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3分で読める短編小説「言葉拾いの少年」

魔女、アイサ・フラールは仕事で変わった依頼をよく受ける。
この日来た少年はこう言った。

汚い言葉が道にあふれていて、仕事になりません。

少年は人々が道に吐いた言葉を拾っては分別し片付ける仕事をしていた。
優しい言葉、怒りの言葉、悲しい言葉、たくさんの言葉を拾って、その言葉を必要とする人たちのために集め続けていた。

しかし、ここ最近は流行り病により人々の心は荒み、道には心ない言葉ばかりが落ちるようになっていた。言葉を拾い続ける少年には、それが辛かったのだろう。

アイサはそれを聞いて依頼を受けるべきか悩んだ。

道にあふれている汚い言葉を魔法で吹き飛ばすことは出来る。
しかし、それは根本的な解決にはならない。
あれこれと考え、ふと1つアイデアが浮かんだ。

そして、アイサは少年に袋いっぱいに汚い言葉を集めてきて欲しいと伝えた。
少年は素直にコクリとうなずいた。


数日後、街の大広場にアイサと少年は袋いっぱいの言葉を抱えてやって来た。
休日の午後ということもあり、多くの人が散歩をしたり、ベンチで休んだりしていた。
ここで一体何をする気なのかと少年は聞いた。
アイサは袋から出した言葉に用意してきた薬品をかけた。
エメラルド色の薬品が言葉を濡らし、くすんだ言葉がキラキラと日の光を跳ね返し始めた。

魔法というものは人を喜ばせるためにある。
アイサはそう言うと少年にウインクをした。
杖を構えて呪文をつぶやいた。

杖から炎が飛び出し、薬品で濡れた言葉を燃やした。
くすんでいた言葉たちは空高く飛び、色とりどりに爆発した。
赤、青、緑、金、銀、さまざまな色が広場に広がっていく。

それを見た人々は歓声をあげた。
アイサは次々に火をつけては火花を空にあげる。
人々の歓声は言葉が尽きるまで耐えることはなかった。

アイサは少年に瓶に詰めた薬品を渡した。
これからも汚い言葉が消える日はない。
罵声が多くて辛い日には、燃やして火花にしてしまえばいい。
アイサがそう言うと、少年は嬉しそうに「ありがとう」と感謝を述べた。

その言葉がアイサには何よりの報酬だった。

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