投資先が破産してしまった
稼ぎのないライターのくせに、私のお金に関する執着は、自分が思っているより少ない。
高額講座に参加した結果、得たものが友人だけだったとしても特に不満はないし(むしろ安い)、今回、そこそこ投資していた飲食企業が「破産した」と聞いても、全くなんとも思わなかった。
「なるほど、そういうこともあるな」
と思っただけである。
しかし、ここから何かを学ばなければ、お金をドブに捨てたことになってしまうので、できれば今後に活かす知見を掴みたい。
そこで、はじめからこれまでの経緯などを整理して記録を残そうと思う。
1.株主になろうと思ったわけ
投資先を決めるにあたっては、自分の興味関心のある会社を選ぶのが定石だ。
私にとっては、「健康に痩せられる」というのは長年の課題であり、アンテナを張っているジャンルだ。
そこに引っかかってきたのが酵素玄米だった。
通常の白米より食べられるまでに時間がかかるが、玄米を発酵させているため、栄養価が高く食物繊維豊富でお通じにも良い。
しかもコメなので腹持ちがよく、我慢要らず。
そしてトドメが「痩せた」「痩せた」のクチコミの数々だ。
「食べるだけで痩せる」
こんな魔法みたいな食品があれば、そりゃみんな食べるでしょ。
それが手間要らずな美味しいお弁当として販売されるとしたら、みんな買うでしょ。
株価も上がるでしょ。
最初の動機はこれだった。
次に私が惹かれたのが、年に一度の「株主優待」。
酵素玄米のお弁当販売を掲げたその会社は、毎年8月に「特別なお弁当」に使われる酵素玄米を10合提供してくれるというのだ。
私は計算した。
「お弁当にした際の実売価格が、一合1000円として、10合で10000円。10年会社が続けば、株主優待だけでもとが取れるな」
と。
ところがその会社は、株主募集から1年で破産し、その間1度も株主優待が行われなかった。
これぞ「取らぬ狸の皮算用」である。
私はどこで間違えたのか?
会社が発行するIR(Investor Relations:企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供していく活動全般)を元に、私の判断ミスを検証していきたい。
2.初めてのIR(2023.6)
最初のIRは、経営者の自己紹介的な内容であった。
ちなみ、この会社のクラウドファンディングを利用した株主募集は大成功しており、目標の4倍近い出資を集めている。
私なら、株主になってくださった皆様へ一人一人お礼のメッセージなど書きたくなるほど、ありがたい出来事だ。
しかし、このIRではその大成功に対する「謝辞」的なものはごくあっさり綴られただけで、締めはこうであった。
なるほどここでは書けない思いなどはそちらに書く予定なのだな、と思い、早速その場でフォローしたが、現在に至るまで投稿はストーリーが2件あっただけである。
SNSが苦手なタイプの経営者もいるだろうし、そういう方まで無理してやる必要はないと思っている。
仕事が忙しすぎて、投稿している暇もなかったのかもしれない。
しかし、それにしてもだ。
株主にフォローを依頼しながら投稿ゼロってどういうこと?とは思う。
IRの文面から、この方は事業を自分の人生をワクワクさせるゲームだと思っているふしが窺えた。
たぶん、その印象は間違ってない。
起業は世の中をよくするためではなく、自分の楽しみのためのゲームだったのだろう。
100歩譲って、ゲームだと思うのは構わない。
だか、それなら自分のお小遣いの範囲でやって欲しかった。
富裕層でもない人たちが、何を考えどう思って出資したのか、想像したことがないんだろうな、と思う。
おそらく、そういう層の人間との付き合いがほとんどない方なのだろうという印象を受けたのだった。
3.IR(2023.7)
一月後に、2通目のIRが出た。
要約すると
①株主優待の配送が遅れます。
②なぜなら、コロナ明けで出社する企業が増え、お弁当のオーダーが引を切らず、株主優待に回せる分が確保できないからです。
③代わりに試食会やります、来てください。
景気の良い話だったので、そうかそうか、頑張れ!と思っていた。
ところが次のIRで一気に赤字が明るみに出る。
4.IR(2023.8)
次のIRは、その一月後。
早い。
事業に進展があったということだろう。
要約すると
①直営2店舗、今年度いっぱいで撤退します。バイトが集まりません。直営店の赤字が足枷になり、他の事業に割くリソースがありません。
②代わりに法人向け社食がんばります。
③でも、現在の店舗のみでは、スペース的にも人的にもキャパオーバーなので、もっと広いお弁当工場を作ります。
人気店だと思っていたら赤字経営だったことをこの時初めて知ったのであった。
しかし、配達弁当の需要は伸びているようだし、ここから逆転があるかもと思っていたのも事実。
静観の構えでいた。
5.IR(2023.10)
どんどん行こう。
要約する。
①直営2店舗、10月末で撤退決定、すでに居抜きで売ることになってます。飲食の実店舗、厳しいです。
②配達用の社食を製造するキッチンの拡張工事します。これで12月は黒字になる予定です。
③実店舗がなくなったので、これで本来やりたかった酵素玄米のサブスクが始められます。ECの準備も整い年内スタート予定です。
④株主優待できてなくてすみません。しかし、大量の酵素玄米を製造する研究が進みました。一億円以上の設備投資ができれば、大量生産体制が取れます。今はなんとか基盤を固めたい。
明るい話題とくらい話題を絶妙に組み合わせて配信してくれているが、この辺りからなんとなく暗雲が立ち込めてきたのを感じる。
6.IR(2024.1.1)
この辺りから、逆転は難しそうだなと思いながら、配信を待つようになる。
①キッチンの拡張工事終わりました。損益分岐点は1日400食ですが、これで1000食作れるようになりました。しかし、働いてくれる人がいません。厳しいです。一月は400食の注文を受けてます。大丈夫、大丈夫です!
