『先生、逃がしません!』3年間の連載を終えて

『大山トラ子』というキャラクターが産まれたのは、
2019年、8月末日のことでした。

泣き虫でかっこ悪い、うだつの上がらないヒーローを描いてみたいなぁと思ったのです。
今思えば、すごい怖いもの知らずだったなぁと…(笑)
当時は連載経験がほとんどなかったので、(短期連載、ギャグ漫画の連載のみ)
商業主義に寄せるという発想がなく、ただ自分が描いてて楽しい企画を出していたんですね。
今はもっとこう…商業誌に寄せることも…できるはず…(?)

1話と2話のネームを描き上げ、とある女性漫画誌の12月頭の連載コンペに出してもらいました。
(念のため書いておくと、集英社の『ココハナ』さんではないです)
…が、待てど暮らせど結果が分からず、担当さんからメールがきたのは、翌年の1月16日でした。
結果は落選。

しかし、コンペに出してから1か月以上、ずっとドキドキ、モヤモヤしっぱなしだったので、
緊張から解放されて、ひとまず安心しました。私は気が小さいのです。(笑)
担当さんのメールには「他誌にネームを持ち込んでもいいよ」と書いてありました。

ので、結果が分かったその日のうちに、1社に持ち込みの予約を入れて、
1社にWEB持ち込みのデータを送りました。

フットワークが、自分でもびっくりするくらい軽いんですよね(笑)
「落ち込む前に動け!」というのが座右の銘なのです。

対面の持ち込み予約をしたのは大阪に本社がある編集部です。
なぜそこにしたのかというと、そのレーベルが好きだというのは大前提で、
一番は鳥取から近かったからです!!!

東京だと日帰りじゃ無理だし、お金も時間もかかる…
(当時はまだ本屋でバイトもしていたので、急にシフトを動かすのも難しい。)
翌月、東京で開催されるコミティアの出張編集部でもいいのでは…?とも思いましたが、
なんとなく、直感的に、いま動いた方がいい気がする思って、大阪に持ち込みに行くことにしました。

この直感は当たっていて、翌月(2020年2月)のコミティアは、新型コロナの影響で中止になりました。

持ち込みは1月24日になりました。
(当時の日付は、手帳を見返さなくてもはっきり覚えています。)
このとき、鳥取から大阪行のバスは、若桜町から乗車すれば半額で乗れて、とてもお得でした。
ので、若桜町まで路線バスで行って、そこから大阪行のバスに乗りました。

若桜町をぶらぶら歩くのは、遠足気分で楽しかったです。
持ち込みが空ぶりしても、これはこれで楽しくてよかったなぁと思いました。

大坂の会社に着いて、持ち込みを担当してくださる編集さんにお会いしました。
いつもは会議室で見るけど、会議室がいっぱいということで、
会社のビルに入っているカフェで見てもらうことになりました。
私はコーヒーが飲めないので、ミルクを注文してもらいました。

編集さんは、完成原稿の持ち込みだと思っていたらしく、
ネームの持ち込みということに驚いていらっしゃいましたが、とても丁寧に見てくださいました。

そして、開口一番に
「これ、おもしろいから編集長に出せば連載になると思います」
と言ってくださいました。

とても嬉しかったですが、なにせコンペに落ちたばかりなので、
(リップサービスかもしれない…!)と謎に疑心暗鬼になっていました(笑)

続けて、
「ただこのネームは、編集者がプロットを見る過程を怠っている気がします」
と言われました。
これにはとても驚きました。
なぜなら、本当に、当時の担当さんにはプロットを見てもらっていなかったからです…!
担当さんがとても忙しい方で、2週間に一回しか連絡が取れないこともザラだったので、
見てもらうのはネームからでした。(プロットは書いていましたが、見せていなかった。)

ネームを読んだだけでそれがわかるなんてすごい…!!この人は信用できる!!
と思いました。(何様だよ)

「プロットからちゃんと作ればもっといい作品になると思います」
と言ってくださった頃には、完全に目の前の編集さんを信用しきっていました(笑)
それから、編集さんはネームのコピーを取りに行き、私は一人でミルクを黙々と飲み、
戻って来られてから、原稿料の話とか、印税の話をしました。

ここまで込み入った話に発展する持ち込みははじめてだったので、
(これは、本当に連載になるのでは…!?)と淡い期待はしましたが、
なにせコンペに落ちた直後なので…(以下略)

このとき、ネームの他に今までの連載と読み切りの刷り出しも持参していましたが、
「武田さんの実力は、このネームで十分わかるので…」
と言われ、そちらは見られませんでした。ネームの絵はめちゃくちゃ下手でしたが…!(笑)

それでも、たぶん2時間以上お話していたと思います。
編集さんって本当にすごいですよね。
突然来た見知らぬ人に(予約はしてるけど)、2時間も丁寧に対応してくださるとか、
神様かなにかだと思っちゃう。。。

そして、直感的に、とても相性がいい編集さんだと思いました。

その直感も当たっていて、持ち込みで見てくださったIさんには、
持ち込みから3年以上経った現在もめちゃくちゃお世話になっております…!!!

