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白線ゲーム。

子供の頃
道路の白い部分を安全地帯に見立てて、その上だけを渡るという遊びをしていた。

うっかり 黒いアスファルトの部分を踏んでしまえば、谷底に落ちるとか、死んでしまう等のマイルールを決めて…
なんとしても白線から落ちないように、自分にプレッシャーを与えたりするのだ。

しかし、まだ幼い小さい足では そうそう踏み外すことはなく、目をつぶっても歩けそうだった。


久しぶりの飲み会。
高校卒業以来に再会した すっかり大人になった昔の友人達は、順当に結婚したり、子供をもうけたりして…
まるで…白線の上を、着実に歩いているようにみえた。

その日の帰り道、どうにも行き場のない気持ちの私は、不意に、あの 白線ゲームをやりたくなって足を乗せる。
( あれ?こんなに、難しい遊びだったかな? )
ほろ酔いも相まって、危なげな歩調の足取りは、いつ 谷底へとすくわれておかしくない。
3 分程して、歩いてきた白線を振り返る。
( あの横断歩道がスタートだから、80 メートルくらいか )
信号が赤から青へと変わって、ゴーサインが出ると同時に始まった このゲームは…
千鳥足なりにも、そこそこに白線上を歩いてきた。
( なんだか、人生のようだな )
嘲笑ちょうしょうしながら前を向くと、今度は背筋をしゃんと正す。

一歩、一歩…
大通りを過ぎた夜道は 視界が狭く、街灯でもないと、1 メートル先すら はっきり見えない。
そればかりか、これまでの努力の証であるはずの右手に下げた仕事帰りの重いかばんは、容赦ようしゃなく私のバランス感覚に揺さぶりをかけてくる。
下だけを向いて、さながら 地図をなぞるように、すごろくのコマを進めるように 慎重に足を進めていく。

     プップー!!
どれくらいったろう…
小路こうじに突然あらわれた、その けたたましく鳴らされたクラクションに、はたと我に返る。
夢中になって周りが見えなくなるのは、生まれつきの性分しょうぶんだ。
閃光せんこうのハイビームが、私の行く先を照らすと同時に、向いの道路に渡る為、数メートル先で途切れてしまう白線に気付く。
これまで 何度も歩いてきた道なのに、今は、唐突な行き止まりに戸惑いすら感じる。
( あーあ )
溜息ためいきが口をき、頭の中では、耳覚えのあるようなゲームオーバーの BGM が流れた。
( はてさて、どうしよう )
・白線を追って、どことも知らない道を進むか。
・投げ出して、ゲーム終わらすか。
二者択一たくいつの状況に置かれた時、私は 迷いもしないで、早々に諦める方を選んできた。
例によって、右足を黒いアスファルトにおろそうとする直前…
今夜の飲み会でみた、満たされた友人達の顔が浮かぶ。
結婚をし、子供をさずかり、旦那の愚痴混じりにグラスをかたむける彼女達は、所謂いわゆる ’ 勝ち組 ’ なのだろう。
それならば、私は、こんなゲームすらクリア出来ない ’ 負け組 ' ってところか。
子供がやりがちな戯事ざれごとに、自身の人生を重ねるなんて、到底馬鹿げてはいると思ったが…
少し酔いも覚めて襲ってきた アンニュイな感情が、宙ぶらりんなままの足を、より重くした。


( …もう いっそ、死んでみようか )
遠回りに似た逃げ道でもなく、言い訳して諦めもせず…
今 ある現実を受け入れようと、き物が取れたように勢いよくアスファルトを踏み締める。

   私が死んでも、世界は何一つ変わらなかった。

晴れて、名実めいじつ共に『 敗者 』のラベルを貼られた身体は、どこか晴れ晴れしく、勇者でもないのにレベルアップした気さえする。

右手に持った地図を投げ捨て、コンティニューボタンを左手で叩き押した後…
今度は、前を一心に見据えて、夜の街を疾走しっそうした。


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