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石渡「科学的、技術的な新知見なし」←山中「誤解」「心情」

土壇場で論理を貫いた委員の登場、その後

老朽原発の故障等を未然に防ぐ「運転期間」制限を、原子炉等規制法から削除する法改正について。2月8日(水)原子力規制委員会では、石渡委員が土壇場で、法改正の案の本質を見極めて3つの理由を挙げて反対(既報)。山中委員長は「多数決をとったことがない」として翌週に議論を先延ばしたが、10日(金)のGX基本方針の閣議決定を受け、15日(水)の定例を待たずに翌13日(月)夕方に臨時会議を開いた(既報)。

「水曜の定例にではなかったのか」と原子力規制委員会広報に問い合わせると、「『議論に十分な時間をかけたいから』との委員長の意向」だという。

5人の原子力規制委員(2月13日筆者撮影)。
左から石渡明、伴信彦、杉山智之、山中伸介、田中知(敬称略)

理由4 R2見解は40年ルール削除を意味しない

果たして2月13日(月)。十分な議論どころか、前倒ししただけだったことがわかるのだが、この日、石渡委員が運転期間削除案に反対する詳細な理由が明らかになった。一つは令和2年見解について。石渡委員の意見を要約すれば、以下のようなものだ。

「R2年見解の『原子力規制委員会が関わるべき事柄ではない』は金科玉条のように使われてきたが、元々、ATENAと意見交換を踏まえて出た。意見交換会6回の議事録(以下)を全部検索したが、そのような議論が行われた形跡はない。「技術的・科学的にある年数を決めるということはできないというニュアンス」であり、これを根拠に、炉規法の40年ルールをなくしてもいいという議論にはならない

原子力規制委員会2023年2月13日議事録から筆者要約及び(以下)を加筆

主要原子力施設設置者の原子力部門の責任者との意見交換会

平成30年08月03日 第6回 会議資料 議事録
平成30年03月28日 第5回 会議資料 議事録
平成29年11月09日 第4回 会議資料 議事録
平成29年07月07日 第3回 会議資料 議事録
平成29年04月06日 第2回 会議資料 議事録
平成29年01月18日 第1回 会議資料 議事録

石渡委員発言(↓動画頭出し)議事録はこちら

ちなみに、意見交換会の出席者は規制庁職員以外は、原発ビジネスで生計を立てている人たちばかりだ。

経年劣化管理に係るATENAとの実務レベルの技術的意見交換会の結果について
(令和2年7月22日 原子力規制庁)26〜27ページより筆者作成

理由5 60年目以降の高経年化評価制度が決まっていない

さて、石渡委員が反対をした5つ目の理由は「現在の(高経年化評価)制度でも40年目に特別検査を行うが、60年目に何をするかということが今は決まっていない」ことだ。

石渡委員の反対理由に対するストレートな答えは、どの委員からも示されてこなかったが、この5番目の理由には珍しく、山中委員長がこう答えた。「少なくとも50年目までは現行のルールで十分であるということは、議論させていただいた」「60年については、プラスアルファでどういう項目を加えるべきかは、いまだ決まっていないというのは事実」

石渡委員は、「少なくとも見通しぐらいは、現時点で決めるべきことではないか」と返した。また、「原子力安全のために審査を厳格に行って、長引けば長引くほど運転期間がどんどんその分だけ延びていく。これは非常に問題だ」と改めて強調した。

原子力規制委員会での審議開始前に7回も資源エネルギー庁と
原発の運転期間削除法案を相談(頭の体操)していた規制庁職員(2月13日筆者撮影)

理由5−2 「部品が調達できない」「設計の古さ」を審査できる?

石渡委員が強調した「安全審査に時間をかけるほど老朽原発を動かすこと」は、故障率や事故率が上がり、安全性が下がる危惧を意味している。

ところが、山中委員長からは、審査が長引くと「プレッシャーが審査官にも掛かります」とか、「審査期間を故意に延ばすような事業者が出てきた場合には、原子力規制委員会として(略)厳正に対応すべき」などと、石渡委員の危惧を理解していないのではないかと首を傾げる発言が飛び出す。

それでも議論は続けられ、逆に、高経年化評価制度が決まっていないとは具体にどのようなことなのかは浮き彫りになった。一例は「設計の古さ」について。委員たちの認識はバラバラで、高経年化制度の話はいつもまとまらない。13日の議事録から抜粋するだけでも、以下の通り。

