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トリチウム総量3分の1は行方不明:汚染水

東京電力は福島第一原発からの第1回目(B群タンク7,788m3)の海洋放出を9月11日に終えた。第2回(C群タンク7,788m3)の測定結果を9月21日に公表。放出の準備作業を、明日10月3日9時から始めると10月2日に明らかにした。(汚染水をめぐり東京電力が説明していないこと(3/3)放出計画なるものの続き)


濃度規制しかない中で

9月28日の中長期ロードマップ会見(動画:近日中にリンク切れする)で、東電は放出が終わった第1回目のトリチウムとその他29核種(実施計画で「測定・評価対象核種」と位置付けた核種)の総量を明らかにした。

第1回目分の濃度は既に6月22日に公表されており、今回は各濃度に単純に7,788m3を掛け合わせて、明らかにしたものだ。

出典:2023年9月28日の中長期ロードマップ会見【資料3-1】

上から総量の多いトップ2を抜き出すが、
・炭素14(C-14)の総量が1億1,000万ベクレル(Bq)。
・ヨウ素129(I-129)の総量が1500万Bq。

仮定の話だが、チリも積もれば汚染水

もしも、水を蒸発させて7,788m3を1リットル(L)に濃縮したとしたら、炭素14は告示濃度限度(2,000Bq/L)の55,000倍。ヨウ素129は告示濃度限度(9Bq/L)の167万倍だ。

総量規制をかけるべきだと1国民としては思うが、事業者としてはどう考えるか」と尋ねると、東電のALPS処理水対策責任者の松本純一氏の答えは次の通り。

「基本的には人体および環境への影響、安全性を評価する上では濃度で議論すべきだと思っていますし、国の基準も濃度になっています。したがってトリチウムも他29核種も、濃度を測定した。複数の核種については告示濃度総和について評価をしている。他方、トリチウムは、6万Bq/Lという告示濃度に対して、政府方針にある1500 Bq/L未満で管理しつつ、かつ年間22兆Bqを上限とした運用をする」

そこで、「トリチウムは総量で管理するが、影響がある核種については総量規制はなくても問題はないと仰ったと理解した」と極論でたたみ込んでみたが、松本氏は「いえ」と否定。「告示濃度限度を遵守していれば安全上の問題は生じません」と断言した。

トリチウム総量の最大約3分の1は行方不明

さて。東電は、今日に至るまで、汚染水に含まれる核種の総量がどれほどかあるをトリチウム以外は明らかにしていない。

しかし、9月28日の会見では、そのトリチウムの総量について、驚く事実が明らかになった。結論から言えば、総量の最大約3分の1が行方不明なのだ。

以下の資料が会見で出てきて質問しても、以下のような回答があって、最初はその意味が理解できなかった。

出典:2023年9月28日の中長期ロードマップ会見【資料3-1】

東電 ALPS処理水対策責任者 松本純一氏:(2011年3年時点にあった3,400兆Bqのうち)タンクに700兆ある。残りをどう評価するかですが(略)、今確認できているところは80兆Bqですが、事故の時に建屋の爆発がありましたし、高濃度汚染水が海に流れ出たという事故もありました。トリチウムの量が正確に評価できない形で環境に出ていると言いますか、これが仮に全部、建物の中にあると仮定した場合に1720兆です。

この松本氏の回答と、会見後のぶら下がり取材を足し合わせて、半減期による自然減衰と汚染水タンクに残っている約700兆Bq(2022年時点)を除き、最大で1020兆Bqが海や地中に漏れてしまったために、行方不明扱いなのだと分かった。

放出完了シミュレーションで考慮されていないこと2つ

東電はさらにその次のページで、総量で3,400兆Bqあったトリチウムは2051年にゼロになり、海洋放出は完了するという印象を与えるシミュレーションを見せた。

出典:2023年9月28日の中長期ロードマップ会見【資料3-1】

だが、これには考慮されていないことが2つある。

一つ目は、トリチウムよりも半減期が長い核種があるということ。

会見で「2051年にトリチウムがゼロになると書いてあるが、半減期がもっと長いものについてのイメージは?」と問うと、松本氏は「処理水の中には、トリチウム(12年)より半減期の長いセシウム137やストロンチウム90(30年程度)がありますけど、半減期に応じて減衰します。放出にあたりましては、もちろん放射性物質の濃度を一つ一つ確認しながら、告示濃度比1未満を満足するように浄化をした上で放出します」と述べた。

2051年にトリチウムがなくなったとしても放出は終われないことを認めたに等しいと思う。

そして2つ目。地下水(汚染水の発生)が止められなければ、トリチウムはなくならないこと。

汚染水を恒久的な対策によって止めるという計画は見込みがない。それとこの『ゼロ』の関係は?」と会見で尋ねた時の松本氏の答えは次の通り。

東電 ALPS処理水対策責任者 松本純一氏:私どもの汚染水の発生量は2028年までに50〜70 m3に減少させることが目標になっています。その先では、おっしゃる通り、計画がないが、このシミュレーションは2028年から2051年までは毎日70 m3の汚染水および汚染水を処理した処理水が発生してくるものという仮定を置いて評価をしています。

そこで、「2051年まで毎日70 m3が発生するのであれば、ゼロにはならない」と指摘してみたが、松本氏は「シミュレーションは、毎日70m3の汚染水が2051年まで発生したとしても、22兆Bqという政府の上限値を満足させながら放出を完了させることが可能だということを示したものです」と辻褄が合わない前提がそこにはあるらしいことがわかった。

もっと言えば、汚染水を毎日70m3に減らすどころか、寿命のある凍土壁に代わる恒久的な対策で止水をするよう、原子力規制委員会からは求められている(既報)のだから、「毎日70m3の汚染水が2051年まで発生」するシミュレーション自体が、常軌を逸した発想だ。

「汚染水を増やさない」という原子力規制委員会の指示さえ無視されたまま、目の前にある「ALPS処理水」の海洋放出が進められている。

【タイトル写真】

第1回(C群タンク)海洋放出が始まってすぐは、東電は海洋モニタリングデータ等の発表の会見を毎日行った。2023年9月13日(東京電力会見にて撮影)。

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