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投票まで53日。トランプ大統領再選の可能性について考える

ジョー・バイデン氏の副大統領指名と党大会も終了して、アメリカ大統領選挙はついに最終段階に近づいてきました。

イベントとしては、あとは3回にわたる候補者自身によるディベートだけが残されていますが、今年は特殊な状況もあってすでに始まっている郵送投票がとても注目されています。

本来ならば、候補者は州から州へと飛び回り、巨大な選挙ラリーを展開して支持者を集めていなければいけない段階なのですが、それも叶いません。今年の選挙戦は鳴り物の少ない、オンラインやメディアを中心とした戦いと化しています。

日本ではあまり情勢についての話題が入ってこないと思いますので、現状での世論調査による情勢についてご紹介しておこうと思います。

全体的にバイデン氏が有利。ただし、見落としてはいけない弱点も

世論調査については前回の記事でも紹介したとおり、さまざまな不確定性やそもそも調査が少ないといった問題もありますし、2016年の選挙であきらかになった教育レベルでの補正ミスといった限界も指摘されています。

そうした苦い経験から統計屋さんたちがだいぶ学んで、今回さまざまに補正をかけた選挙予想を立てているひとつの例が我らが FiveThirtyEight のこちらのページです。

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毎日世論調査の結果を踏まえて、さまざまな要素を考慮して40000回モデル計算を実行して、そのうち100個のサンプルをとったのがこちらの図です。

それによると、バイデン氏は100回選挙を行うなら74回当選、トランプ氏は24回、引き分けが1回という頻度分布になっています。バイデン氏が有利なものの、特定の条件が成立すればトランプ氏当選の確率も無視できないというわけです。

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この数字は時系列でみるとこのようになっており、パンデミック対応と、BLM 運動が全米に広がったときの対応が批判された7月あたりにバイデン氏が大きくリードをしたときに比べれば若干差が縮まったものの、全体でみると非常に安定したバイデン氏有利の情勢です。

日本では、8月末に共和党党大会が終わってトランプ氏に若干の数字の改善がみられたときに報道が多数あったので「接戦!」という部分が強めに広まっていますが、実際のところはこのようになっているわけです。

じゃあ、明らかにバイデン氏が有利なのかというと、そうとはいえないのがアメリカ大統領選挙の面白いところです。なぜならこの選挙は直接選挙ではなく、州ごとの選挙人 Electoral Collage を通した間接選挙だからです。

そしてトランプ氏の共和党は、勝敗を決める州において Electoral Collage Advantage と呼ばれるアドバンテージをもっているのです。

接戦州と共和党のもっているアドバンテージ

それではどこが接戦州になっているのかをみてみましょう。次の図で黒枠で囲まれている州がそれです。

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西から順に、アリゾナ、コロラド、ミネソタ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルヴェニア、ヴァージニア、ノースカロライナ、フロリダです。

なかでも、フロリダ、ペンシルヴェニア、ウィスコンシンの3州が鍵だといわれています。

フロリダ州は常に接戦が演じられる州ですが、現時点では +2 ポイントほどでバイデン氏が優勢です。もしバイデン氏がフロリダ州で勝つなら、その29選挙人によってほぼトランプ氏の再選は絶望的になります。フロリダが民主党側になった場合には、ほぼ間違いなくペンシルヴェニア州も民主党側になるはずだからです。

しかしこのフロリダ州の情勢が、最近になって接戦に転じたことが報じられています。フロリダはヒスパニック人口が多い州ですが、クリントン氏を強く支持していたこのブロックがバイデンを同じレベルでは支持していないことがその理由として挙げられます。

一方で、共和党側につくことが多く、投票率も高い白人高齢者層が、トランプ支持から離れているという情報もあり、情勢は2016年とも違った、きわめて読みにくい状況となっています。

もともと、この白人高齢者層の支持があるために、全米平均に対してフロリダは1-2ポイントほど共和党寄りであることが知られており、バイデン氏はこの差を埋める勢いで支持者を集めなければいけないのです。

似たような「全国平均に比べると共和党より」というトランプ氏にとってのアドバンテージはペンシルヴェニア州にも存在します。そしてもしバイデン氏がフロリダも、ペンシルヴェニア州も落とした場合に、双方の勝ち筋はとても複雑になってきます。

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そうした場合に、可能性がゼロではないのが 269 / 269 の引き分けになるという場合です。引き分けの場合は下院の議員が州ごとに多数決で投票することで決戦票が投じられますが、州ベースでみると現在は共和党が優勢ですのでトランプ氏が当選することになります。

そしてその最後の1票を決めるのが、ネブラスカ2区という、これまで注目されたことがない場所になるという可能性すらあります。ネブラスカとメイン州だけは勝者総取りではなく、3つの区に分かれている州なのですが、このうちどちらに転ぶのかわからないのがネブラスカ2区なのです。

若干民主党が優勢と言われているこの区がバイデン氏にゆけば、270 対 268 という、みたこともないような接戦の末にバイデン氏が勝つという場合もあるかもしれません。

逆もおなじくらいありうる、バイデン氏圧勝のシナリオ

しかしいくら2016年にトランプ氏が驚きの勝利をつかんだからといって、今回も同じ結果になるとは限りません。接戦が出現するのと同じくらいの確率か、もう少し高い確率でバイデン氏が圧勝するシナリオもあります。

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現在の世論調査では、ペンシルヴェニア州も、ウィスコンシン州も、5-9ポイントほどバイデン氏が有利になっています。もし、予想を上回る民主党側の投票率が発生した場合、先程の共和党アドバンテージは吹き飛びます。

それどころか、その場合はトランプ氏優勢とはいえ予想以上に接戦となっているテキサス、ジョージア、アイオワ、オハイオがバイデン氏の手に落ちる可能性も高くなります。

さきほどの 269 / 269 が出現するのと同じくらいの確率ですが、バイデン氏400越えの圧勝というシナリオもあり得ます。すべては、誰がどの程度投票に向けて行動するかにかかっています。

非常に安定した選挙戦

と、ここまでみてきましたが、今回の選挙戦は2016年に比べてきわめて安定しており、接戦州においてもバイデン氏が50%を超える支持率をもっている場所もあるほど、状況が違います。

2016年はヒラリー・クリントン氏が優勢とはいえ、非常に危うい不確定性の上に立っていたことをメディアは報じそこねました。今回は既知の不確定性においてはバイデン氏有利という状況は概ねどの予報も一致するところです。

しかし今年は普通の年ではありません。そして普通ではない選挙戦の終盤が、これから始まろうとしています。



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