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Toad The Wet Sprocket の全アルバムをフィジカルで聴く

Toad The Wet Sproketという覚えにくいバンド名をはじめて認識したのは、アルバム『Fear』のとき。高校2年生のアメリカ留学中、ホストファミリー宅で見ていたMTVから流れてきた「all I want 」に文字通り打ちのめされた。そのMVはどこか神秘的で、白シャツを身にまとった若きヴォーカリストの清潔感と哀切感が同居した美しい顔立ちが特徴のMVだった。その姿は「all I want」の晴れやかながらも切ないメロディラインと美しいコーラスにあまりにもハマりすぎていた。それがこのバンドとの出会いだった。

メンバー

  • グレン・フィリップス(ヴォーカル・ギター)

  • トッド・ニコルズ(リードギター・コーラス)

  • ディーン・ディニング(ベース・キーボード・コーラス)

  • ランディ・ガス(ドラム・パーカッション)
    ※2020年、骨形成不全症による影響で脱退

オリジナル・アルバム

  1. Bread & Circus 『ブレッド・アンド・サーカス』(1988年)

  2. PALE〜幻影〜 - Pale『ペイル』 (1990年)

  3. FEAR〜畏怖 (おそれ)〜 - fear『フィアー』 (1991年)

  4. Dulcinea 『ドルシネア』(1994年)

  5. Coil 『コイル』(1997年)

  6. New Constellation『ニュー・コンセントレーション』 (2013年)

  7. Starting Now『スターティング・ナウ』(2021年)

    ☆ In Light Syrup(1995年)

Toad The Wet Sprocketってどんなバンド?

1986年カリフォルニア州サンタ・バーバラの同じ高校に通う4人で結成。結成時ヴォーカルのグレンはまだ15歳の若さで、デビュー時でもまだ18歳だった。他のメンバーはグレンの3歳年上。

一番手前がVo.グレン・フィリップス。イケメンだな。

日本人にとってはあまり覚えやすい響きとは言い難い、そのバンド名トード・ザ・ウエット・スプロケットはモンティー・パイソンから引用したものらしいが、もうちょっとバンド名が覚えやすかったり日本人にとって響きの良い名前だったりしたら日本でももう少し売れたのかもしれないな、と思いながら、R.E.M.の評価が主要国で一番低い日本ではTTWSも結局同じだったのかな、とも思ってしまう。

バンドは1989年「Bread & Circus」でデビューし、3rdの「Fear」、4th「Dulcinea」が売れプラチナディスクを獲得、その後アルバム未収録曲集「In Light Syrup」を経て5th「Coil」発売後の1998年に解散した。その後何度かスポットでギグを行ったが、2013年に16年ぶりの6thアルバムを、2021年には7thアルバムをリリースして現在も活動中。


1 Bread & Circus (1989年)
  『ブレッド・アンド・サーカス』

所有メディア:輸入盤CD
録音年月を見ると、88年の自主制作版がそのままリリースされたことがわかる。

彼等の1st リリースの逸話は有名。88年にわずか650ドルで制作された自主制作カセットを自分たちのレーベルからリリース。そのカセットが地元だけで1000本を売りつくすヒットとなり、メジャー・レーベル数社がオファー。そこでこの自主制作カセットに一切手を加えないことを条件にコロンビアが契約を獲得し、そのままデビュー・アルバムとして89年にリリースされた。それがこの1stアルバムだ。

今聴いても楽曲のクオリティの高さとバンドの安定した演奏力、そしてグレンの18歳とは思えない落ち着いたヴォーカルが際立つ。1曲目の「Way Away」から後のトードが生み出す名曲たちの片鱗を感じさせる。アルバム終盤の「One Little Girl」(デビュー・シングル)は楽曲の構成含めて1stを代表する曲。そしてラストの「Covered In Roses」は彼等がポストR.E.M.なんて一時期騒がれたのもわかるような楽曲。ギターのアルペジオがいい。


2 PALE(1990年)
  『ペイル 〜幻影〜』

所有メディア:国内盤CD
ライナーノーツにはバンドの詳しい紹介が!

1stアルバム「Bread & Circus」は彼等の自主レーベルからリリースされた音源をそのまま使用したものをデビューアルバムとしてリリースしたので、メジャーとしてのデビューアルバムのレコーディングを行っていなかったこともあり、2ndは1stからわずか6ヶ月後にリリースされた。実質メージャー初録音となったこのアルバムは1stと比較すると、まず何よりも音全体が良い録音環境であることはすぐに分かるが、1番大きな変化はグレンのヴォーカルだ。低めの渋い声を全面に押し出していた1stと比較すると、伸びやかな張りのある高音を積極的に使った歌い方になっている。この2ndなくして3rd「Fear」の成功がないことがよく分かるアルバムだ。
名曲「Come Back Down」のMV見ると、グレンのイケメンっぷりが際立つ。


