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『MMTと主流派の齟齬と一致を解剖する』 紹介

こんにちは、望月慎(望月夜)@motidukinoyoruと申します。

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(拙著『図解入門ビジネス 最新 MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』(秀和システム)(2020/3/24 発売))

先日、SSRNの方で『Modern Monetary Theory (MMT) と主流派の齟齬と⼀致 を解剖する / An Analysis of Difference and Coincidence between MMT and Mainstream Economics』というペーパーをアップした。

要約については上記リンクをご覧いただきたいが、例によって長々しい論文となっているため、各章ごとの大体の内容を簡潔に紹介しておく。

1.  財政問題に関する齟齬と一致

・MMTにおいては、通常の財政運営における中央銀行のサポートは「常態」として”観察”されているが、主流派経済学においてはある種タブー的に扱われている点で乖離がある。

・しかしながら、小林慶一郎ら著「財政破綻後 危機のシナリオ分析」に見るように、主流派経済学においても、自国通貨決済における財政不履行の不在は認められてはいる。

・その上で、主流派経済学は”再定義された財政破綻”として中長期的な財政条件がより高いインフレーションorより高い長期国債金利を要求する状態を懸念する。

・これに関し、MMT派は、実際にインフレが起きていない現状と需給ギャップ論でディフェンスするプリミティブな見解に終始し、主流派は現実の物価動向・国債動向の推移との大きなギャップを説明できていない、という点で両者ともに不十分な説明に終わっている。

・話が逸れるが、主流派経済学的財政破綻論と現状の乖離は、長期停滞論で埋め合わせることが出来るかもしれない。長期停滞論をベースにすると、主流派経済学的な横断性条件を受け入れたとしても、現行のようなディスインフレ不況と累積財政赤字拡大の両立が説明可能となる。

・長期停滞論はヴィクセリアン・アプローチに基礎付けられているのでプレーンな形ではMMTには受容出来ないが、特定の条件下で相対的借入不足(潜在的貯蓄過剰)が長期的に生じる状態として大まかに捉えるなら整合しなくもない。

・MMTは民間部門赤字の非持続性を論拠に財政「黒字」の危険性を訴えるが、これは主流派経済学には(ほぼ)ない論点。
・そもそも政府部門の赤字計上の方が(民間部門赤字に比べて)概ね安定的である事実については、MMTは負債ピラミッド/債務ヒエラルキー論で説明する一方、主流派においてもMoney in the Utilityと国債への拡張で説明できなくもない。

・Money in the Utilityの国債への拡張[Hagedorn(2018)]はアドホックな処理とも解釈され得るが、国債は単に統合政府レベルではオペ資産として機能するに過ぎないとするMMT的にはむしろ比較的自然な処理となる。

統合政府レベルで見た通貨・財政システムの概略

政府と中央銀行の連結

国債は金利操作のためにある


2.  金融システムおよび金融政策論に関する齟齬と一致

・MMTの主張は金融機関系エコノミストの主張と整合することも多いので、この章では主に、そうしたエコノミスト以外の一般的な経済学者/経済学徒を対象として念頭に置いている。

・一般的な主流派とMMTが大きく乖離するのはやはり信用創造理解である。MMT派においては、銀行預金は単に借入需要に応じて新規発行される銀行負債に過ぎず、準備預金は事後的に需要・調達される。創造された銀行預金に比して、実際に需要・調達される準備預金は極めて小さい。主流派が想定するようなベースマネーの又貸しや、法定準備率から逆算した貨幣乗数などはメカニズム上では不在である。

・”平時”においてベースマネーとマネーストックの間に関係が見られるとしても、それはマネーストックに対して受動的にベースマネーを調整する金融市場調節が行われた結果に過ぎず、因果は総需要/総供給水準→マネーストック水準→ベースマネー水準である(その逆ではない)。

・野口旭氏らの主張に見るように、上記のような内生的貨幣供給理論を受け入れた上でも、中央銀行による貨幣供給の”外生性”は失われないという主張があり、その論拠はベースマネー量↔︎政策金利↔︎総需要水準↔︎マネーストックという相互関係の一位性の仮定に基礎付けられる(この主張では、金利のゼロ下限制約はアドホックに例外とされ、正金利経済ではこの関係が”復活”するとされる)。

・しかしながら、ベースマネー↔︎政策金利の関係は準備預金付利により失われており、政策金利↔︎総需要の関係も不明瞭であるどころか非線形なのではないかという主張は主流派方面の人々からすら提出されている。マイナーな論点だが、総需要水準↔︎マネーストックの相互関係も実は詳細に考えると自明ではない。

・とはいえ、主流派レベルの議論でも非伝統的金融政策の無効性は導出可能なので、非伝統的金融政策批判は厳密にはMMTの専売特許というわけではない。(参考→ ニューケインジアンの金融政策無効論、MMTの金融政策無効論

マネタリーベース、マネーストック(M3)、貨幣乗数

後方屈曲的なIS曲線

金利政策に対するMMT的批判


3.  財政政策論に関する齟齬と一致

・(IS-LM的な)クラウディングアウトおよびマンデルフレミング効果は、貸付資金市場という実態的に存在しないメカニズムに依拠しており、現実の財政金融システムにはそぐわない。IS-MPに補正すればまだ理解可能だが、その場合、緊縮的効果を発揮するのは財政支出それ自体ではなく、中央銀行による対抗的な利上げとなる。当然、金融政策ルール自体でモデルの含意が大きく左右される。

・リカード=バローの中立性命題、及びFTPL的なインフレの議論において、その主張の重要な前提は、現状が(望ましい)均衡状態にあり、追加的な財政⽀出をそのまま吸収する潜在的貯蓄需要(これは遊休資源の⽔準に対応する)は存在せず、したがって現在ないし将来の税収増加が要求される(それなしでは FTPL 的なインフレが⽣じる)という点にあり、潜在需給ギャップが存在する前提を取ると議論が変化する。

・政府債務の将来世代負担論については、MMT的な機能的財政論と主流派的な世代重複モデルの議論は矛盾しない。結論を変えるのは、やはり現行が非不況であるかどうか(潜在的貯蓄過剰の有無)であり、ここは深い相互理解が求められるポイント。

・財政硬直化問題についてはむしろMMTと主流派は懸念点を共有しており、MMTのJG提案はこの懸念点から出発する議論ですらある。


(以上)

※ここまで通読いただきありがとうございました。ご質問、ご指摘、いつでも募集しております。適宜対応させていただきます。

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