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佐々木大地の夏が始まる。 ――連載「棋士、AI、その他の話」第22回

 2023年4月24日棋聖戦挑戦者決定戦、永瀬拓矢王座-佐々木大地七段。この大一番に、佐々木は秘策を用意していた。飛車先の歩が交換された直後、彼は近くの金を掴み、一マス上に置く。何だこの手は。現代ではおそよお目にかかれない一手だ。だが理屈はある。AIが評価する囲いにスムーズに持っていくための工夫なのだ。つまりこれは現代将棋だからこそ現れた一手とも言える。さしもの永瀬も、手が止まった。
 これがきっかけとなったか、駒組みの段階で佐々木はリードを奪った。それをじわじわと広げていく。永瀬は粘りに粘り倒すが差は縮まらない。やがて166手、万策尽き果てた永瀬が頭を下げた。佐々木七段の会心譜だ。
 この勝利で佐々木は、4年前の忘れ物を取り戻したのかもしれない。

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