東海第二原発の防潮堤不良施工について:県議は、市議は、村議は、規制庁は
原発事業がその事業の全てである日本原子力発電(以下、日本原電)の2つあるアキレス腱の1つは東海第二原発(茨城県東海村)だ。
2024年4月4日、超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」が、その東海第二原発で起きた防潮堤の施行不良工事について、茨城県の県議および原子力規制庁からヒアリングを行った。
この問題を巡っては、日本原電が設計変更申請をするとのことで、3月26日に原子力規制庁が審査会合を開いたばかりだ。
以下、重要なことが含まれており、長文となったがご容赦いただきたい。
県議による防潮堤に関する問題提起
これまでの経緯
日本原電は、今年9月の再稼働工事の完了を目指して工事を進めていたが、昨年10月になって、防潮堤の基礎に施工不良があると公表。しかし、その公表内容は、けして問題の全体像ではなさそうだ。江尻議員が整理した問題は次の通りだ。
1 鋼製防護壁の設計上の問題
東海第二原発の防潮堤は、取水口をまたいで、両側に一辺約16mの巨大な柱が立ち、その上に重さ4600トンの「鋼製防護壁」などが載っている。パリの凱旋門のような構造だ。
江尻議員は、1級建築士として建築事務所で図面を引いた経験の持ち主で、「そもそものこの設計が施工不良を引き起こすリスクを内在していたと思う」と述べた。
「なぜ実績のないこういう構造なのか」、「難しい工事にも関わらず、日本原電と元請の安藤ハザマが、着工前に想定すべき点を考慮しなかったのではないか」、「現地の規制庁の検査官は、何名でどんな役割だったのか」と疑問を呈した。
2 施工管理の問題(内部告発による情報)
2023年9月、関係者からの内部告発があったという。起きている問題について原電に言っても、元請の安藤ハザマに言っても改善されない。「このままでは駄目だということで私ども(共産党)に訴えがあったんです」(江尻議員)という。
10月16日の記者会見で江尻議員らが使った「告発メモ要旨」から一部を抜粋するが(太字は筆者)、察するところ告発者は、事業者らが不良施工を「嘘」の報告で覆い隠したままでやり過ごすのではないかとヤキモキしていたことがうかがえる。
そして告発は以下のように続く。
「以上、様々な問題に対して真摯に向き合わず、問題を隠蔽して工事さえ完了してしまえばいいと思われる姿勢に疑いの気持ちをかくせません」
「コンクリートの入っていない基礎は、腐食も早く基礎としての強度も保てません。その様な基礎に、上部の鋼製防護壁を20m以上の高さで組み上げても、早くに陥没したり、津波が来ても防潮堤の役割が果たせるか疑問です」
「問題を問題として扱わない安藤ハザマと100%持ち株会社の青山建設機工(株)が、今後も同様の工事をして、隠蔽するのかと思うと本当に不安です。」
この告発を受けて、江尻議員は「原電の資料を見ると、根本的な設計変更というより、設計方針そのものには変更がないから、添付資料は変更するが、本文の変更手続きは不要だと考えている。施工不良を過小評価して中途半端な調査や補正で済ませようとしているのではないか」旨の懸念を示した。
なお、コンクリートが充填されていない状況写真は以下の通り。
3 北基礎の鉄筋カゴの高止まり
「原電はこの間、(鋼製防護壁を支える2本柱の)南基礎と北基礎のコンクリートの未充填や鉄筋の変形については、補正を行っているが、北基礎の鉄筋かごの高止まりについては、施工不良として扱わず、調査も補正も行っていない。北基礎は、鉄筋カゴが深さ3.3mまで到達しなければならないところ、70センチ高止まりして、2.6mまでしか到達していない。」(江尻議員)
4 公表タイミングの問題点
「原電は施工不良を確認してから公表までの約4ヶ月、「調査していた、問題を隠蔽したものではない」と主張しているが、茨城県庁記者クラブに情報提供したのは、昨年10月16日午後に私達が記者会見すると知らせた直前の午前だった。共産党が公にしなければ原電は公表しなかったか、公表がもっと遅れていたのではないか」(江尻議員)
5 経理的な基礎の不足問題
