見出し画像

読書|鈴木おさむ「最後のテレビ論」

単行本:256ページ
読了までにかかった時間:100分

僕は、テレビは一旦白旗を上げてしまったらいいと思う。「テレビはネットに負けました」と。言い切ってしまえば、みんな楽になる気がする。

鈴木おさむ「最後のテレビ論」

それくらい、今テレビ業界が苦しんでいるということなんだろう。

長きに渡り業界のど真ん中に居続けた人気放送作家による、テレビの舞台裏を綴るエッセイ。連載をまとめたものだそう。「32年間放送作家をやってきた僕からテレビへの遺言」と銘打っているけれども、作家業への未練がないことはないのではと思った。それでもこうした本を出さないといけないくらいに、あの一件以来、テレビを作っていこうと思えるほどの「常に勝負する緊張感」はなくなってしまったのだろう。


かつて多くの人々がテレビに熱狂する時代があった。そこには、覚悟を持って番組作りに情熱を捧げてきた人々が大勢いたという。それを証明するかのように次々と繰り出される実名(タレント含む)。「昔は良かった」の懐古主義的武勇伝にも聞こえてしまいそうな数々のエピソードも、かつて自分が楽しんできた番組の話ばかりだから面白く読める。

才能の芽を見つけ出し、諦めずに育て、認めて、責任をとってくれる人がいたから、面白い作品作りにチャレンジすることができた。今は、かつてのやり方でなくても面白いものが作れるしテレビじゃなくても良くなった。それでも、テレビにしか出来ないものがあると信じたい。テレビにしかできないことがあるのだとしたら、何だろうか。そう考え続けてきた著者の第一線からの引退。現在はスタートアップ支援をされているとのこと。去り方として格好良いし、才能がありすぎるだけに少しずるい気もする。「小説SMAP」と併せて読んだ方が良さそう。

鈴木おさむ「最後のテレビ論」
文藝春秋 2024年03月27日発売



この記事が参加している募集

読書感想文