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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第166回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の六~七
 
子張十九の六
 
『子夏曰、博学而篤志、切間而近思。仁在其中矣。』
 
子夏曰く、「広く学び、熱い意思を持ち、真剣に質問し、身近に考える。仁はその中にある。」
 
(現代中国的解釈)
 
栄耀(Honor)とは、ファーウエイの若者向けサブブランドだった。ファーウエイが米国制裁を受けたのため、切り離され、独自の道を行くことになった。その栄耀がアップルの最強の敵に浮上したという記事が掲載された。外へ出て広く学び、熱い意思を持った結果だろうか。
 
(サブストーリー)
 
1月の世界的テックイベントCES2024(ラスベガス)では、生成AIがPC産業チェーンの全体、チップ、システム、端末などあらゆる場面に深く関与していた。市場調査機構IDCは、AI PCの出現が、個人消費者ユーザーの買い替えサイクルをを短縮し、買い替え波の到来を加速するという。具体的には今後2年間でPCを買い替えるユーザーは2倍、20%と予想している。栄耀はその主役となるPCを発表した。
 
それは、2月のモバイル見本市NWC2024(バルセロナ)で公開された HonorBook Pro 16とOSのMagicOS 8.0である。これにより栄耀は、プラットフォーム級のAI能力を、端末で実践し、AI CPは、新たな段階に至った。マルチデバイスの相互接続と相互作用、パフォーマンスとその持続など、システムレベルでのAI活用だ。ハードウエアを基盤とした伝統的PCメーカーの戦略とは、根本的に異なるらしい。
 
そしてアップルのクローズドエコシステムに対抗するため、オープンエコシステムを採用した、と強調している。このプラットフォームレベルのAI機能が、スマホ業界、PC業界での栄耀の切り札だ。協力社として、Google、intel、 Microsoft、 NVIDIA、Qualcomなどの米国巨頭を挙げている。中国の産業チェーンキャパシティと、世界のイノベーションとを共鳴させたいという。
しかし、AI PCとは何か、一般の理解が進んでいるわけでもない。Open AIの登場以来、AIを謳わなければ新製品とはいえないような風潮が強い。これから1つ1つ実証していかなければならない。その中に仁義は存在するのだろうか。
 
子張十九の七
 
『子夏曰く、百工居肆以成其事。君子学以致其道。』
 
子夏曰く、「職人は、現場で仕事を完成させる。君子は、学問をして道を達成する。」
 
(現代中国的解釈)
 
アップルが10年間続けてきたEVカーの開発から撤退する。2000人の人員は、AI部門へ異動するようだ。中国の報道の大きさは、Soraのときと同様、日本の比ではない。中国では、従来型自動車メーカーだけでなく、IT、不動産などさまざまな異業種企業が、EV車製造に進出した。学問的蓄積がないのに、こぞって新しい道を達成しようというのだ。
 
 
(サブストーリー)
 
すでに不動産大手系の恒大汽車など、撤退する企業が相次ぎ、EV車の墓場の様子が報道される。そんな空気感のなか、時価総額世界一のアップルでさえだめだったか、と受け止められている。理想汽車の李想とシャオミ(小米)の雷軍のコメントを見てみよう。それぞれEV車製造のために設立された"造車新勢力"と、異業種参入組の代表である。
 
理想汽車の創業者・李想は2004年、ネットメディア「汽車之家」を創業した。2013年、にはニューヨーク市場へ上場という大成功を収める。2015年、社長を辞任し、新たにEV車メーカー、理想汽車を設立。2022年6月、SUVの「L9」を、9月には、同じくSUV「L8」、2023年2月にはやはりSUV「L7」を発売。2024年1月の新エネルギー車ランキングでは、3万1165台を販売し、全体6位、造車新勢力では1位である。
 
李想は、アップルの自動車製造断念を、タイミングも戦略上も完全に正しいと評価する。アップルの時価総額は、3兆ドルだが、消費者向け人工知能に成功すれば10兆ドル企業にもなりうるが、失敗すれば1兆ドルに逆戻りもありうる。アップルカーの成功により、2兆ドルのプラスもありうるが、その必要条件は、何より人工知能であるからだ。理想は、生き残りが見えてきただけに、李想のコメントには余裕がある。
 
もう1人は、シャオミ(小米)創業者・雷軍である。スティ-ブ・ジョブズにあこがれて、スマホ製造を開始した。新製品発表会のスタイルまで完コピし、中国人は経営者まで偽物が、と揶揄された。しかし、設立以来たった3年で世界的スマホメーカーに成長させ、その後IoT家電に展開していく。その雷軍は、IoTネットワーク完成のラストピースとして、EV車開発に乗り出した。2021年3月のことである。
 
雷軍は、「アップルカー撤退のニュースはとてもショックだった。」と投稿した。しかしシャオミは車作りのむずかしさをよく知っている。人、車、家のフルエコロジー戦略は、3年前に選択した非常にしっかりした戦略である。我々はシャオミファンのために、真面目によい車を作る、と述べた。
 
2024年、満を持して第1号車、Xiaomi SU7を発売する予定だ。全長4997mm、全高1440mm、ホイールベース3000mmの大型の高級セダンである。成功するかどうかは、神のみぞ知る。アップルを模してきた雷軍にとって、ショックが大きかった。コメントにもストレートにそれが表れている。雷軍の"造車の道"は達成されるかどうか。


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