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原発規制と推進の一体化:実は5年前から

原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法で定めた「運転期間(40年+最大20年の延長1回)」。それを、経産省が電気事業法へ移して骨抜きにしようとしていることについて、二つの変化と深い闇が見えてきた。

報道による2つの変化

12月21日に原子力資料情報室が記者会見で内部情報を明らかにし、同日の原子力規制委員長の会見を受けて、メディアは一斉に、原子力規制委員会の「独立性」と「透明性」が損なわれたと報じた。

その結果、

1. 原子力規制庁が「運転期間の見直しに係る資源エネルギー庁とのやり取りに関する経緯について」(以後、「作成経緯」)をまとめた。原子力資料情報室の開示請求に対して「ない」と嘘をついた資料と共に、12月27日に記者に説明した。

2. 1を受けて、原子力規制委員会(5人構成)は、12月28日の委員会の最後(*1)に、経産省等とのやり取りを記録に残す透明化確保ルールを規制庁に作らせることを決めた。同日の会見でルールの対象には規制庁長官や次長など幹部のカウンターパート同士のやりとりも含むと委員長は会見で答えた(*2)。

この2つの変化は、報道の成果と見ることもできる。しかし、それを遥かに超える変わりそうに思えない原子力行政の闇の深さも見えてきた。

起点は5年前:原発事業者の要望

闇の深さとは・・・。
内部資料(*3)の「作成経緯」(*4)は7月27日のGX実行会議から始まっている。しかし、実際にはその前5年間の経緯が省かれていることが、12月28日の委員長会見の最後の最後に露呈した。

山中委員長が何気なく「5年前から検討」していたと漏らしたため、「5年前とは何のことか」と更に尋ねた。その結果、「5年前からの検討」とは、2017年1月18日に始まった「主要原子力施設設置者(被規制者)の原子力部門の責任者との意見交換会」のことだとわかった。

「ATENA(原子力エネルギー協議会)との会合」と規制庁が称することもある会で、これこそが、山中委員長が繰り返し「運転期間について原子力規制委員会はものを言わない」根拠として使うようになった見解「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解(令和2年7月29日 原子力規制委員会)」を出す契機となった意見交換だ。前文には以下のようにある。

この意見交換は、事業者側から、運転期間延長認可の審査に関し、運転停止期間における安全上重要な設備の劣化については技術的に問題ないと考えられることから、一定の期間を運転期間から除外してはどうかとの提案がなされたことに端を発するものである。

「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解」前文より

つまり、全ては原発事業者から「一定の期間を運転期間から除外してはどうかとの提案が」あったところからの既定路線だったというわけだ。そのことを原子力規制委員長ははなから知っていた、と思われる。

「初めて」の茶番劇

それならば、10月5日に原子力規制委員長が指示して初めて検討が始まったという説明も茶番。

8月時点から検討していた内部資料が暴露され、その弁明として作成された7月からの「作成経緯」とそれに続く、長々とした委員長と規制庁の会見も、5年前からの経緯の一部に過ぎず、茶番だったのだ。

筆者はもはや力が抜けて、気持ちがヨロヨロしながら、原子炉等規制法第43条の3の32 の意味を問い直さざるを得なかった。(以下、原子力規制委員会 定例記者会見 2022年12月28日 「5年前から」の質問頭出し)

規制と推進:官僚は各レベルでコミュニケーション

もはや辻褄合わせの後付けの説明とわかった「作成経緯」だが、それによれば、7月28日に「初めて」金城原子力規制企画課長が、経産省の皆川原子力基盤室長から「原子炉等規制法を含む束ね法案の検討を開始した」と伝達されたことになっている。

本来、原子力規制委員会所管の法律に、経産省が口出しをすることは大ごとのはず。この時点で原子力規制委員たちに報告を行わなかったのは、金城課長の独断ではなく、次長に「指示を仰いで」の判断だったという。質問した側では、そこまでしか想定していなかったが、金城課長の口からはその先もスルスルと出てきた。

次長のほうは次長のほうで、当然、エネ庁との窓口があるので、そことの情報が違うとかいうことになると、これはなかなか、我々が本当の説明を受けているのかどうか分かりませんので、そういった意味で、私は確認も兼ねて報告には行っていました

つまり、運転期間について、規制庁と経産省は単に「組織」対「組織」で1点で繋がっていたわけではなく、官僚の各レベルで別々にカウンターパート同士が話をしていた。原発の規制と推進の組織が縦横無尽に、原則40年最大60年の運転期間から、停止期間は除外しようという相談をしていたわけだ。しかも、5年間にわたって。

