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【彼記録】我が家の譲り合い


我が家の初期の頃の話。当時私達は、家に「庭」を求めるかどうか意見が割れていました。

庭の維持はきっと大変。だから必要ないと言う私と、

幼い子供を庭で遊ばせたい。
それに庭があれば自分の趣味の道具の手入れも出来る。という彼。

お互いが、それぞれ庭無し、庭有りの家で育った事もあり、互いに庭に対して思い描くイメージのずれが生じ、この件については両者譲る事が出来ず決着がつかないまま。

最終的に「手入れは俺がするよ。」と、手入れする宣言をした彼。そこまで庭を熱望し、面倒な手入れを自分がやるからとまで言ってくれた彼に、この件は私が譲ることになりました。

そして彼の念願だった、庭のある家での生活が始まる。天気の良い日には趣味である釣り道具を広げ、楽しそうに手入れする彼。そんな姿も微笑ましく、私自身も「お庭、あってよかったな~」なんて感じていました。

ただ、彼のそんな姿もはじめのうちだけ。季節が一周する頃にはすっかり庭でその姿をみることも無くなります。

念の為言っておきますが、決して庭を批判している訳ではありません。
問題なのは、肝心な庭の手入れ宣言の「その後」です。

案の定、その役割は私の元に。ただ私の方も、当時産後で家にいた事もあり、庭仕事を任せられる事に不満はありませんでした。
当時は子供が幼く、長時間かかる芝刈りは彼が率先してやってくれました。(この言い方、既に私自身が自分の役割と認識している気も…笑)

それから数年後、子供が成長し幼稚園へ。私の時間はそれまでと劇的に変わります。それまで存在しなかった「自由時間」が私に戻ってきたのです。

4時間程度ではあるものの、その忘れかけていた「自由時間」に現を抜かし、庭の手入れへの不満なんて全く気にする事なく日々が過ぎていきました。

その後、子供が小学生になり、お友達が遊びにくるようになると、庭で快適に遊べるように整理したりと、子供の成長と共に自然に私は庭へ出始め、気づけば庭の手入れはとても自然な流れで、完全に私の担当となっていたのです。

しかし私の方もずっと家にいるわけにもいきません。住宅ローン返済の為、家族の生活の為に彼同様、働く必要があります。
私はパートに出るようになりました。このタイミングで、ついに「庭の手入れ」という作業が億劫になり始めたのです。

たかだか30分。長くても1時間程度の作業ですが、庭の手入れって頻繁に手がかかる時期は、特に日差しも強くなる時期と重なるもの。

作業を始めるとなると、それなりの紫外線対策も必要なのだ。そう。面倒くさがりの私にとって、この紫外線対策がものすごーく面倒なのです。
仕事の日ならともかく、ダラダラしたいお休みの日に、しっかりメイクなんてしたくありません。

一方その頃の彼はというと、仕事が変わり出勤のサイクルが不規則になったものの、週のうち4~5日は日中在宅というスタイル。在宅というと在宅ワークの様に聞こえるが、彼の場合は完全な自由時間である。その為、家にいる時は基本的にゲームやYouTubeを見ながらゴロゴロしている。

よし。私もパートを始めた事だし、庭の事頼んでもいいよね。いや、そもそも庭の手入れは自分がやる宣言してたではないか。うん。このあたりで彼の担当に戻してもらうとするか。

そして私はついに彼へ伝えることに。いや以前から焼けたくないだの日焼け止め塗るの面倒だの訴えてはいたんだけれど。当初の「俺やる」宣言と合わせて正式にお伝えしたのです。

結果は即オーケー。ちょっと拍子抜けしたけど、元々優しい彼。やってと言えばやってくれるのだ。
ただ予想通りの私主導。やる日決めから何やるかまで。なんだかんだで私も一緒に庭へ出ている状況が続いておりました。(そう。何も変わらず)

さらに数年後の今はというと、たまにではあるが自分からやってくれるまでに。いや、自分からではないか。でもそれでも重い腰を上げてやってくれている。年に数回程度でも、これはものすごく進歩している。

ただやっぱり面倒なのだろう。軍手はどこにある?火ばさみは?ようやく始まったかと思いきや、作業中も私を呼びに来る事の多い事多い事。

お次はビニール袋がないとな。よくもまあ、そこまで何も準備しないで庭へ出たものだ。でもそんな文句は言いません。彼が庭の手入れをやってくれているんだから。私はただひたすら彼のアシスタントに徹し、必要なものを運ぶのだ。

