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逍遥日記#1 クラゲ浜

散歩:16245歩。

農園からの帰り道、風の穏やかな日にはいつも立ち寄る砂浜がある。
鳴門サイクリングロード沿いの、突堤で区切られた400メートルくらいの砂浜で、紀伊水道を挟んだ向こうに和歌山の島影がぼんやりと見える。

いつ来ても数人の釣り人を除いては誰もいなくて、ここぞとばかりにうろうろしたり寝転がったりして日が傾くまで好きに過ごすのが最近の楽しみだ。

この砂浜は少し変わっている。
打ち上げられたクラゲが親切な地雷みたいに濡れた砂の中に埋まっていて、それが砂浜が途切れるまで等間隔に続いているのだ。

生きているのか死んでいるのかも分からないクラゲ達は、ただただ波に洗われるばかりだった。
近づいて爪先でつつく。
体の95%くらいは水でできていると何かのテレビ番組で聞いた覚えがあるのだけれど、意外にしっかりとした硬さが爪先に返ってきた。
ゼリー状の体の中に、花びらのような内臓がある。確かこれは胃袋。
見た目だけはミズクラゲっぽい。
でも詳しくないから確証はない。


靴を濡らさずに済みそうな位置に腰を下ろして、波が寄ったり引いたりするのを眺めていた。
波が去ったあと、たまに小さな貝殻や海藻やヒトデなんかが取り残されていた。

後ろに倒れて空を見た。
何も生み出さない、非生産的極まりない時間が心地良かった。
こういうのはなんとなく、忙しなく回る世界を虚仮にするポーズであるように思える。


合理性も効率も生産性もつまらん諍いも善悪も内外も自他も世界も、ぜんぶ流れて消えちまえ。

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