京は自分たちのホームだったのに、後からやってきたFC東京に追い出されつつある」という見方になるかもしれません。逆にFC東京側からは、「川崎を捨てて味スタに移転しようとしたけど、そこでも定着出来なかった奴ら」という見方もあり得るでしょう。

どんな分野でも、歴史というのは色んな見方があると思います。僕は今回飛田給駅前の風景を見て、イスラエルとパレスチナの関係を思い起こしました。両者とも「自分の土地だ!」と主張していますが、現状ではイスラエルの「勝者の歴史」により支配されており、パレスチナ人は悲惨な生活を送らざるを得なくなっています。

どちらが正しい、間違っているという話ではありません。限られた資源を巡って争いが起きた際、その後「勝者の歴史」で説明されがちです。しかし事実というのはもう少し複雑だろう、ということです。そして、資源を巡る争いの原因は、貧しさです。飛田給の「領土問題」についても、東京都内のサッカースタジアムが貧困であることが原因と言えるでしょう。国立競技場の建て替えが残念なことになりそうですが、いつか関東圏のサッカー場ももっと何とかなればな、と思います。


というように、調布への旅でもイスラエル・パレスチナを訪れた気分になれる、という話です。本文は以上になります。本文だけで完結する文章になっています。
この先はおまけ部分で有料になります。歴史のifについて妄想したりしています。
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