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「心のお花に水やりを」

も〜〜〜このポップコーンチキンめ!!!と、長男が捨てセリフを吐いて去って行った。私と小競り合いをした締めの言葉。どうしても一言を残さずにはいられなかったみたい。ママはポップコーンチキンの謎。アメリカンキッズ流の悪口だろうか。いずれにせよ、また怒らせてしまった。

どんどん口が達者になり、反抗期へ足を踏み入れつつある長男とは、よくケンカをする。ただでさえ、昔から強烈な個性を発揮していた子だ。お互い大好きなのに、向き合うと拗れる。歯がゆいほどに、齟齬が生まれる。末期の恋人同士かな?

愛するってなんだろうと、途方に暮れる日があった。愛し方がわからないなんていうと、まるで親としても生き物としても何か欠落しているようだ。でも、人を愛することなんて学校では教えてくれない。長い人生でいくつかの恋を経験したけれど、恋と愛もどうやら違うものだった。

真面目な私は、だから「愛」に関する本を読んだ。こんなことはきっと、大昔からみんな頭を悩ませていたに違いない。哲学者やお坊さんと呼ばれる人たちが言語化してくれているはずだと、検索枠に打ち込んだ。

3冊ほど読んだ中で、運よくお気に入りの一冊を見つけることができた。ベトナム出身の禅師で詩人のティク・ナット・ハンという方が書かれた「愛する」。タイトル、ぴしゃり。


愛をテーマにした教えが、詩のような短いセンテンスで表現されている。ゆっくりと諭すような語り口。ぱらぱらめくると、こんな一節に目が留まった。

どんな子供も、人類という花園の1輪の花として生まれてくるのです。
世の中に、1輪として同じ花はありません。
(あなたという唯一の花)

愛する/ティク・ナット・ハン

花が自分の思い通りに育たなくても、きっとあなたはその花を責めたり、言い争ったりはしないでしょう。
あなたのパートナーもお花なのです。
ちゃんと手入れすれば美しく育ち、手を抜けば枯れてしまいます。
うまく咲かせるためには、その性質をよく知っておきましょう。
あなたの大切なお花は、日当たりが好きですか。どんな水加減が好きですか。
(相手のお花に水やりを)

愛する/ティク・ナット・ハン


パートナーは、お花。特に、子どもをそう考えてみると、すごくしっくりくる。自然のままで、とても純粋で、世界に明るさを与える存在。そんな尊い子に対して、思い通りにならないからと、腹を立てていたのかもしれない。

私は、きれいな水を子どもたちに与えられているだろうか。毒にも似たものを放って、弱らせていないだろうか。性質を見つめずに世間一般の定義を当てはめて、枯れさせていないだろうか。考え出したら、ちょっとだけ怖くなった。

そして、上手じゃなくても、なるべくきれいな水を注ぎたいと思った。

この本では、相手を理解しようとする姿勢を説くと同時に、とにかく自分を大切にすること、思いやることの必要性が述べられている。最初のほうに置かれた一節を引用したい。

「愛と幸せの育て方」は、誰にでも学ぶことができます。
どんなものでも、生きているものはみんな養分を必要とするのです。
それは愛ですらも同じこと。
育て方を知らないと、愛はしおれてしまいます。
あなたが自分を大切にして、幸せでいるとき、愛する力は育ちます。「愛する」とはすなわち、「幸せの育て方」を学ぶことなのです。
(愛の育て方)

愛する/ティク・ナット・ハン


私が自分を大切にして、幸せでいるとき、愛する力は育つのだという。誰かにきれいなお水を与えたいならば、まずは自分がたっぷり水分を含んでおかなければならないのである。

一生懸命に生きようとするほど、自分を後回しにしてしまう。枯渇しているにもかかわらず、さらに搾り取ろうとする。いつだって自分に一番厳しいのは他ならぬ自分だ。

他人を愛することが苦手なのは、自分を愛することが苦手だから。そう捉えてみたら、なんだか腑に落ちた。

目の前にある手を見ると、すごくカサカサしている。日々を生きる勲章でありつつも、もっと労りを覚えてもいいのかもしれない。ハンドクリームを塗る。温かいココアを飲む。観たかった映画を選ぶ。お水をあげよう。たっぷりのお水を、ひたひたに満ちるまで。



※タイトルは「愛する」の見出しからお借りしました

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