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「藤の花が旬です」?

テレビを見ていたら、地方局のニュースでアナウンサーが
「今、⚫︎⚫︎公園で藤の花が旬です」
と言った。
私は引っかかりを感じて、隣に座る夫に言った。
「花が『旬』って言う? 旬って食べ物に使う言葉じゃないの? 『見頃』とか『盛り』が正しくない?」
夫も同様に感じたようで
「花に『旬』は使わないよな」
と言う。

家にある国語辞典を引いてみると、こう書いてある。

①野菜・果物・魚介類などの、出盛りで最も味の良い時期
②物事を行うのに最も適した時期

明鏡国語辞典 第二版

ん?
花見の『旬』という意味では、使ってもいいのか?

それにしても、春先の開花前線北上中のニュースでは
「桜の花が見頃です」
「桜の花が満開です」
という表現はよく聞くが
「桜が旬です」
とは、聞いたことがない。

比喩的に、人に当てはめて
「今最も旬なお笑いコンビの⚫︎⚫︎です!」
という紹介の仕方はよく耳にするが、「旬だ」という形容動詞に転化した使い方をしているため、違和感がないのだろう。

ネットで調べると、少し詳しく説明されている。

【旬】の解説
[名]
1 魚介類や蔬菜 (そさい) ・果物などの、最も味のよい出盛りの時期。「—の魚」「たけのこの—」

2 物事を行うのに最も適した時期。「紅葉狩りの—」

3 古代、宮中で行われた年中行事の一。天皇が紫宸殿 (ししんでん) に出御、臣下に酒を賜り、政務を聞く儀式。もとは毎月1日・11日・16日・21日に行われたが、平安中期以後は4月と10月の1日だけとなった。4月を孟夏 (もうか) の旬、10月を孟冬 (もうとう) の旬といい、合わせて二孟の旬という。このほか、朔旦 (さくたん) 冬至の旬など、臨時の旬もあった。

[形動]評判になっているさま。また、最新であるさま。「もっとも—な話題」

goo辞書

ほらほらほら。
やっぱり、自然に採れる食べ物に使うのが第一義だ。
第二儀が「行為」の適期を表す表現。

「藤の花が旬です」ではなく「藤の花見の旬です」ならば、違和感はなかったのだ。

……と鬼の首でもとったように書いている私の世代では、「とても」「たいへんに」といった強調の意味で「鬼のように」を多用していた。
今なら「超可愛い!」と言うところを「鬼のように可愛い!」と言っていたのだ。
上の世代の人たちからすると「鬼みたいに可愛いってどういうこと?」と違和感しかなかったに違いない。

誤用をあげつらうことが正しいのかどうか、いつも迷うのは、こんな経験があるからだ。
言葉は変化するもの。
そんなことは知っている。

「うろ覚え」を「うる覚え」と言われて、ゾワゾワするのも、耐えねばならないのだろうな、とは思っている。
校正が入らないネットの文章が乱れに乱れているのは、もう仕方ない。
私だって「難しい」のつもりでずっと「むつかしい」と書いていて、最近これが「方言」であることを知った。
自分の間違いには、みんな気づかないものなのだ。

でもねえ。
新聞やテレビが自分たちをまだ「マスメディア」だと思っているなら、「マス」に届ける矜持を持っていて欲しいと思ってしまう。
正しい日本語を使い、用法の規範であって欲しいと思うのだ。
たかだか数十年しか続かない「規範」かもしれない。
いつの時代も、誤用に飲み込まれて、正しい使い方が消えていくものなのかもしれない。
でも、マスメディアが率先して消そうとするのは違う。
その時代を代表するものとして、その時代の「正誤」に敏感であって欲しい。

**連続投稿821日目**

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