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Fontaines D.C.『A Hero's Death』Review


不思議な石像はアイルランドの半神、クー・フーリンを象ったものらしい

アイルランド、ダブリン出身ポストパンクバンド「Fontaines D.C.」によるアルバム。2020年作。
年末年始は約一か月程2023年のベストアルバム(AOTY)記事を、無謀にも50枚に設定してせこせこせこせこと書いていたのでアルバム一枚をレビューするのは結構久しぶり、って感覚。(このnoteではまだ2枚目だけど)
ベストアルバム50枚で完全に燃え尽き症候群に陥っていたのでさて何をレビューしようかと相当迷ったんですけど、2024年はまだ数える程しか音源を聴けていないのでここは単純に近年聴いた音源の中から特に思い入れの強い1枚でも良いかな、と考えてこのアルバムになりました。

2ndアルバムとなる今作では前作「Dogrel」で見せたポストパンクとガレージロック半々的な豪快なふてぶてしさと比較的明解なサウンドは鳴りを潜め、よりロックの暗黒面へと接近。曲によってはシューゲイザーやゴスの要素を感じさせる。また前作からこのバンドのアイデンティティーとして機能していた極端なミニマリズムはダークな音楽性へ傾いたことにより深化(悪化?)し、曲の持つ虚無、焦燥、終末といった負のパワーを増長させている。このミニマリズムに倣った平坦、機械的かつ圧の強いビートにはメンバーもインタビューで語っていたけれどもテクノや硬質なダンスミュージックの要素も垣間見る事が出来、それは次作「skinty fia」にて一部結実する。まぁこの辺はまたこのバンドをレビューすることがあれば書きたいですね。やるかわからないけど。



オープナー『I Don't Belong』はド頭の幽玄なギターコード一発から、ため息がでる程美しい。何処に辿り着くかもわからない波に拐われ漂うような起伏の無さが退廃的で、耽美ですらある。なんとなく退廃的な1曲目繋がりでThe Stone Rosesの「i wanna be adored」やかなり遠い所だけどミッシェルの「チェルシー」なんかを思い出す。MVが秀逸で、打ち捨てられた港町の憧憬とボーカル、グリアン・チャッテンの諦めきったような表情が曲の世界観を忠実に再現している。

Love Is the Main Thing』はドタドタと騒々しくもどこか抑圧された不思議なビートを刻み続けるドラムとエフェクティブに空間を埋め尽くすギターサウンドのケミストリーにひたすら酔いしれる一曲。I Don't Belong以上に起伏に乏しく、ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎を見つめ続けるようなビジョンが浮かぶ。余談ですけど2曲目に全くコマーシャルじゃないこういう曲を入れるバンドってなんか信頼出来ますよね。

太いベースがリードする鋭角ポストパンクチューン『Televised Mind』、シューゲイザー的なサウンドスケープを伴いながらも非常に肉体的な疾走を見せる『A Lucid Dream』の2曲はライブでも起爆剤となるアグレッシブなナンバー。
この1~4曲目までの幽霊のように希薄だった音像が徐々にタイトに、実体を獲得していく流れが最高に気持ちいいんですよね。

You Said』はチョーキングの効いた絶妙なギターリフが引っ張るミドルバラード。混じり気の無い、純粋に良い曲でこのバンドのバラードとしては今の所最も好き。『Oh, Such a Spring』も前曲のムードを引き継いだ、小品ながらより真摯なバラード。

前曲までの静寂を打ち破るシャッフルのリズムとビーチボーイズ風のコーラスハーモニー、カラカラに乾いたギターが子気味良さと共に不吉な予感を運んでくる表題曲『A Hero's Death』は明確なハイライト。歌メロ、ギターリフ他全てのフレーズが至極単純ながら曲全体に漂う張り詰めた神経症的な切迫感が圧倒的。次作収録の「Jackie Down the Line」と並ぶこのバンドのアンセムなんじゃないでしょうか。ねこラジは仕事でやらかして脳フル回転のときに何故かこの曲が流れます。ツインピークス~ロストハイウェイ~マルホランドドライブの辺りのデヴィッドリンチ作品を彷彿とさせる不穏極まりないMVも最高なので是非MVと共に楽しんでほしい1曲。



次作skinty fiaと迷うけれど、個人的に現在3枚のアルバムを発表しているFontaines D.C.のキャリアの中でも最も好きな作品。skinty fiaに比べると若干アルバム後半が弱いかな…?という気もするけれどI Don't BelongやA Hero's Death等のリード曲の出来が余りに強烈すぎるからですかね。2020年代以降のポストパンクリバイバルを代表する素晴らしいアルバムなので、ポストパンク何処から聴いたらいいかわからない!て人にも是非。


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