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芸術文化の祭典・欧州文化首都2019オープニングセレモニーにて……『一緒だから、一緒じゃない』

ブルガリアのプロブディフに滞在して1週間。
その後半にあたる1月12日夜、欧州で30年以上開催されてきた芸術文化のビッグイベント『欧州文化首都』のオープニングセレモニーがおこなわれました。

(動画がうまく貼れないので、あとで挑戦します!)

『欧州文化首都』は、いわば、EUをあげての文化オリンピックのようなもの。毎年、基本はEU圏内で選ばれた2都市で開催されます。開催地の座を勝ち取った2都市は、その年1年間をとおしてさまざまな芸術文化のイベントを繰り広げることになります。
そのオープニングを飾る1月。2019年の開催地に選ばれたプロブディフの街には、大通りを封鎖してこのイベントのためだけに大きなタワー型ステージが建てられました。

これ、わかりにくいと思いますが、ウェディングケーキの段みたいになっている「段」の部分が全部ステージです。さらにこのタワーを串刺すように左右に(たぶん)数百メートルはある大きなランウェイも伸びていて、2,000人以上はステージにあがれるんじゃないかなぁ!?予想ですけど。
昼間はなんだか謎の大きなタワーなんですけれど、夜には四方八方に光り輝きます。そして12日夜19時のオープニングセレモニーでは、ステージで数々のパフォーマンスがおこなわれ、最後は盛大な花火が打ち上げられる予定なのです!!

タワーのほかにも、商店で賑わうセンター街や広場、裏通りにもいくつものイベントスペースが設置されています。セレモニー前日の11日(金)から、街頭やギャラリーにはアート作品が展示され、ストリートパフォーマンスもおこなわれています。

ちなみに東洋人はほぼ見かけません。ブルガリアはEUで一番経済力の低い国で、プロブディフは首都でもなく人口70万人の第二番目の都市(芸術文化の面ではブルガリア一番の都市です!)。ここでは日本人は珍しいのでしょう。歩いているといろんな人に「どこから来たの?」と声をかけられます。ある時はカップルのうち女の子が彼氏を置きざりにして私のところへ寄ってくると、肩を叩いて「ねえ、ハポン(Japan)?チャイニーズ(Chinese)?ここでなにしてるの?この街どう?楽しい?」と嬉しそうにまくしたててきました。その間、彼氏、微笑みを浮かべてぽつんと待っています。この街の男性、ほかのカップルでも幸せそうにガールフレンドのことを見ていて、優しそうなのよね。

そして海外でカメラをかまえているとかならずいる「俺も撮って!」のおじさん。走ってきてカメラに写り込み、ポーズをとっては写りばえをチェックして、なんなら撮り直しをさせる陽気な男性たち。これやるの、どこの国もだいたい少年かおじさんなんだけど、なんなの、世界共通なの?(笑)

街のいたるところには、アート作品とともにイベントのロゴが。書かれた文字は、開催地にちなんで『Plovdiv2019(プロブディフ2019)』。垂れ幕やポスターにも、車の大通り脇の動画広告にも、カフェのメニューにさえ印刷されています。いかに都市をあげてのイベントなのかがわかります。本当に、まるで、オリンピックだ!

ちなみに私は2020年東京オリンピックについて「賑わうのめんどい。スポーツわかんない。人ごみ苦手、家から出たくない。むしろ東京から離れたい」とう個人的感情をかかえつつも、「盛り上がるのはいいことよね。経済効果もあるよね。楽しそうだったり頑張ることも素敵だし、たくさんの人に日本に来てもらえるし、文化交流や日常の潤いとしても良い」という考えもあります。一長一短、一利一害、一得一失。たいていのものごとって、きっとそうでしょう。
『プロブディフ2019』も同じで、準備に奔走するスタッフや盛り上がる地元住民がいる一方、たとえばタクシーの運転手さんなどは「そんなことに税金使って、いいことない」と憤慨していた人も。
そうですよね。イベント開催にあたって道路などが整備され利便性が高まり都市が整い知名度も上がり街のファンが増えるなどというのは、長い目で見れば良いこともあるでしょう。その一方、明日をも知れぬ一市民からは、将来やマクロ的なことより今のこの生活を少しでも改善して欲しい、という思いも垣間見えます。これもまるで、オリンピックが抱える感情の渦と似ています。古今東西の都市で起きてきた、起きている、これからも起こるであろう、違和。

