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【彼記録】1cmの敵

夜はのんびりと静かに過ごしたい私。その夜も、私は寝るまでの時間を寝室で静かに過ごしていました。
突然一階から、家中に響き渡るほどの大声。
「ぽにょちゃん!ぽにょちゃん!?」
「ぽにょちゃん来て!」「いいから早くおいで!?」


瞬時に察する私。この普段冷静沈着な彼の出す切羽詰まった非常事態感。
さらに必死に私を呼ぶにも関わらず、その先の情報を一向にこちらへ伝えずただひたすらに私を呼ぶ彼。

この感じ、前にもあったぞ。確か前はトイレでクモが出たと大騒ぎ。結局私が即手づかみして窓から逃がしたが、その出来事は彼が私の想像を上回る虫嫌いだという事を知ってしまった大きな一件だった。

もしや、またクモが?いや、この非常事態感からして、とうとう恐れていた「」が現れたのか?
ここに越してきて十数年間。対策は最初が肝心だと聞き、自宅に侵入させないよう私なりに対策を続けた。その甲斐あってかこれまで一度も遭遇することはなかった。なので我が家にはまだG はいないものだと勝手に安心していた。

それなのに。それなのにここにきてついに、侵入を許してしまったのか。それに、って1匹いると実は〇〇匹いる。なんて言うし、見つけてしまった時には既に手遅れだという話も。

そんな事を考えつつ憂鬱な気持ちで彼の待つ部屋に入る。
すると案の定でっかい…ではなく、クモ…でもない。でっかい図体で腰の引けている彼がいた。私の到着に気づいたのか、彼はそのまま視線を私に向けることもなく、
「ここ!」「ずっと見てた!」「ここだから!この裏ね!」

彼が指し示す先を見ると、そこにはハンガーが。
「え、Gじゃないの?」と聞きながらそのハンガーを手に取ると、ハンガーの裏は溝になっており、その隙間に緑色をしたカメムシが。
でっかい図体の彼は、この小さな小さなカメムシをじっと睨んでいたのだ。

「カメムシがどうしたの?」私が聞くと
「外だして!」
「自分でだしたらいいじゃない」
「無理!俺逃げないようにずっと見てたし!」
「はい?」
色々と言いたいことはあったけれど、とりあえず一番恐れていた「G」ではなかった事に安堵した私はハンガーについたカメムシを窓から外へ出した。

「ちゃんと外に出した?」
私の後ろで彼が恐る恐るたずねてきた。

(にやり)

裏が溝になった形状のこのハンガー、遠目ではカメムシがいるのかいないのか分からない事を良いことに私はひとつ思いついた。

「いないよ!ほら見てみて。」
彼にハンガーを渡すと、溝の中を覗き込む彼の足元を指さしてこう言ってやったのだ。
「わ!ここに落ちてた!!」(にやっ)※勿論ウソ
「ぅわあ!はぁあぁぁ!!」

持っていたハンガーを投げ捨て、でっかい図体で飛び跳ねる彼を見て大爆笑する私。

それにしてもこの男。1cmほどのカメムシでさえもこの反応である。この先我が家にGが現れた時にはどうなることやら。

そんな事を思いながら、ひと仕事終えた私は再び寝室へ戻るのだった。
おわり


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