怒られた父のクリスマス
クリスマスを間近に控えたこの季節、街のいたるところがイルミネーションで彩られ、鈴のきらきらしたクリスマスソングが聴こえてくる。小さい子どもを持つ親はプレゼントやケーキの準備に忙しい。
この時期になると、よく思い出すことがある。
それはまだ私が小学二年生の頃、両親と兄弟三人でデパートに行ったときのことだ。
そのときもデパートは華やかにクリスマス一色で賑わっていた。
クリスマス限定のキャンペーンだったのか、ある一定の金額以上の買い物をすると券が貰え、くじ引きができるというイベントが行われていた。
受付スタッフは赤い帽子を被ってサンタクロースに扮した若い男性である。
ちょうど三枚の券があったため、兄二人と私、一人一回ずつくじ引きをやらせてもらった。
兄二人はドラゴンボールのキャラクターグッズが当たった。それは兄弟皆が好きなアニメであったし、家で楽しく遊べそうな玩具で、とても魅力的だった。兄たちを羨ましく感じながら、最後に私の番を迎える。少し緊張してくじを引くと、うさぎの縫いぐるみが当たった。
何で自分だけ……。納得がいかない。兄たちと同じ玩具が欲しかった。
父に向かって、
「これ、やだぁ! お兄ちゃんと同じのが欲しいよぅ」
と大声を上げて我儘を言った。父に宥められるも、私の興奮はおさまらない。
すると父は、悲しんでいる私を見かねて、スタッフの人にお願いしてくれた。
「あの、どうしても子どもがこっち(ドラゴンボールのグッズ)が欲しいと言ってるんです。あの、変えてもらうことは、できませんよね……?」
スタッフに気を遣いながら、無理を承知で恐る恐る訊いているのがわかった。
「何言ってんだ! 変えられるわけねぇだろ! こっちも商売でやってんだよ! だったらまた買い物して券をもらってこいよ!」
スタッフの怒声に恐怖を感じた。父はもう一度お願いした。
「そこをなんとかできませんかね……」
「できるわけねぇだろ! はい、次のお客さんがいるからあっちいって」
父は、丁寧に謝っていたが、ぞんざいにあしらわれた。そして、私の背中を擦り、
「ごめんね」
と、一言告げてすぐにその場を後にした。
そのとき、初めて見た。いつも頼りになる父の哀れな姿を。でも父は、ただ何も言わずに黙っているだけである。相当に悔しかっただろうに悲しい表情も見せない。
そして、私のために無理なお願いをしてくれた父の一所懸命な声、肩、眼差し。それらが強く目に焼き付いて、頭から離れない。私はひどく罪悪感を抱いた。同時に、父の私を思いやる愛情の大きさは計り知れないものであると肌で感じた。
帰りの車の中、何事もなかったように皆は談話していた。私は一人、ずっと黙っていた。父の気持ちを考えながら。
あなたは私にとって最高の父です。私もあなたのような父親になりたいと、あのときからずっと、今も変わらずに、心からそう思っているのです。
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