3 FEAR(1991年)
 『フィアー 〜畏怖 (おそれ)〜』

所有メディア:国内盤CD。強烈なジャケ。
この頃の国内盤は邦題が1曲1曲についている。

91年というのは自分にとってはとんでもない当たり年。この年は、Pear Jam「Ten」、Nirvana「Nevermind」、R.E.M.「Out of Time」、Live「Mental Jewelry」、Pixes「Trompe Le Monde」、Smasing Pumpkins「Gish」、Red Hot Chili Peppers「Blood Sugar Sex Magik」、Soundgarden「Badmotorfinger」、Teenage Fanclub「Bandwagonesque」、My Bloody Valentine「Loveless」、Slint「Spiderland」、Lenny Kravitz「Mama Said」、Matthew Sweet「Girlfriend」など、生涯聴き続けるであろうアルバムに多数出会った。こんな凄いアルバムだらけの中、この「Fear」は、R.E.M.「Out of Time」、Pear Jam「Ten」と並んで最もよく聴いた3枚だ。冒頭で記したように、このアルバムは自分にとって想い出深く、かけがえのないアルバム。全体的に聴く音楽がハード寄りになってきていたところを、R.E.M.とToadによってバランスを保ち、”歌”を聴く重要性を持ち続ける心のアンカーとなった。

1曲目の「Walk on the ocean」から本当に素晴らしい曲のオンパレード。彼等はオルタナ・ロックによくカテゴライズされていたが、個人的にはそう思ったことは一度もなく、インディ・フォークのようなサウンドだなと感じていた。特にこの曲は、グレンが弾くマンドリンが特徴的で牧歌的なサウンドに仕上がっている。この辺りがポストR.E.M.なんて言葉が出てくる所以かもしれない。そして彼等はどのアルバムでもそうだがコーラスが美しいことも大きな特徴の一つだ。

これだ。僕をトードの虜にした曲とMV。
美しい曲、芯が太く力強い歌声、印象的なMV。
何度も何度も見て、歌詞も全て覚えて。
もう30年以上聴き続けているのに、この曲への想いは薄れることはない。


4 Dulcinea (1994年)
  『ドルシネア』

所有メディア:国内盤CD
ライナーノーツは中川五郎氏。またグレンを日本に呼んでくれないかな。

前作『Fear』がアメリカ国内で100万枚のセールを記録しプラチナ・アルバムを獲得。いや、個人的にはこんないいアルバムがアメリカで100万枚しか売れなかったのか・・・、というのが正直な思いだった(いや、100万枚って相当凄いだろ!笑)。グランジ全盛期においては少々大人しく整いすぎていたのだろうか。
そんな想いを吹き飛ばしてくれたのが、この4thアルバム『ドルシネア』だった。このアルバム最初のシングル「Fall Down」もロック色強い素晴らしい曲だったが、続く「Something's Always Wrong」「Fly from Heaven」は決定的に良い曲で、ソングライティングのクオリティの高さを痛感させられた。
その他「Stupid」「Nanci」など本当に曲の質のが高い。結局このアルバムもプラチナ・アルバムは獲得したのだが、100万枚止まり(何度も言うが、100万枚売れるなんてとんでもなく凄いことで、それもアルバム2枚続けて!)。

イントロからAメロのベースラインと音がすごく好き。
よくこのメロディにこんなベースラインがハマったなと思う。そしてそこからギターアルペジオが入りサビにつながるこの展開がとても好きだ。またサビの切ないメロディに”Fly From Heave”の歌詞が合う。名曲だ。

何かがいつもしっくりこないんだ。
「Something`s Always Wrong」
この曲のサビのように、しっかりと歌い上げるわけではなく、コーラスとメインとの掛け合いでこれほどグッと心に残るメロディはそれほど多くはない。


5 Coil(1997年)
 『コイル』

所有メディア:国内盤CD
この頃はライナーノーツの解説も2人!贅沢!

前作『ドルシネア』から3年を経てリリースされた5th アルバム。トードはこの『コイル』リリースの翌年に一旦解散してしまったので、再始動前のラストアルバムだ。ビルボードランキングでは過去最高の19位を記録したのだがその後セールスは伸び悩んだのか、前の2作のようにプラチナ獲得とはならなかったようだ。「Whatever I Fear」や「Little Buddha」「Crazy Love」のようなトードらしいPOPで良い曲も多いのだが、彼ららしからぬ男臭い楽曲も挟まり、アルバム全体の印象としては少々重たく濃いロック色が滲んだアルバムだと感じた。やはり僕は「Come Down」のような疾走感ある、アメリカの青空が似合いそうな彼らならではのロックが好きだ。

彼ららしからぬ曲、といえばこの「Dam Would Break」は好きだ。
どこか南部を感じさせるようなリフとビートのヴァースから、一瞬トードらしい晴れやかさを感じられるメロになったと思ったら、サビでヴァースのリフにトードならではのコーラスワーク。なんだかクセになる曲。