さまざまな人間のいろんな感情を飲み込みつつ、それでも都市の祝祭ははじまる。

12日夜、オープニングセレモニー開催

歌、踊り、美術、パフォーマンス……前日から高ぶりはじめた街の熱気は、クライマックスである12日夜19時の「オープニングセレモニー」へ。早い人は3時間以上前から先頭の席取りをしています。気温マイナスの中で!!

17時には日没です。

暗くなった中、人々が密集しているのがわかります。そしてついに19時、オープニングセレモニーが始まりました!

ブルガリア語と英語でおこなわれるアナウンス。市長の挨拶。タワーに映る映像には、欧州EU各国の言語で書かれた「Together」。これが『プロブディフ2019』がかかげるテーマです。

ブルガリアはかつてローマ帝国、オスマントルコなど、さまざまな国に侵攻され、多くの血がまじる国です。そして、他の国に遅れること2007年にEU加盟し、EU内最貧国として成長を試みている国。だからこそ「Together」という言葉の重みはひとしおです。

ブルガリア伝統衣装を着た男女の踊り。子どもたちの詩の朗読。プロジェクションマッピングや光を駆使したコンテンポラリーダンス。超大人数の合唱団……など次々と。マイナスの気温なんてなんのその。人々の熱気で、もう熱いです!

約40分かけて、数々のパフォーマンスがおこなわれました。
そして最後には、このオープニングセレモニーを、そしてこれからはじまる1年間の欧州文化首都『プロブディフ2019』を支えるパフォーマーやスタッフがステージ上で一堂に介します。そこに1000人近くのボランティアのスタッフや学生も加わります。

私も、衣装を着てステージに上がるためにスタンバイ。ポジションは“インターナショナルチーム”。世界中から集まったボランティアスタッフやプロブディフに留学に来ている、いわゆる地元民以外=インターナショナルな人々によるチームです。私のまわりにはイタリア人、セルビア人、デンマーク人、イギリス人……とにかくたくさんの国の人!(人数多すぎてひとりひとり聞けなかった!)

国は違えど、EUというひとつの枠組みを通じて出会ったチーム。さらには、日本人である私がここにいるように、EUという枠組みをこえて世界がつながってます。私たちは違う国籍。でも、『Together』。一緒に。

合図とともにタワーの上へ。

ステージに立つと、きらめく光の眩しさに目を細める中、遠くまで見渡す限りの人だかり……!!!いったい何千人いるんだ!?!?道路の向こうまで人で埋め尽くされていてよく見えません。

盛り上がりは最高潮。街を揺らすほど鳴り響く音楽に呼応するように、大量の花火があがりました。連続する爆発音。そして歓声。きらびやかな花束が、夜空に咲き誇ります。

ああ、これから、1年間をかけて『プロブディフ2019』がはじまります『Together』を合い言葉に、さまざまな文化芸術イベントを実施していくのです。

この日まで、いろんなことがありました。1月7日にプロブディフ入りしてからオープニングまでの6日間、私はオープニングのための準備を手伝ったり、地元の少女たちに街を案内してもらったり、買い物や教会を覗いてみたり……たくさんの人に出会いました。みんな楽しく笑い合っている人ばかりではありません。大ゲンカをしている人もいたし、私みたいに英語がちんぷんかんぷんの人もいます。みんなそれぞれいろんな思いを持って、いろんな時間を過ごして12日の夜を迎えました。

そんなの、私たちは、知っているのです。私とあなたは違うことも。同じものを見て「良い」と思う人も「悪い」と思う人もいることも。あの国も、彼の国も、大人も、子どもも、学生も、スタッフも、ボランティアも、タクシーのおじさんも。みんな違うってことを知っている。

