見出し画像

5時13分の涙

僕は今日、はるばる福山から広島へ遊びに行っていた。普通にG7で少しいつもと違う街を回ったのは楽しかったのだが、問題は帰ろうとした時だった。レコードを買ってブックオフ八丁堀店を出た時点で4時30分を過ぎていた。普段なら、バスで少しの間揺られれば簡単に広島駅に行けたのだが、あいにく今日はG7があって友達と相談した結果もしかしたら通行規制でバスが来ない、または来てもバスの中でかなり待たないといけないと考え、我々は広島駅へ歩きで向かうことにした。しかしその頃はまだ楽観的で、結構ゆっくり行っても30分以上時間はあるし間に合うだろうと考えていた。しかし、僕は楽観視し過ぎていたのだ。僕の知らない間に時間は過ぎていき、歩き始めたばっかりのつもりだったのにふとスマホを見てみると5時3分の文字。広島駅まではどう考えたって間に合いそうにない。しかし、僕は走ることに決めた。新幹線を利用しないのに着いてきてくれた友達を置いて僕は走った。恥ずかしさもなかった。僕は走っているのだ。周りの見る目も気にせず、僕は走った。一つの信号を待つ時間が10分にも、1時間にも感じた。信号を過ぎて、また走った。疲れてヘトヘトになって、また走った。あらゆる景色は溶け、アドレナリンだけが体を支配していた。間に合うような気すらする。そうやって走っていくと福屋が見えてきた。駅前大橋を抜け、地下に降りる。地下はあまり得意ではないが、走るしかない。階段を登り、右へ左へと曲がり、新幹線の文字を見つけた。また階段を登り、改札が見えた。しかし、ここで思わぬ罠が仕掛けられていた。早速バッグからパスケースを取り出そうとするも、ない。バッグの中をかき回すが、焦りから手がうまく動かない。かなり長い間(焦っていたので本当は30秒ぐらいかもしれない。)バッグの中を探すと、パスケースに付いている緊急用の青い笛(?)を見つけ、即座に引っ張る。すると黒いパスケースが姿を現した。果たして間に合うのか、不安な気持ちを背に改札を抜け、走る。頭を上げると、5時13分発の新幹線はまだ出ていないようだ。行ける。そう思い、最後の力を絞りエスカレーターを駆け上がる。新幹線が見えた。。。。。。。。。————————
————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————
しかし、汽笛と共に新幹線はそのまま走り去っていった。
走り去っていく新幹線をしばらく見ていたが、正気に帰りそこらのベンチに座る。体が燃えるように熱い。ここに来るまでの全ての情熱が溢れ出ていくかのようだ。それに、シャツもびしょびしょだ。ベンチの下を雀が通っていく。福山へ行かない新幹線が到着して、少しの風が吹いた。スマホを触ってから新幹線の並びに並ぶ。立ち上がった瞬間ぐらついてしまった。新幹線が来て、火照った体のまま席に座る。これまでのことを思い出す。もはやあの時すぐにパスケースを見つけられていたらなどという後悔はない。僕は走りに走った。走りまくった。ただ走った。その事実だけでいいではないか。間に合ったとか間に合わなかったということは結果でしかない。”一生懸命走った”ということだけでいいではないか。そう思いながら僕はそっと目を閉じた。

  


無常にも走り去っていく新幹線くん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?