見出し画像

砂川文次の『ブラックボックス』について

 今回は砂川文次の『ブラックボックス』について紹介する。本書を読もうと思ったきっかけはつかつさんという文学系YouTuberが動画で紹介していたからである。2022年の芥川賞受賞作ということで興味が湧いたのだ。
 最近は芥川賞のニュースを目にしても関心はあまり湧かない。一番新しい受賞作を聞いても恐らく答えられない。とはいいつつも、完全に関心を失っているわけではないので、ふとしたときに耳にして、たまたま図書館の本棚で見つけてしまうとささやかな運命を感じて手に取ってしまう。
 いつからかは定かではないが、読んだことのない小説よりも、読んだことのある小説ばかりを読んでしまっている。私は読んだ本のタイトルを記録につけていて、最近の読破リストには書名の右横に「再」と書いてばかりいる。だから、今回の「ブラックボックス」は久し振りの確認ではない読書である。
 本書の主人公はサクマという男だ。サクマは、自衛隊、不動産営業、工場など職を転々としていき、自転車に乗った宅配業で生計を立てるようになる。ふとしたときに客や上司と衝突してしまい勢いで辞めてしまう典型的な社会府適合者である。
 最終的には、税金を滞納したせいで税務署の役員が自宅にやってくる。その役員に暴力を振るって刑務所で過ごすことになってしまう。刑務所でも暴力沙汰を起こして独房に入れられたりもする。また、サクマには同棲している女性がいて、服役する前に妊娠してしまう。服役している刑務所へ女性から手紙がくるが、返事を書かないまま物語は終わる。
 うまく社会に適応できないことはサクマ自身も自覚しており、ちゃんとしたいとは思っていても自分の弱さを克服できないまま状況が悪化していく。もしかしたら、自分もサクマのように堕ちていくことはあり得るのではないかと感じさせるリアリティーを感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?