「一連の施工不良に対応して、様々な追加費用、調査費用がかかるが、普通なら、施工不良を起こした工事施工者、請け負った安藤ハザマの自己負担となるケースが多いと思うが、この場合は誰なのか。そもそも東海第二の再稼働のための対応工事は、当初1740億円が、総額3500億円になるとも言われている。東京電力や東北電力から、資金調達に係る支援を受けることを条件に、適合性審査で経理的基礎が確保できたとされてきた。自己資金が乏しい原電の経営的な弱点の上に、さらに防潮堤施工不良の改善対策や工期延長でもっと費用が増えることは当然予想される。原電は経理的な基礎においても破綻するのではないか」(江尻議員)
6 まとめ
「津波対策の要である防潮堤。取水口のところを開けつつ、防潮堤の機能を果たさなくちゃいけない。アキレス腱に致命的な損傷が及んでいるのではないか。これを根本的に解決する能力が原電にはないと私は思っている。工事再開、工期延長ではなくて、廃止すべき原発ではないか」(江尻議員)
規制庁の応答で問題がより鮮明に
これらの江尻県議の指摘や疑問(および補足質問を行った原発ゼロ・再エネ100の会の阿部知子事務局長)に対する規制庁の応答の要点をかいつまんでいく。
規制庁は2023年6月に報告を受けていた
3月26日審査会合の模様
ここで動画を挿入しておきたい。規制庁が応答したように、3月26日の審査会合では、規制庁(企画調査官や安全規制調査官など)は厳しい指摘を展開(以下の2つめの動画1時間48分あたりから、2時間17分目あたり)。そして、日本原電担当者たちの表情はこわばっていった。
●日本電源による説明開始時点(の部分から頭だし)
●規制庁と日本原電の質疑(の部分から頭だし)
引き続き、江尻県議の指摘などに対する規制庁の応答の要点をかいつまむ。
「防潮堤の手抜き工事の監視」「変更申請」「北基礎の鉄筋カゴの高止まり」等について
一連の回答を受けたのち、江尻県議は「事業者の責任を強調されたが、日本原電がそれに対応する能力や信頼性がないと思っているので、規制庁の監視体制に本当に期待する」と強調した。
市議や村議たちに日本原電はどう説明していたか
一方、ヒアリングには関係自治体の議員たちも同席していて、日本原電が、基礎自治体に対してはどのような説明を行っていたのかも見えてきた。
東海村の大名美奈子村議は「原電の説明を議会として受けたが、北基礎の高止まりについては説明がなく、質問して得た回答は、『問題はない』だった。11月8日の時点でそういうふうに事業者として言えることなのか」と疑問をぶつけた。これに規制庁は「今の段階においても、まだ調査の途中段階と聞いている。我々としては、その調査がまだ十分ではないと指摘している」と回答。
那珂市の花島進市議は「那珂市議会の原子力安全対策委員会でも、日本原電からヒアリングした。不良具合をどう調査するかは、今ひとつ細かい説明がなかった。超音波で調べるとかは聞いているが、規制庁は、日本原電が考えているやり方で、現在の不良具合をきちっと把握できると認識しているのか」。これに規制庁は「今のご指摘も審査会合で指摘した。まさにコンクリートの充填については音波探査やコア抜きによる確認と説明を受けたが、それによって全てが明らかになっているとは考えていない。その部分も説明が不足しているので、次回以降、情報を整理して説明をしてもらいたいと思っている」
また、規制庁が「我々は現場監督ではない」「それよりは重要度の高い部分に注力する」と言った点については、「建築基準法等ではコンクリートを詰めて埋めてしまえばわからなくなるんで、根入れされているかどうか中間検査をするのが社会的には常識だ」(規制庁は、それをなぜやらなかったのか)という指摘もあった。
タワマンがコンクリートの強度検査で販売活動休止になった例もある。他業界の対処の仕方から学ぶべきだという指摘だ。
以上が、東海第二原発で起きている問題だが、日本原電のもう一つのアキレス腱である敦賀原発も、地質データの改ざん(多くの報道は「書き換え」という表現を使っている)問題を抱えている。いわば両方のアキレス腱を損傷しているのが、今の日本原電だ。北基礎、南基礎を土台に立つ2本の柱で支える東海第二原発の防潮堤が、日本原電の姿に重なって見えるのは、私だけだろうか。
【タイトル写真】
日本原子力発電株式会社 2013年10月16日面談資料「 東海第二発電所 防潮堤(鋼製防護壁)の南基礎地中連続壁で確認された事象について」より
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