杉山委員「設計の古さをなんとか判断したい」
山中委員長「更に運転期間が延びれば(略)設計の古さについても、設計思想の転換のような項目については、我々はきちんとバックフィットの制度の中で対応できるように考えていくということが必要」(*)
杉山委員「設計の古さを定量化するようなものは難しい」
伴委員「性能規定ではなくて、仕様規定を入れていくのか」
杉山委員「つぎはぎだらけの施設に信頼性をおけるか。後付けでなんとかできる部分、できない部分をふるいにかける」

そして石渡委員の意見は概ねこうだ。

「設計の古さはATENAの資料を見ると具体的で、50年も60年もすると部品が調達できないことを深刻に事業者は考えている」
「示されている法律の案では、検査をすることしか書いていないが、検査項目を経年数に応じて変えていく必要はないか。そこのところも疑問だ」

原子力規制委員会2023年2月13日議事録から筆者若干要約

つまり、「設計の古い」老朽原発は、部品を交換しようにもサプライチェーンが切れる。そう指摘されているのに、山中委員長は、「60年まで予測できていることを、10年ごとでやっていきましょうということで(略)、審査の厳正さも上がるだろうと私は思っています」と回答にならない回答を返した。

田中委員に至っては「長期になってくると(略)総合的に本当に判断する能力が我々にないと、長期施設管理計画も認可できなくなってくる」と、心配な発言が飛び出した。

そんなわけで、石渡委員が今回の制度改正に反対する理由は以下の通り。
1. 今回の改変は、科学的技術的な新知見があっての法改正ではない
2. 運転期間を落とすのは安全側への改変と言えない。
3. 安全審査に時間をかけるほど、高経年化した炉を動かすので二律背反。

に加え
4.R2見解は40年ルール削除を意味しない。
5.60年目以降の高経年化評価制度が決まっていない。

さらに5番目については(60年未満も含めてだが)5人の委員たちの意見バラバラで、「部品が調達できない」ことも含め「設計の古さ」を審査できるかできないか、制度への盛り込みも実施も能力も含め、現時点でわからないことがわかった。

実は多数決になっていない

石渡委員は、最後にもう一度、「科学的・技術的な理由、それから、より安全側に変化する、変えるという、そういうはっきりした理由があれば、これを変えることはやぶさかではございませんが、私としては、今回のこの変更というのはそのどちらでもないと考えます」と述べ、反対を貫いた。

田中委員は、「安全規制の概要のところと、それから、法律の改正案については、私はこれでいいかと思います」

杉山委員は、中身については賛成だが「我々がこれを決めるに当たって、外から定められた締切りを守らなければいけないという、そういう感じでせかされて議論をしてきました。そもそもそれは何なのだというところはあります」。

伴委員は、「特に60年超えをどうするのだというのが後回しになってしまって、そこがふわっとしたままこういう形で決めなければいけなくなったということに関しては、確かに私も違和感を覚えています」と結んだ。

山中委員長は「残念ながら、石渡委員の御賛同を得ることができませんでした。運転期間についての根本的なお考えが違うということで、これはもうこの考えは変わることがないかなと思いま す。本日の賛否の結果をもって、原子力規制委員会の決定といたしたいと思います」と締めた。

単純な1対4の多数決ではなかった。この日の記者会見で、そうおしどりマコさんが指摘した。

「心情」?「誤解」?なのか?

なお、この会合の中で不愉快になった言葉があるので最後に引用だけしておく。山中委員長が会合の中で使った「心情」と「誤解」という言葉だ。

山中委員長「根本の運転期間に対する考え方が石渡委員と他の委員と食い違ってしまったので、石渡委員のこの御心情というのは変わることがないかと思います」
山中委員長「そこにちょっと誤解があるようなのですが、当然、運転期間が長くなれば劣化は進んでいきます。ただ、我々がするのは運転期間に制限をかけるのではなくて、ある期日が来たときに基準を満たしているかどうかという安全規制をするのが我々の任務だ。運転期間がどうのこうのというのを何か我々が科学的・技術的に判断するというのは、少しこれまでの議論とは違うかなと思います。そこがどうも石渡委員と根本的に食い違っている」(原子力規制委員会 第72回臨時会議議事録令和5年2月13日(月) より)

 冷たい雨にあたりながら「原発の60年超延長反対」
などの幟を掲げて訴える人々(2023年2月13日筆者撮影)。

(*)筆者は議事録を何度読んでもこの意味を理解できない。

【タイトル写真】

18:30から臨時開催された原子力規制委員会(2023年2月13日筆者撮影)


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