②サブスクをやりたいのに、そこに回せる酵素玄米が作れません。場所はあっても人がいないので24時間体制でキッチンを回せません。
③発酵玄米の炊き方コンサル事業をやろうかと思ってます。
なんだか、現場の悲鳴が聞こえてくるようである。
経営方針も迷走気味だ。
気になってこの会社のバイト募集案内を検索してみると、「時給1150円」とあった。
飲食のバイトは、今こんなに稼げないのかと驚いた。
7.IR(2024.4)
いよいよ、破産の報告である。
①事業を停止し破産手続きをすることになりました。
②元々、少数精鋭で業務を行ってきましたが、肉体的、精神的にもメンバーへの負担がかかる状態が続き、3月に主要メンバーが急遽退職。続いて他のメンバーも退職が相次ぎ、業務継続が困難になりました。
③資金面についても、金融機関から借入の支援をいただきましたが、事業継続ができない現状では資金流出だけが続きこれ以上むりと判断しました。
なるほど。
特殊な知見とノウハウを持つスタッフ頼りだったのに、その人たちが抜けてしまい、代わりが見つからないことから事業が瓦解した、ということだろう。
8.反省とまとめ
以上から、私の判断の甘さを見て行こうと思う。
①酵素玄米を食べる人はどんな人たちなのか、調べたか?
調べていない。
なんとなくのイメージだが、ガチの健康オタク層か、ブームに乗った緩めの健康オタク層(私はここ)だろうと思っていた。
ただ、ガチ層は手のかかる玄米の発酵を自宅で行うことになんの抵抗もなく、高額な専用の炊飯器を買ったりしているので、おそらく、緩めのオタク層がターゲットになるだろうとは思っていた。
「食べてみたいけど、自分で作るのは面倒だから嫌」という人たち向け、ということだ。
②この会社のライバルになりそうなものは何か、調べたのか?
これは調べた。
すでに、大手で「発芽玄米」「発酵玄米」のレトルトを販売しているところもあるし、専用炊飯器を売っているメーカーもライバルといえばそうだろう。
「栄養価」「繊維質」という点では、オートミールもライバルと言えそうだ。
実際、私は主食をオートミールに変えてからスルスルと5kgほど落ちたので、おそらく酵素玄米にも同様の効果は期待できると踏んだ。
それにコメなので、オートミールより腹持ちも良い。
よって、ダイエットフードのライバルの中では、「手軽さ」「満腹感」で、一歩リードできると思っていたのである。
③実際に酵素玄米を食べてみて、良いと思ったのか?
食べてない。
ライバル社のレトルトは食べた。
もちもち感が好きな人にはウケるだろうと思ったが、何しろ実物を知らないので、なんとも言えない。
社食用弁当の写真は、どれも大変美味しそうであった。
④経営者のプロフィールチェックはしたか?
していない。
ここは、反省点だ。
私の偏見でしかないので、聞き流してほしいのだが。
総じて体育会系の経営者は、逆風を受ける自分に酔いがちで、「我に艱難辛苦を与えたまえ」と思ってる。
自分にできることは、社員にもできると思っている。
他人の辛さに共感性が低い。
というより、辛さに耐性がある人の中にずっといたので、弱い人のことが想像できない。
なので、せめて体育会系出身なのかどうかくらいはみておくべきだった。
社員の限界を見極める能力にバグがある人かどうかぐらいはきっとわかったと思う。(重ねていうが、偏見です)
あと、最初のIRにあったような、起業をゲーム性の高い遊び感覚でいる人にお金を託したのは、自分の甘さだったと思っている。
経営者については、ネットで調べられることは全て調べ尽くすくらいの気持ちでいた方が良い。
⑤実店舗に足を運んだことがあるか?
ない。
都内にしか店舗がなかったので、機会がなかった。
しかし、ここに行って、働く人たちの様子を見てくるべきであった。
社員教育はできているか、働く人たちは自分の仕事として楽しんでいるか、やらされてる感が強めではないか。
それくらいはきっとわかったと思う。
行けばよかった。
内情視察できる場所は、遠くてもあったのだから。
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以上、少なくとも「飲食関連」に投資するなら、今後はこれくらいは調べようと思ったのだった。
**連続投稿825日目**
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