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「天国は近づけり」卜部哲次郎

「虚無思想研究」の解説に、卜部(うらべ)哲次郎の反労働的な文があった。
「ニヒル」創刊号の巻頭に収載されていたようだ。

或る労働争議の示威行列の旗印に『八時間労働制要求』とあつたのを見て吃驚しました。そんなにして迄八時間も労働させていただく必要があるのか知ら。僕は『働かない人』(man who never work)です。友人を順番に居候し歩いて居ます。居候するにしても絶対に縦の物を横にもしない事を条件にして居ます。居候が不愉快になると乞食をします。もらつて喰ったり、拾つて喰つたり、辻堂に寝たり、野宿したりします。野宿は決して寒くありません。やつてみれば判ります。資本家を遊ばせる為に、××××を存続させる為に、何も知らずに働いて細々と暮らして居る人達を見ると、馬鹿らしくもあり、いぢらしくもあります。何故働く事がそんなに美徳なんですか。いったい美徳とは何ですか。働くとは何ですか。働かねばならないと誰が決めたのですか。誰がそれを美徳と名づけたのですか。ああ遍身綺羅するもの、これ養蠶の人にあらず。十だけ働いて一だけもらふよりか、零働いて零受ける方が気持がさっぱりします。働かないと喰へないと思つてるのですか。地主の旦那は遊んでるぢやないですか。社長さんは妾を飼ってるぢやないですか。北海道の熊だつて別段生産もしないで親子夫婦仲よく暮らして居るぢやないですか。

みんな働く事をやめなさい、とこれは僕が申すのぢやありません、釈迦が弟子に遺言したのです。だけどみんなが乞食になつたら社会がなり立たないと言ふでせう。社会がなり立なたかつたら何故×××××××か。実を言ひますと僕の理想は人類の救済なんです。

※「遍身羅綺者、不是養蚕人」……11世紀の隠者、張兪の言葉。きらびやかな衣服をまとう者は、蚕を養う貧民ではないこと。

伏せ字の部分は何が書かれていたかよくわからない。

卜部哲次郎の生涯については以下に詳しい。
乞食行脚をしたあと、住職になって死んだらしい。

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