さらに、ひと段落する度に窓辺へ覗きにくる彼。「こんな感じ?」
「ぽにょちゃん天気いーよー出てきたら?」

なんだなんだ? 寂しいのかい?
寂しいから、ちょいちょい話しかけてくるのかい?
こんな調子で、大体彼からの見て来て攻撃が続く。私は「私がやった方が早い」という気持ちを抑えて対応する。

わかってる。
二人でやった方が早いに決まっているのだ。それに、おしゃべりしながらだって楽しいだろう。
ただ今は違う。まだ今の段階では二人でやってしまうと危険なのだ。

もしここで一緒に作業してしまうとしよう。きっと以前のように、とても自然な流れで私の担当に戻ってきてしまう可能性が非常に高い。

それだけは避けたい。絶対に避けなければならないのだ。

だからまだ今の段階では、彼とおしゃべりしながら楽しく庭の手入れを終わらせる訳にはいかないのだ。ごめんね彼。私の目的は庭の手入れをさっさと終わらせる事ではない。

庭の手入れをあなたの担当として定着させる事なのだから。私は今日この瞬間の楽しさではなく、更にもっと先を見据えているのです。

その後も、相変わらず彼からのあれ取ってこれ見て攻撃は続き、ついには子供を巻き込み、一緒になって「ママー彼がゴミ袋ちょうだいだって〜!」と聞こえてくることも。

「だから、ゴミ袋は庭出る前に自分で棚から出してもってけー!」と叫びたくなる気持ちを押し殺しながら、相変わらず私は彼の希望の品をアシスタントとして運び届けます。

そんな甲斐あってか、今でも年に数回彼は庭へ出てくれます。またそんな頻度でも、彼が庭仕事をしている姿を見たご近所さんからは、優しい旦那さんねと褒められるのです。

我が家の庭担当の譲り合いの話が長くなってしまいましたが戻します。

庭木って、成長期になると本当によく伸びます。特にこの6月なんて毎日何センチ伸びているのか計測したくなるほど。しないけど。枝なんてあちらこちら伸び散らかし状態。そしてこれは非常に見栄えが悪い。
ご近所の目もあるしな。きっと彼はなかなかやってくれない。そろそろ剪定しなきゃいけないな~と思いながらも、時だけが過ぎている状況でした。


そんなある日、いつものようにパートから帰ると玄関前にゴミ袋が。
「え、今朝出し忘れたかな?」という考えが一瞬頭をよぎった後、はっとして庭を見渡す。

なんという事でしょう!今朝まで庭先で元気に伸び散らかしていた枝たちが、整っているではありませんか!
切ってくれたのだ。あの枝たちをついに剪定くれたのだ。ありがとう!彼!

思い返せば最近会話したな!
「最近天気いいねー。」「木も伸びてきたねー。」と彼。

お?もしかして??
すかさず私はアドバイス。

「木、切るなら天気のいい日はしんどいからね、曇りが良いよ~」
彼からの、「切っとくよ」と言う確約は返ってこなかったが、淡い期待とともに私は一応、玄関の目に入る場所に、軍手や枝切りばさみの準備をしておいたのだ。

あ、思い出したことが。確かその時ゴミ袋は出していないはず。だとすると彼、ゴミ袋を自分で用意してくれたのだ。キッチンの戸棚から…

「ただいまー!庭綺麗になってるー!」私はハイなテンションを抑えきれないまま大声で帰宅。

「すっきりしたでしょ?」
おかえりと玄関まで出てきた彼の表情は、実に満足そう。そんな彼を見た私も何故かとっても満足です。

今日は晴れ。きっと沢山汗を流して頑張ってくれたに違いない。有難う彼!

その日、キッチンで夕食の支度をする私。目の前のリビングにはいつものように寝転んでゲームをしている彼が。
いつもならイラっとする彼の夕飯どきのその姿。今日は全く気にならない。それに今晩の夕食には、きっといつも以上にたっぷりの愛情が入っているだろう。

彼の背中も今日は心なしか、堂々とゲームをしているように見えた。



その晩、お風呂に入ろうと扉を開けると、
剪定で使ったであろう軍手が、バケツに入って風呂場の真ん中に放置してあった。

そうかそうか。泥だらけになった軍手ね。汚れを浮かせるためにバケツに水を張ってつけ置きしてるのね。ここまでやってくれて有難う。

世の奥様方は、優しい気持ちでそっとこのバケツを片付けてくれるのだろうが、やらないのが私。このバケツはきちんと隅によせてから入浴。

その後数日の間、彼も私も互いにこのお風呂場のバケツの存在には触れず見て見ぬふり。

我が家の譲り合いは、まだ続きそうです。

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