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マリトッツォ、そのブームと未来を考える

2021年の1月末ごろから、やたらと「マリトッツォ」という食べものを目にする。

マリトッツォとは、ローマ発祥のスイーツで、ブリオッシュに似たパン生地に生クリームをたっぷり挟んだもの。

マリトッツォブームはスピード感が凄まじい。ちょっと驚くくらいに。

私はトレンドグルメなどにはあまり関心が無いのだけれど、マリトッツォはいま流行することがしっくりくる、という感覚があっておもしろい。その感覚の言語化と、マリトッツォの未来について考えてみたい。

マリトッツォブームのスピード感

2021年1月ごろからマリトッツォに関する記事がチラホラ出てきた。雑誌・Hanakoではマリトッツォを食べられるお店を紹介する記事が公開され、

Instagramで「マリトッツォ」はすでに6,000件以上の投稿が集まっている。自宅で作る人も続出しているようだ。

これはGoogleトレンドで「マリトッツォ」と、対比のために2020年の大流行フード「バスチー」を調べた結果だ。

マリトッツォ(赤)は2021年1月末ごろからの伸びが著しく、この1か月半で急激に検索されるようになったことがわかる。

ディーン&デルーカでは、3月1日からの期間限定メニューとして既に発売されているそう。

数か月もたたないうちに、きっとコンビニのスイーツ棚にも「マリトッツォ」がずらりと並ぶようになるのだろう。

マリトッツォが”2021年”に流行することの納得感

冒頭で、「マリトッツォがいま流行るのは しっくりくる」と書いた。

その理由は大きく3つあると思っている。

①「ローマ発祥」という響きの、ほどよい距離感

マリトッツォはローマ発祥の食べものだ。海外旅行が難しい状況で、海外感を味わえるグルメの流行はとても納得感がある。みんな、海外に飢えている。

一方で、海外といっても「ローマ」というところが絶妙だ。withコロナ時代は色々な面においてストレスを感じている人が多いだろう。マンネリ化した日常に新鮮さは欲しくても、大冒険はしたくないのだ。がっかりしたり、失敗したりしたくない。

「ローマ」は、海外を十分に感じられ、かつ多くの人にとって聞き馴染みのある地名だ。「マリトッツォ」と聞いて「どこの食べもの?!」と驚いても、その後「ローマの名物らしいよ」と言われれば、思ったよりもお馴染みの地名が出てきて不思議とホッとする。

withコロナ時代において、「ローマ」はほどよい距離感なのだと思う。

②パン×生クリーム=約束された成功

マリトッツォは、パンに生クリームを挟んだだけのシンプルなものだ。

私はKALDIのものを食べた。素朴なパンにたっぷりの生クリームを挟んだそれは、初めて食べた気がしない、懐かしさを感じる食べものだった。

KALDIのマリトッツォには、生クリームにオレンジピールが入っているので、この量の生クリームでも意外と重くない。お店によってはイチゴなどのフルーツを入れたものや、ココアパウダーや粉砂糖をふりかけたものなど、さまざまなバリエーションがあるようだ。

そうはいっても、マリトッツォの基本的な構成要素はパン+生クリーム。

この食材と組み合わせは、あまりにも慣れ親しんだもの。

①で触れた、「がっかりしたくない/失敗したくない」という心理と非常にマッチしていると思う。絶対に裏切らない組み合わせ。

BRUTUS2021年1月号の特集「なにしろカスタード好きなもので。」に近いものを感じる。

カスタードの、実家のような安心感。変化の多い時代だからこそ、ほっとするものに癒されたい、という欲求が高まっているのではないか。

マリトッツォを食べたときに「初めて食べた気がしない」と感じたのは、なんのことはない、コッペパンに生クリームを詰めたものにそっくりだからだ。数年前に田島パンなどコッペパンブームもあったが、その延長線上にある気がしている。

③おうち時間との相性のよさ

2つの意味でおうち時間と相性がいいなと思う。

ひとつめは、テイクアウトに向いていること。
イートインを中止しているケーキ屋さんなども多いが、ケーキのテイクアウトは崩れないか気を使う。マリトッツォは崩れにくく、気軽にテイクアウトして、おうちで食べられる。

また、暖かくなると近所の公園などでピクニックを楽しむ人も増えるだろう。フォークやお皿なしで楽しめるマリトッツォは、外ごはんにもぴったりだろう。

ふたつめは、家で簡単に作れること。
本格的なスイーツであれば、たくさんの食材や道具を揃えなければいけないし、ある程度のテクニックも必要だ。

その点、マリトッツォは市販のロールパンを買ってきて、生クリームをたっぷり絞るだけでよい。誰でも簡単にチャレンジできて、かつフルーツやトッピングを変えてさまざまなアレンジを楽しめる。そうして、おやつや朝食の時間がとても豊かになるのだ。

主にこれら①〜③の理由で、マリトッツォがいま流行るのはしっくりくるなあ、と感じている。

(おそらく仕掛人がいると思うのだけど、本当にスゴイ。平和に経済をゴリゴリまわしている!)

マリトッツォの未来について

一瞬で流行したものは、廃れるのも一瞬だ。

流行してからその後定着する食べものと、あまり見かけなくなってしまう食べものを分けるのはなんだろうか?

流行⇒定着した食べもの(※私の主観です※)
ティラミス、パンケーキ、スパイスカレー
流行⇒見かけなくなった食べもの(※私の主観です※)
白いたい焼き、ジャーサラダ、生キャラメル、熟成肉

マリトッツォはどちらになるのだろうか?

個人的には、コンビニの棚にいつまで置かれ続けるか次第だな、と思っている。コンビニにはマリトッツォとよく似た商品がすでにある。シュークリームだ。

シュークリーム一つとっても、プチシュータイプのもの、カスタードと生クリームの両方入ったもの、皮がすこしザクザクしたもの、エクレアタイプ、季節限定の桜や抹茶味のものなど、ひとつの店舗に複数種類が常時並ぶ。

シュークリーム・ラインナップの一角に定着するのかどうか…そうはいっても、現状のマリトッツォはかなりボリューミーだ。コンビニでおやつとして買うにはヘビーだし、昼ごはんにも不向き。コンビニでは少し小さめのサイズのマリトッツォが売り出されるのかもしれない。

それと、自宅で作りやすいということはパン屋さんならきっと難なく作れるのでは?全国チェーン規模のパン屋さんが常設メニューとして採用するかどうかも、マリトッツォの未来を左右する気がしている。

🍞

さて、これを言ったら野暮かしら?と思い、ここまで書かなかったのだが…

マリトッツォ最大の魅力であり最大の難しいところは、「マリトッツォ」というネーミングそのものだと思う。

一発で覚えられる日本人がどれだけいるのだろうか…。白状すると、私は「マトリッツォ」だと勘違いしていた。

去年大ブームになったバスクチーズケーキは明快なネーミングだ。誰でも「とにかくチーズケーキなのね」ということは分かるし、「バスク」という地名を知っている人であれば「バスクのチーズケーキなんだな」と理解できる。

コンビニでシュークリームの横に並ぶ「マリトッツォ」という食べもの、パン屋さんでクリームパンの横に並ぶ「マリトッツォ」という食べもの。どれだけの人が手に取るのだろうか。

マリトッツォブームがこれからどのように変化していくのか、楽しみだ。

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