見出し画像

山陰地方横断記(山口県萩市との出会い)

会社を退職してからというもの、実はずっと悶々としている日々が続いていました。就職先が決まっているのは有難い話なのですが、退職当時は自分探しという意味も込めて海外渡航を決めていたので、就職によりそれが叶わなかったのは、自分にとって不完全燃焼な気持ちでした。(自分で決めたことなんですけどね。)

そこで、いてもたってもいられなくなった私は、国内一人旅に出ることにしました。最初は沖縄~!と思ってましたが、オミクロン拡大やトンガ噴火で津波警報が発令されたため取りやめ、なぜか「山陰地方を横断しよう!」と思い立ち、出発前日の夕方に、行きの航空券と1、2日目の宿だけ確保して山口に飛び立ちました。ルートは山口の宇部空港から出発し、沿岸沿いを走り、島根を経由、鳥取まで抜けるというもの(山口~島根~鳥取)。普段の旅行は割ときっちり計画を立てるタイプなのですが、せっかくニートで自由の身なのだから、今回ばかりは「自由気ままに旅をしよう」ということで、滞在日数や行く場所も細かくは決めず、思うがまま旅をすることにしました。そこでは、思いもよらない、たくさんの素敵な出会いがありました。

今回の旅のルート。移動手段は車、電車、バス、チャリ(笑)

特に印象的だったのが、山口県萩市。当初は、初日に山口の宇部でレンタカーを借り下関へ、2日目に山口沿岸を走り萩市に入り、3日目には島根に移動、という行程でざっくり考えてました。萩市は「何もない」と思っていたので、あくまで旅の通過点として立ち寄るくらいにしか考えてませんでした。

まず、萩市のゲストハウスに到着して間もなく、オーナーさんから「明日、この近くで飲み会があるんですが、来ませんか?」と。どうやら翌日は、そのオーナーさんを取り囲む関係者の方々が集まる新年会がここ萩市で開催されるらしい。頭の中が「?」だらけでしたが、翌日の宿も取ってないし、なんだか面白そう!と思って参加を快諾。この時点で萩市の滞在が2泊に延長されました。

滞在したゲストハウス

萩市滞在初日の夜は、ゲストハウスに住み込みしている学生スタッフさんが、地元の野菜を使った料理を作って振舞ってくれました。彼は日本一周の途中で萩市に出会い、その街の魅力に惹かれ、気づいたら半年間もこのゲストハウスで住み込みを続けているとのこと。将来は農家さんになることも考えているようで、その日初めて会ったのに、夜遅くまでなかなか深い話題まで話し込んでしまいました。

滞在2日目の朝、街のおしゃれなコーヒー屋さんに立ち寄りました。そこにいた店員さんから「今日はどこか行くんですか?」と聞かれたので、「夕方まで街を散策して、夜は誘われた新年会にに参加します」と答えると、びっくりした顔をしていたので、何でかな、と思っていると、なんとその店員さん2人も新年会の参加メンバーだったらしく、一気に話が盛り上がりました。その後、萩市のおすすめスポットをたくさん教えてくれて、夜会ったときにどこ行ったか共有しますね、と言って後にしました。

通い詰めたコーヒー屋さん

萩市の街を歩いていると、初めて来たのになんだか懐かしさを覚えるような、安心するような、そんな不思議な感覚に陥りました。コロナ渦ということもあり観光客が全然来ないらしく、お店に入る度に「よく来てくれたね!」と歓迎してくれました。萩市では「萩焼」と呼ばれる陶器が有名ですが、あるお店では入店しただけで温かいお茶とお菓子を振舞ってくれて、小一時間くらい、そのお店の成り立ちや萩市について教えてくれました。別のお店では、萩焼を3つ買ったら、「こんなに買ってくれるなんて嬉しい!」と、2つもおまけしてくれました。(笑)

萩市の街並み
萩焼を作るおじいさん

夜、どきどきしながら新年会の会場に向かうと、九州方面でゲストハウスを運営している方々、コーヒー屋さん、農家とダンサーを兼業している方等、本当に色んな人が来ていました。(こんな中でゲストハウスの宿泊者が混じるなんて、普通ありえない(笑))感染対策は十分しつつ、夜遅くまでお互いやっていること、これからやりたいこと等を語り合いました。やっていることはみんなバラバラでしたが、共通していたのは「自分がやりたいことを思うがままに楽しんでやっていること」でした。「あー、人生ってそんな小難しく考えなくても、自分が楽しいと思うことをやっていれば大正解なんだ」と、何だか気持ちが軽くなりました。

翌日、参加していたメンバーはみな仕事のため帰っていきました。ともに過ごした一晩が本当に濃くて楽しくて、既にこの時は萩市を出られなくなっていました。「もう1泊させてください」と頼むと、快く受け入れてくれ、ドーミトリーの値段で個室を案内してくれました。

この日はゲストハウスの学生スタッフさんが1日アテンドしてくれ、萩市でビジネスをやろうと考えている人向けのコンサル会社に訪問させてもらったり、少し車を走らせた田舎に佇む素敵なカフェを紹介してくれ、そののち、初日に行ったコーヒー屋さんで3時間くらい、店員さんと語らいました。どうやら2人とも、大変な過去があったようで、人生に悩み地元の萩市にUターンしてきたとのこと。1人は絶賛自分探し中、もう1人はこのコーヒー屋さんでの仕事を楽しんでいました。私自身も、人生に悩んでいるうちの1人だったので、同じような考えの人に出会えたのはとても嬉しかったです。

