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「高校演劇アワード2020」開催中止となりました

3月21・22日に予定されていた『いわて銀河ホール高校演劇アワード2020』が開催中止となりました。わたしは審査員のひとりとして伺う予定でした。

中止の理由は新型コロナウイルスの影響ですが、厳密には、高校の一斉休校にともなって登校禁止・部活動禁止となった高校が複数あったことだそうです。稽古もできなければ、部活として岩手県まで遠征することができません。そのため、主催側がコロナウイルスの対策どうこうを検討する前に、開催自体が物理的にむずかしくなりました。
……ということを、アワードを主催するギンガク実行委員会の方から電話で丁寧にご報告いただきました。おそらくほぼ選択権がなく突然だっただろう結果に、もう、電話を握りしめ、なんと言えばいいのかがわかりませんでした。

 

3月の終わり。
高校生にとっては1年の終わりですよね。みなさんの気持ちを想像しようとすると、どうにも、脳みそにもやがかかったみたいに苦しくなります……
きっと、この舞台が最後の部活になるはずだった方もいるでしょう。みんなで「絶対いいものつくろうね!」と励まし合った方もいるでしょう。一生懸命部員をもりあげて意気込んできた方もいるでしょう。乗り気じゃないけど稽古をやるうちにだんだん楽しみになってきた方もいるかもしれません。春休み、ほかにもやりたいことや行きたいところがあったけれど時間と気持ちを調整して部活にのぞんでいた方もいるかもしれません。汗を流したでしょう。むかつくこともあったでしょう。ケンカもしたかもしれないです。何度も本番のことを夢にみたかも。……ぜんぶ想像ですが。

わたしは出場校そして応募校のみなさんに憧れていました。
高校では演劇部だったけれど、全国高校演劇コンクールと春の県内演劇祭以外、上演の機会はもてませんでした。自分達が上演するために書かれた新作の台本を受け取って、稽古して、まさか部活のみんなで遠征して上演するなんて、マンガのなかのファンタジーみたいな話です。でも、それを、みなさんは選んで、応募して、出場権を手に入れた。すごいです。そんな発想もバイタリティも、高校生のわたしにはありませんでした。そうできるパワーを持った出場校の方々はすごいなと、ああ、お会いできるのが楽しみだなと、思っていました。
それに、全国の複数校がひとつの同じ新作を上演するという、なんて挑戦的でおもしろい企画!ひとつの作品を5つも?!そんなの初めてです!!そんな意欲的な企画を丁寧につむがれてきたギンガク実行委員会事務局のみなさま。なんて素敵な高校演劇のパートナーがいるんだろう、西和賀には。……憧れの地になりました。
 

東京都立江戸川高等学校 演劇部のみなさん
中央大学附属高等学校 演劇部のみなさん
山梨県立上野原高等学校 演劇部のみなさん
岩手県立盛岡第一高等学校 演劇部のみなさん
岩手県立不来方高等学校 演劇部のみなさんと岩手県立盛岡南高等学校 芸術部放送演劇班のみなさんの合同チーム

みなさんにお会いしたかった。

上演されるはずだった山本正典さんの戯曲『ひとはた』。6校による5つの『ひとはた』が楽しみでした。終演後にはそれぞれの『ひとはた』について話を聞いて、どうやってアイデアが産まれたのか、その舞台に立つまでの数ヶ月にどんな時間を過ごしてきたのかを直接たずねてみたかった。6校お互いの感想を聞いてみたかった。彼ら彼女たちのそばにいる顧問の先生の表情を感じて、高校演劇部についていろいろ教えていただきたかった。アワードで出会う6校の生徒たち、たくさんの人を受け入れる西和賀、ホールに来たお客さん達……それぞれが交流する、そんな数日を過ごしたかった。
同じく審査員の蜂巣ももさんと佐藤駿さんと、ああだこうだ言って、演劇と『ひとはた』とみなさんの作品について深めたかった。『ひとはた』を書かれたコトリ会議の山本正典さんに、「なんでこの戯曲こうなってるんですか?」と聞いてみたかった(これはいつかやろう)。

時間をかけて準備をしてきた出場校のみなさんはきっと、楽しみにして、努力してきたはず。あっという間にまわりで勝手にいろんなことが決まってしまって、どうなるんだろう、なんでこんなことになるんだろうと、悔しかったと思います。
そして、出場校の生徒達と、みなさんを迎え入れようとしていた事務局や町のみなさまの無念はいかほどでしょう。稽古を重ねる部員達のすぐ傍にいる先生方におかれましては、職場である学校現場もまた大変に違いないなかでこのような結果となったこと、やりきれません。どの気持ちも想像しきることはできないけれど……。それでも少しでも関わらせていただいた立場として、悔しくて泣きました。

 

いま、全国でいろんな舞台やイベントが中止や延期になっています。現場の状況を知らないなかには「コロナが落ち着いたらまたやればいいじゃない?」と言う人もいます。でも、2度と同じ公演はないです。すべての演劇がそうですし、高校生にはとくに。

それでも、3月ではなくても『ひとはた』をどこかでどうにかして上演しよう、と考えていらっしゃる学校もあるようです。その時にはきっと観に行きます。世界のどこでやっていても、行きたいです。むしろご迷惑でなければ稽古にも伺いたいくらいです。いえ、『ひとはた』とアワードのためになにかできることがあれば……なにができるのかまだわからないけど……。

 

2020年の幕開けからいろんな悲しみが立て続けにありましたが、そのうえこんなことになるとは思っていませんでした。これから状況がどうなるかはわかりませんが、できることをします。私も。
理不尽なことに、納得なんていきません。

その先には、わたしがあと40年くらいは生きてるだろううちのどこかで顔を合わせて「あのときコロナむかついたぜー!」と一緒に怒ったりできるかもしれない。今は悲しいけれど、そうできたら嬉しい。
そのために、とにかくコロナにかからないこと。もしかかっても安静にして治すこと。体力つけようとさっきも肉を食べました!人生で一番うがいと手洗いしてます!こんな思いまでしたんだからコロナにかかってやるもんか!!

 

と、今、これを書けているということは、わたしには多少なり時間と労力があるということです。きっと慌ただしい現場では、じっくりと向き合う余裕のない方々が今もたくさん働いていらっしゃると思います。たくさんの人達が、悔しさと苦しさを胸に、戦っているでしょう。
あっと言う間に転がるように状況が変わっていく日々。それもまた、右へ行ったり左へ行ったり、翻弄されるなかで決断をしていかなければいけない日々。どうやって時間を過ごしたらいいのかも不安だし、なにが正解なのかわからないなかではどんな結論を出すのも苦しいでしょう。
それでもひとつひとつできることに誠実に向き合おうとするすべての方々を尊敬します。どんな決断も尊重します。どんな願いも切実さも応援します。

そしてどうか、健康で。

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