そのことは、12月28日の委員長会見後に金城課長に更に尋ねた結果、7月に課長に就任した際、前任者(現・部長)から「運転期間については次長に相談しながらやってね」と引き継ぎを受けたということからも裏付けられる。つまり、担当者が変わる中でも、熟度は違えど、原子力規制と推進官庁は、運転期間の議論を続けていた。

更田前委員長は業界要望を「はねつける見解」

もう一つ、特筆しておかなければならない。山中委員長が「運転期間について原子力規制委員会は意見を述べる立場にない」根拠に使ってきた見解についての前任者、更田前委員長の国会答弁だ。

山中委員長は2022年9月26日に就任。更田前委員長は、2022年4月、国会で、この見解は、原子力事業者の「要望をはねつける見解」であり、「運転開始から40年、時計の針は止めないという旨の見解を述べたもの」だと答弁していた。

○笠井亮衆議院議員 要するに、この見解というのは、電事連を超えた規模の、ATENAというのは電力会社と原発産業の集まりである原子力エネルギー協議会であって、それと規制委員会の意見交換会の場での事業者側の要求に端を発して、それへの対応としてつくられたということが書いてあるわけですね。つまり、規制する側が規制される側に支配されるという、規制のとりこということについて言うと、その再現になるんじゃないかと。いかがですか。

○更田原子力規制委員長 見解の内容を見ていただければお分かりいただけると思いますけれども、ATENAの要望をはねつける見解となっております。停止期間を40年から除くべきではないかという主張を再三ATENAから求められたのに対して、私たちは、運転開始から40年、時計の針は止めないという旨の見解を述べたものでありますので、規制のとりこという御批判は当たらないというふうに考えております。

衆議院原子力問題調査特別委員会 2022年4月7日

そして、笠井亮衆議院議員は、2022年12月8日の衆議院原子力問題調査特別委員会で、今度は山中委員長に対して、この更田前委員長の見解を使って「なぜ時計の針は止めないのか」という聞き方をしたところ、山中委員長は次のように答弁したのだ。

コンクリート構造物等については長期運転停止期間も劣化が進むことから、高経年化した原子炉の劣化については、その停止期間も含めた暦年で確認する必要があると考えている

そして、笠井議員が「長期停止期間というのは時計を止めることはできないということでいいわけですね」と畳み込むと、山中委員長は「科学的、技術的に一意の結論を得ることが困難」と従来の答弁をくりかえしつつも、「高経年化した原子炉の劣化状況の評価に当たっては停止期間を除外することはできないという趣旨で原子力規制委員会の見解を説明したもの」と認めた。

国会答弁は重い。その通りであるとするなら、「高経年化した原子炉の劣化状況の評価」にあたっては、例外なく、裁判の判決によってであれ、新規制基準の審査のためであれ、一定期間を原発運転期間から除外することはない、ということになる。

ところが、この間の原子力規制委員会では、「高経年化した原子炉の劣化状況の評価に当たっては停止期間を除外することはできない」としながら、審査が終わっていない未適合炉についてはその例外だ、という方針を示して、現在、パブリックコメントにかけている。国会軽視に他ならない。

記者ブリーフィング後の「ぶら下がり取材」で判明したこと

しかも、12月28日の委員長会見後に金城課長は、未適合炉をどうするかは、(原子力規制委員会で議論に上る前)11月2日前に、山中委員長に規制庁から説明していたことを認めた。

そして(未適合炉の高経年化評価は、経産省案と歩調を合わせて業界の意向通りの案が考えられているが)、11月2日の委員会で、「委員長に(その案を)否定されれば、引っ込めるつもりだった」とも筆者の問いに答えた。

しかし、それも嘘に等しい。規制庁の案は2022年4月の更田前委員長答弁も、12月の山中委員長の答弁すら反映されていない。両委員長の国会答弁に反して、ATENAの提案通りの結論を国民に押し付けようとしていることの自覚すらないのではないか。

原子力規制委員会 定例記者会見(2022年12月28日) (「国会答弁について」の質問頭出し)

この日に驚いたことのリストは以上だ。問題はここから先、これらの問題(規制と推進の一体化、原子力規制委員会のお飾りぶり、透明性の欠如)をどうするかだ。

(*1)原子力規制委員会(2022年12月28日)(該当箇所頭出し)https://www.youtube.com/watch?v=Cjn3xiU90L0&t=4857s

(*2)原子力規制委員会 定例記者会見(2022年12月28日)(該当箇所頭出し)https://www.youtube.com/watch?v=seeYhcl-IUs&t=1599s

(*3)取材ノート運転期間:議論開始時の事前打ち合わせ通り
(*4)取材ノート隠されていた「内部情報」に関する規制庁弁明 

タイトル写真【2022年12月27日規制庁記者ブリーフィング】

内部資料と作成経緯について記者から質問を受ける金城原子力規制企画課長と黒川総務課長。

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