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アメリカ大統領選挙直前まとめ (3) 最後の世論調査結果と、当日の追い方

ついにここまできました。アメリカ大統領選挙当日まで、ワシントンDC時間で残り15時間を切り、開票まで一日とちょっとです。

世論調査会社は火曜日に行われる選挙にさきがけて、最後の調査を日曜日から月曜日にかけて発表します。この情報を集約することで、最後の情勢分析が可能になるのです。

大統領選挙まとめの第三回は、こうした最後の状況と、劣勢が報じられているトランプ氏の勝ち筋と、選挙当日はどこを見ているといいのかといったポイントについてまとめましょう。

最後の世論調査まとめ

第一回でも解説したとおり、大統領選挙が戦われるのは州ごとです。なので全国の世論調査にはもはやあまり意味はありませんが、それでも状況を知るのにはよい指標となっています。

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最後の世論調査の平均として、バイデン氏が8.5ポイントほどリードしており、選挙全体としてはとても安定していることがわかります。ただし、後述するとおり、民主党は Electoral Collage つまり選挙人の州ごとの分布のせいで、これだけ有利であっても勝利は約束されてはいません。

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勝敗の要となるペンシルヴァニア州について、FiveThirtyEight で集計されている世論調査はこのような分布になっています。丁度いいのでこの表の読み方を解説すると、Sample と書かれているのはインタビューされた人の数、LV / RV といった表示は Likely Voters / Registered Voters の違いで、選挙にいく意思がある人を対象としているのか、単に選挙登録を済ませている人に調査しているのかという違いになります。

A、B といった記号があるのは、この集計をした FiveThirtyEight が独自にまとめている世論調査会社のランキングです。手法も規模も信頼できる世論調査なのか、オンラインで自動的にまとめられた調査なのかといった違いで、ランク分けがされています。

世論調査会社には、時として政党から依頼をうけて調査をしていたり、支持政党を支援する目的で調査をしているものもあるため、こうした区別が必要なのです。実際、この票で唯一「Trump +1」になっている InsiderAdvantage という会社は、系統的にトランプ氏を支持する数字を出す傾向があるので、少し注意が必要です。それは結果が間違っているという証拠ではなく、平均を取る際に警戒する必要があるということです。同様に、「Biden +14」を出している Targoz という調査も、outlier として注意しておく必要があります。

こうした詳細を横目でみつつ、ペンシルヴァニア州の状況をみると平均で「バイデン +5.3」ほどになります。

同様に接戦州を一つずつ見ると、アリゾナ州が + 3.1、ノースカロライナ州が +1.9、フロリダ州 +2.4、ジョージア州 +1.1 という具合に、バイデン氏が若干有利に選挙戦を戦っているのがわかります。

もっと詳しく世論調査を楽しみたいなら cross tab を見る

バイデン氏の支持はどこからきているのでしょうか? こうした詳細を見たい場合は、それぞれの世論調査の発表している cross tab をみてクロス集計を行います。

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たとえば信頼度の高い NYTimes / Sienna Collage という最新のペンシルヴァニア州の世論調査の cross tab はこのようになっていて、性別、年齢、人種、教育といった区分けで支持層を見ることができます。

これによると、トランプ氏の支持は30代から60代の男性・白人・大学卒業資格なしという区分けで強いのに対して、バイデン氏は女性、黒人、若年層、65歳以上の高年齢層、大学教育をうけた白人男性層の分野でトランプ氏をリードしており、2016年と支持の状況がずいぶんとかわっているのがわかります。

トランプ氏にはまだ勝ち筋がある

では、トランプ氏の再選は絶望的なのでしょうか? そういうわけでもありません。

FiveThirtyEight の代表のネイト・シルバー氏がちょうどトランプ氏の10%の勝率をどのように捉えるかという記事を書いています。

要点として、バイデン氏はいくら優勢とはいえ、ペンシルヴァニア州で勝たない限り明確に勝つことができるプランBの州がないということ。そしてペンシルヴァニア州の 5% の差は大きいとはいえ、統計的な誤差でひっくりかえってもおかしくない程度だという点です。

2016年はトランプ氏とクリントン氏の間で迷っていた人々が3割ほどいて、その多くがトランプに票を投じたのが決定打となりました。今回はそうした態度を明確にしていない有権者はほとんどいないので、前回ほど誤差は生まれない可能性もあります。2016年のときに問題となって大学を卒業していない白人男性票の過小評価問題も多くの世論調査では対応済みです。

しかし、どんな誤差がどこからでてくるかわからないからこそ、統計的な誤差ともいえます。

トランプ氏としては、とにかくペンシルヴァニア州で予想をうわまわる支持者の投票を期待し、そうした支持者の熱意が他の接戦州にもすべて広がることを祈るということになるのでしょう。

勝敗の分け目となる5つの州

というわけで、選挙当日は次の5つの州が要注目になってきます。

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ペンシルヴァニア州、ノースカロライナ州、ジョージア州、フロリダ州、アリゾナ州の5つです。

トランプ氏は、このうちどれ一つを落としても再選の可能性は極端に低くなります。たとえば昨日紹介したこちらのシミュレーションのサイトで、ペンシルヴァニア州をバイデン氏に与えると:

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勝率はたった2%になってしまいます。しかしもしペンシルヴァニア州がトランプ氏にいくようなら:

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一気に情勢は逆転します。

ウィスコンシン州、ミシガン州、ミネソタ州といった、2016年に注目された州でのバイデン氏の優位が広がっていますので、この5つの州のどれを失っても、トランプ氏は窮地に陥りますが、この5つが取れるなら、再選できるということでもあります。

逆にバイデン氏は、ペンシルヴァニア州を失った場合でも、アリゾナ州を確保できていさえすれば、ぎりぎり勝つことができます。

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ここで重要になってくるのがネブラスカ州です。この州は勝者に与える2票の代表人に加えて、3つの Crongressional District という区それぞれに1票が存在します。その Nebraska 2 という選挙区はバイデン氏有利ですので、270ちょうどで勝つ可能性があります。

逆に、もし Nebraska 2 でバイデン氏が負けるようなら 269 / 269 の引き分けとなり、結果は下院の評決に委ねられるのですが仕組み上、州ごとに1票が投じられるのでトランプ氏が勝つことになります。

選挙当日の開票の流れと注目点

今回の選挙は、すでに解説した「ブルーシフト」の問題がありますので、特にペンシルヴァニア州の勝敗は当日には決まらない可能性があります。

ですので、当日はまずノースカロライナ州、フロリダ州、ジョージア州といった接戦州の状況からみるという流れになります。

東海岸で開票が進むにつれて、これらの州の状況がみえてくるようになるでしょう。特にノースカロライナ州とフロリダ州は、郵送投票も含めて当日のうちに大半の票を数えることが可能ですので、もしここでバイデン氏が圧倒しているようならば、勝負あったということになるかもしれません。

時差の影響で開票作業が西海岸に移ってきたら、アリゾナ州に注目します。アリゾナ州は、ペンシルヴァニア州やノースカロライナ州といった東海岸の州とはあまり動きが相関しませんので、その結果は注目されます。

いずれにしても、最初の段階でトランプ氏優勢が伝わっても、郵送投票がどれだけ加味されているのかを知るまでは、状況はまったく読めないというのは繰り返し強調する必要があります。

そうした膨大な情報をアップデートしながら、わたしも水曜日の当日は楽しみながら開票作業を追いたいと思います。


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