6 New Constellation(2013年)
  『ニュー・コンセントレーション』

所有メディア:輸入盤CD。おそらく国内盤はリリース無い。
クレジット見ると、トッドって良き作曲者なのがわかる。

16年ぶり、6th アルバム!トード復活!
実はこのアルバムがリリースされていたことをつい最近まで知らなかった。Twitterで相互フォローしている方がおすすめしていて、ナニぃっ!!と。探して入手したので、全然オンタイムで聴いていない。何ならリリースされてほぼ10年経ってから聴いたので、もう何ならファン失格!!
でもこのアルバムを知れたおかげでまたトード熱が復活し、この次のアルバムもすぐに入手した。いやぁ、やはり凄いバンドですな。

このアルバムは事前に、アルバムリリースのためにクラウド・ファンディングを立ち上げ、目標5万ドルのところあっという間に26万ドル以上集まったという中でリリースが実現したアルバムのようだ。いやぁ、知っていたらもちろん僕も応援していたのに。

そんな経緯でリリースされたアルバム。実にトードらしい良さが満載。
それは彼らにしか出せないストレートでメランコリックなメロディラインと、明るくも切ない感覚が同居するなんとも言えない良さだ。「Rare Bird」や「The Moment」辺りを聴くとやっぱりトード最高だな、って思う。

「Get What You Want」「Is There Anyone Out There」のようなフォーキーでナチュラルな曲から「Life is Beautiful」の繋がり。もう最高だ。
やはり僕は『Coil』のようなタイプのアルバムよりも、この『New Comtellation』のようなグレンの芯のある歌声が浮き立つ曲が揃ったアルバムが好きだ。
「Life is Beautiful」を聴いていると、多少の仕事の辛さなんかも忘れて、日々忘れがちな、ただただ生きていることの尊さを感じる。
このアルバム初期のアルバムと肩を並べるほど好きだ。


7 Starting Now(2021年)
  『スターティング・ナウ』

所有メディア:輸入盤CD。おそらく国内盤はリリース無い。
クレジットをみて、ガスの名前がないことが寂しい。

Toad the wet sprocket 7枚目のアルバム。ずっといっしょに活動を続けてきたドラムのガスが前年に骨形成不全症による影響で脱退、3人になってからの初のアルバムだ。
デビューから実に32年。途中解散していた時期もあり、32年で7枚は正直とても少ない。5thから6thアルバムの間は16年も空いているし、その6thアルバムからこの7thまでも8年空いている。後期はなんと24年の間に2枚しか出ていないわけだから、そりゃ少ないわけだ。もっともっと彼らの新譜を聴きたい。

デビュー当時美しい青年だったグレンも50歳を過ぎ、老練な歌い手となった。それでもその芯の太い歌声は変わることなく、歳を重ねた分深みがました。そんな彼らの現在進行系のサウンドとなる、アルバム1曲目の「Game Day」を聴き、やっぱり理屈抜きにこのバンドが好きなんだと痛感した。緩やかなこのリズムと透き通ったギターアルペジオに乗ったこのグレンの歌声をずっと聴きたかったんだと。

「In The Lantern Light」ゆったりとした良い曲だ。
時々こういう曲を好きな自分はずいぶんと歳を取ってしまい、もう新しい感覚なんて枯れてしまっているのではないだろうか、と心配になってしまうのも正直な気持ちだ。でも、年齢に合わせて、環境に合わせて、心境によって、好きな音楽が変わるのは当然のこと。そう思っていいんだよね。


☆ In Light Syrup(1995年)
  『イン・ライト・シロップ』

所有メディア:国内盤CD。
グレンの1曲毎へのコメントが読み応えあって非常に良い。

オリジナルアルバムではないけれど、アルバム未収録曲を揃え4thアルバム『ドルシネア』の後にリリースされたコンピレーション・アルバムだ。何らかの理由でアルバムに入らなかった曲の中にも、「Good Intentions」のように全米人気テレビ番組の「フレンズ」に提供された曲など、良い曲が多い。
その他国内盤ライナーノーツに掲載のグレンの全曲紹介で、グレンが自分たちの作ってきた曲の中でベスト3に入る曲と言っていた曲「All Right」など

その他国内盤ライナーノーツに掲載のグレンの全曲紹介で、グレンが自分たちの作ってきた曲の中でベスト3に入る曲と言っていた曲「All Right」なども非常に良い曲だ。ちなみにこの曲のボーカルはギターのトッド。


勝手な想像かもしれないけれども、このトード・ザ・ウエット・スプロケットや、カウンティング・クロウズ、ジェイホークス、フーティー・アンド・ザ・ブロウフィッシュなどストレートなアメリカン・ロックはなんとなく日本での人気が薄いように感じる。僕は今挙げた4バンド、どれも大好きなので、もう少しこういったサウンドも日本で受け入れられるといいなぁと思っている。少しでもそのきっかけになればと思い、今回はその中でも一番思い出深いトード・ザ・ウエット・スプロケットの全アルバムをフィジカルで聴いてみた、をやってみました。よかったら聴いてみてください!


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