それでも。いやそれだから。『Together』と言いたくなるのかもしれません。

たとえば、私がふだん仕事でかかわっている演劇は、音楽ライブのように劇場が一体になって盛り上がる作品ももちろんあります。ですが、同じものを観て同じ空間にいるのに、私は笑っていて、隣の席の人は泣いているということもあります。私は怒っていて、隣の人は絶賛していることもあります。その時に「私たちは違うのだ」ということを認識するのです。ひとりひとり、同じ人間だけれど、違う人間なのだ、と。

一緒にいるから、互いに違うことが際立ちます、いやおうなく。

恋人や兄弟が大ゲンカをするように、近くにいるから、理解できないことを知ります。プロブディフでのたったの6日間、私は言葉の通じないブルガリア人とは笑えるのに、同じ言語を話す日本人とは口論にもなりました。私たちは、同じじゃない。それでも私たちは、ケンカをしても仲直りを試み、別れてもまた恋をし、出会いを欲して旅をかさね、新しきを知っていくのです。なんでだろう。

一緒にいるから、互いに違うことが際立ちます、いやおうなく。

それでも一緒にいたいから、互いに「違う」ということを認めたいのかもしれません。共にここにいる、だから……一緒だから、一緒じゃない、ってことを知る。たとえ違っても一緒に笑い合うことをやめない私たち。ブルガリアはそうやって、侵攻されても民族が混ざり合ってきた国です。そして今のEUも、異なる国同士が互いの文化を尊重しながら手を取り合い、繋がろうとしているのです。それはつまり、一緒にいながら、同じじゃないことを大切にするということ。

私はステージの上で、隣にいる自分とは違う誰かと肩を組みながら、笑いました。イタリア人、セルビア人、デンマーク人、イギリス人、中学生、大学生、大人、おばあちゃん、セレモニーに集まった人、自宅で花火の音を聞いている人、近くの教会で祈りを捧げている人、タクシーの運転手さんも。プロブディフの夜に幾度もこだました『Togethe』は、この街に集った人たちと「一緒にいることを続けよう」という宣言にも聞こえました。

Together.

  * * *

オープニングの最後の花火が打ち上がった後。

近くの公園広場でファイアーパフォーマンスがおこなわれました。ブルガリアの2つの団体が合同でひとつのショーをします。オープニングセレモニーの流れでこのパフォーマンスを見に来る人は多く、人だかりができていました。

演目は、ドラゴンと妖精たちの舞。
ボランティアスタッフや地元の高校生たちも手伝うこのパフォーマンスは、21時からはじまります。

私も設営準備から関わっていたこのイベント。本番、強風で予定よりも人手が必要になってしまいました。急きょ、必死で3m大の白いボールを押さえる係に……。おかげでさっぱりドラゴンも妖精もは見えませんでしたが、みんなの歓声でパフォーマンスが盛り上がったことがわかりました。よかった(笑)

まぁこれも、Together、のひとつですね。きっと。

もうひとつの『欧州文化首都2019』開催都市・マテーラ

12日の『プロブディフ2019』オープニングセレモニーに続き、翌週末19日には、欧州文化首都2019のもうひとつの開催都市であるイタリアのマテーラでも、オープニングセレモニーがおこなわれました。

『プロブディフ2019』のテーマは“Together”でしたが、『マテーラ2019』のテーマは“Open Future”。かつてはあまりの貧困のために「イタリアの恥」とまで言われたマテーラが、未来へ託した想いのようで、その強い意気込みを感じます。

しかしマテーラは建築や歴史ともに古く貴重な街です。その美しさ、ぜひ肌で感じたいものです。

  * * *

2019年。これからこの2都市で、1年間、芸術文化のさまざまなイベントがおこなわれます。お近くに行かれる方は少し足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

また、日本でも、今月1月末頃に『プロブディフ2019』『マテーラ2019』それぞれの現地日本人ボランティアスタッフの募集もはじまるそうです。そちらもおすすめします。ただ見に行くだけではない、地域と現場に入り込んだ関わり方からは得るものも多いでしょうから。(詳細は発表されたらリンクしますね!)

ちなみにイタリアは言わずもがな食の美味しい国ですが、ブルガリアのご飯も日本人の舌に合いますよ!食べすぎて1週間で2キロ太っちゃいました!美味しいんだもん!!

※写真一部はPlovdiv2019公式Twitter、Matera2019公式Twitterより

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