自然の中にぽつんと佇む素敵なカフェ

萩市滞在4日目、さすがに島根に移動しようと心づもりがついたのですが、この萩市を離れるのが本当に寂しかったんです。たった4日いただけなのに、何がそこまで自分を魅了したんだろうと、考えました。すると、前日カフェでもらった『萩出汁の旅from萩パエリア巡礼』という地元のフリー雑誌に書いてあったことが、まさしく私が求めていた答えでした。(以下、同誌より一部抜粋)

物流が発達しすぎたせいで『そこである意味』は薄れつつある。どこに行っても同じような町になり、世界観はなくなっていく。少し昔は無いものが多く、今では物で溢れかえってはいるが、幸福度は満たされず、更に満たされない消費を繰り返させられ続けている。(途中略)「人は今、幸せなのであろうか?」現状に幸せを感じることが出来なければ、何かを得てもその価値はなくなってしまう。一番恐ろしい中毒は『利便』である。身のまわりの美を感じる力を得ることが幸せの第一歩と言える。「空」「海」「大地」「草」「木」「花」「人」「建物」「衣服」「食」ここ萩にはまだまだ多くの美が溢れている。(途中略)収入が高い少ないに関係なく、『美』と共に生きることが萩らしい幸せの形であり、萩が外に伝えリードすべき事実なのであろうと思う。
萩出汁の旅人from萩パエリア巡礼

これを読んで初めて、私が感じていたのは東京の多くでは既に失われてしまった、萩市が持つ、「そこでしかない価値」や「美」に魅了されていたのだと気が付きました。例えば、滞在中何度も立ち寄ったコーヒー屋さん。来るお客さんは、「この間のあれ、どうだったー?」と、みな店員さんとの日常の会話を楽しんで来ていました。東京ではカフェに行くと、みな黙々とPCで仕事や勉強をしていて、あまりの「作業感」に会話をすることさえ憚られることもあります。最近ではカフェ側もそのニーズをくみ取り、一人用席やコンセント付の席を設けることが当たり前になりました。
でも本来、喫茶店と言えば昔は「社交の場」として、人々が会話を楽しむ場でした。それがいつの間にか、利便性を追求するあまり、本来の目的であった「社交の場」が失われていたんだと、萩市に来て初めて気が付きました。

そして面白いのが、そうした「社交の場」としての喫茶店って、おじいちゃんおばあちゃんが営んでいる、昔ながらのお店を想像すると思うのですが、ここ萩市はモダンなスタイルのお店が、昔ながらのスタイルを維持しているケースが多いのです。実際、上述したコーヒー屋さんも、半年前にできたばかりの、いわゆる東京の青山とかにありそうなオシャレなお店なんですが、地元の人たちの「社交の場」(昔ながらスタイル)として活用されている。私は今まで、ここまで「新旧」が綺麗に融合した街を見たことがありませんでした。

ちなみに、上述した地元のフリー雑誌の冒頭に、「過去への旅」という記載があります。私が初日、萩市での散策で感じた「懐かしさ、安心感」は、「過去に戻ってきた(タイムスリップした)」ような感覚だったんだと思います。都市部では失われてしまった「美」を、ここ萩市で取り戻すことが出来る、そんな街であるように感じました。そして、この街には、これから人生をリセットしたい人や、既にやりたいことを見つけて思うがままに人生を楽しんでいる、そんな街の人の姿がありました。

旅の通過点に過ぎなかった萩市。今思えば、少し大げさですが、人生の通過点だったんじゃないか、とも思います。よく分からないまま旅に出ましたが、きっと自分が求めていたのは、「人との関わりの中で得られる刺激」であって、それをここ萩市で体感することが出来ました。これまで刺激は海外でしか得られないと思っていましたが、自分が今まで知らなかっただけで、日本にもまだまだ、自分が知らない未知の世界があるんだと、今回の旅で気づかされました。

ちなみに、その後島根に移動した後、同じく山陰地方を一人旅している男性に偶然出会い、私とは逆ルート(鳥取~島根~山口)でこの後山口に向かうとのことだったので、萩市を紹介したら早速行ってくれました。鳥取では、地元のお風呂屋さんで偶然関東人の女の子に出会い仲良くなり、今度関東で会おうとお話しました。

島根県松江市 宍道湖から見える夕日

出会いはどこに転がってるなんてわからない。私はこのわずか9日間の旅で20人以上の新しい人に出会い仲良くなりました。(萩市での新年会込みですが(笑))こうやって人と人、人と街が繋がる、そうした旅の在り方は一人旅ならではの楽しみ方で面白い!こんなに心が満たされたのは久しぶりだし、もうニート生活悔いなし、です。

ほぼ萩市の宣伝みたいになってしまいましたが(笑)もし人生に悩んでいる方がいれば、一人旅をおすすめします。(コロナで動きづらいですが・・)きっと、思いもよらない出会いや発見があるはずです。私はこれからも自分が知らない未知の世界を求めて、また一人旅に挑戦したいと思います。

鳥取県鳥取市 旅の終着点、鳥取砂丘にて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?