そうです。この大坂の会社こそが、コミックシーモアさんなのでした。
(無駄に引っぱったなぁ…)

連載が決まったわけではないけど、持ち込み後は充足感に溢れていて、
なんばのサイゼリアで、興奮気味に井山ゆー先生にLINEをしました。(笑)
ゆーさんはいつも私の話を丁寧に聞いてくださいます。ありがとう~!!

帰りのバスの中で、メールを開くと、Iさんから既にお礼のメールがきていました。
そして、先ほどのネームは編集長に提出しましたと書いてありました。
Iさんは本当に、めちゃくちゃ仕事が早いのです…!尊敬と感謝しかない…

そして、落選した日にWEB持ち込みのデータを送った編集部さんからも、
「ぜひ一緒にお仕事をしましょう」といった旨のメールがきていました。
これにもすごく安心しました。
(結果的にお断りしたのは、心苦しかったですが…)

持ち込みをした翌営業日に、Iさんから「連載が決まりました」と連絡がきました。
事態が急転しすぎて半信半疑でしたが、とりあえずスーパーでお寿司を買って、食べました。

コンペ落選の連絡があった16日に、なんの行動も起こさなければ、
このときも結果を引きずって落ち込んでいたかもしれません。
(一週間くらいしか経ってないし…)
でも、動けば結果はひっくり返るのです。
直感的にすぐに動くことって、実はすごく大事なんじゃないかなぁと、今でも思っています。

…長くなりましたが、こんな感じで、トラ子が世に出ることが決まりました。
自分のキャラクターが世に出るってすっっごく嬉しいことなのです!!

それから、本屋のバイトも辞めて、漫画家一本でやっていくことになり、
2020年の7月に、『恋するソワレ』という電子雑誌で連載が始まりました。
なんと、表紙・巻頭をやらせていただきました…!
雑誌の表紙を描くのは夢だったので、とても嬉しかったです。

それから、あっという間の2年10ヶ月―――…
この期間に、トラ子や猪狩のことを考えない日は、一日もありませんでした。
頭の中で、ずっとキャラクターたちが会話をしていて、
それは時系列とかめちゃくちゃなので、
メモをとって、物語になるようにつなげて、世に送り出すという作業の日々でした。
ので、今は無事に完結できてほっとしている気持ちと、寂しい気持ちがごちゃ混ぜです。

不思議な話ですが、キャラクターたちが私を引っ張ってくれたので、
物語の展開で悩んだりすることはほとんどありませんでした。
(Iさんがすごく優秀な編集さんで、随所で的確なアドバイスをくださったおかげでもあります。)

当初は7話完結の予定でしたが、最終的に35話も描かせていただきました。
トラ子に関しては、幼少期、青年期、成人期…と、ほぼ人生の全てを描き切りましたので、
もうこれ以上描くことはないです(笑)

私のことを信じて(?)自由にのびのび描かせてくださった担当さん、ソルマーレ編集部には
本当に感謝しかないです…!!本当にありがとうございました!!!

商業誌で、自分が描きたいものを、自分が納得いくところまで描き切るって、ほとんど奇跡だと思うのです。

連載を延長するかどうか決めるタイミングで、奇跡みたいなことが実際に何度か起こりました。
担当さんに、「武田さんはめちゃくちゃ(運を)持ってる」と言われました。(笑)

連載が延びたのは、作品を追いかけてくださった読者さまのお陰でもあります。
本当に本当にありがとうございます。

この作品は、間違いなく、私にとって奇跡であり、宝物です。

作家人生で、そう言い切れる作品を描くことができたことに、感謝してもしきれません。
このご恩を返していくために、これからも謙虚に作品作りをしていきたいと思っています。

私以上に、トラ子が本当に強運の持ち主なので、
まだなにか奇跡を起こしてくれるのではないかという期待もあります。(笑)

今後の予定ですが、6月3日に特装版の最終5巻が配信になります。
それからあまり間を開けずに、新連載もお届けできそうです!

現在、新連載の原稿を楽しく描いております~!

なぜ間を開けずに描けているかというと、実は去年のうちに1話のネームができていたのです。

なぜできていたのかというと、「先生~」が4巻で終わる可能性もあったため、
連載が延長しなかったときに落ち込まないように、企画を出し続けていたからです。
(私は自分が落ち込まないための対策をめちゃくちゃします。笑)

大変有難いことに、5巻までやらせていただくことになったのですが、
プロットの大筋ができていたので、もうネームにしちゃおう☆と思って、
「先生~」の連載と並行してネームを描くという荒業(?)に出ました…

そんな私の無茶振りにも丁寧に対応してくださった担当さん、編集長は神様です…✨

めちゃくちゃ長くなりましたが、「先生、逃がしません!」をここまで読んでくださった
読者のみなさま、本当に本当にありがとうございました!!

みなさまの記憶の片隅に、大山トラ子というキャラクターが少しでも生きてくれれば、
これほど幸せなことはありません。

感想などもいただけたら、すごく励みになります(^^)

途中まで読んでたけど今は読んでないやっていう読者さま、完結を機にぜひ最後まで読んでやってください~!!
手前味噌で恐縮ですが、とても面白いと…思います。

単話版→ https://www.cmoa.jp/title/194398/
特装版→ https://www.cmoa.jp/title/210870/

それでは、またお会いする日まで(^^)

2023.5.6 武田愛子

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