[第3話]スカード(ジャンププラス原作大賞応募作品)

○屋根裏部屋
朝日が差し込んでいる屋根裏部屋。
毛布の中で眠っているミアラ。
ボルグ、両腕を交差させて柔軟体操。
ボルグ「痛てて……」
ミアラ「うーん……」
起きてボルグと目が合う。
ボルグ「起こしちまったか? 痛てて……」
ミアラ「大丈夫ですか……」
ボルグ、柔軟を続ける。
ボルグ「筋肉痛だ。昨日ずいぶん暴れたからな」
ミアラ「わたくしは……なんともありません」
ボルグ「鍛え方が違う」
ミアラ「なんか、すいません」
ボルグ「この際だ おまえの体、鍛えてもいいか?」
ミアラ「?」
ボルグ「昨日みたいなことがまたあるかもしれねえだろ? 少しばかり手足がぶっとくなるかもしれねえが……」
ミアラ「ぜひ太くしてください!」
ボルグ「お、おお」
ミアラ「わたくし、元気な町娘~」
オペラ歌手風に片手を胸にあて、もう片手を伸ばして、適当な歌を歌い出すミアラ。
ボルグ、それを見て、ふっと笑い、片腕立て伏せを開始する。
ミアラ、それを驚きの表情で見守る。
  *  *  *
ボルグ、運動が終わって、顔をタオルで拭いている。
じっと見ているミアラ。
ミアラ「わたくし、びっくりしてしまいました」
ボルグ「?」
ミアラ「わたくし、運動が、だいっっっの苦手なのです」
ミアラ「けれど、ボルグさんが動かすと、あんなこともできてしまうんですね」
ミアラ「魔法みたいです」
ボルグ「体を使い切ってるだけだ」
ミアラ「使い切る、ですか?」
ミアラ、小首をかしげる。
ボルグ「重い荷物背負って、何日も歩いて、飯も水もなくなって、ぶっ倒れて指一本動かねえ……ってなっても」
ボルグ「それでも魔獣が後から迫ってくりゃ走れるもんだ」
ミアラ「はぁー」
ボルグ「限界の先まで行ったことがありゃ、おまえの体でもあれぐらいは動く」
ミアラ「含蓄のあるお言葉です」
ボルグ「さてと……酒場は夜からだ。それまで街を見て回ろうぜ」
ミアラ「お買い物ですか?」
ボルグ「仕事探し!」

○街
ボルグ達、街壁よりを歩いている。並んでいる、石柱。
ミアラ「ボルグさん、ボルグさん、あれは何ですか?」
ボルグ「そりゃ魔獣よけの結界石だ」
ミアラ「そういえば、わたくしのお城にもありました。そんな大切なものだったのですね」
ボルグ「バカ、触るな! 壊したら死罪だぞ」
触ろうとしていたミアラ、動きを止める。
ボルグ「こいつぁ、この世界で人が生きてく生命線だからな」
ボルグ「簡単に壊れやしねえが、わざわざ怪しい真似するもんでも……」
しゅんとするミアラ。
少年(ブラン)「あっ! あんちゃん、剣士のあんちゃんじゃねえか!」
ミアラ「ど、どなたですか?」
ボルグ、あ、やべ、という顔をする。
少年(ブラン)「なんだよ、かしこまって」
ブラン「そういや名乗ってなかった。ブランだよ。あんちゃんは?」
ミアラ、あとずさりして、ボルグとひそひそと相談。
ミアラ「ミアラ、と、言います」
ブラン「ふーん、女みたいな名前だな。とにかく、お礼をさせてくれよ」
ブラン「命の恩人をほっとくわけにはいかねえよ」
ブラン、ミアラの腕を引っ張って、ぐいぐいとつれてゆく。

○ブランの家
中世風のアパートの一室が、ブランの家である。
ブラン「狭いけど……楽にしてくれな」
ブラン妹(アリナ)「誰?」
寝間着で出てくるアリナ。
ブラン「アリナ! すげぇぞ! あんちゃんが生きてたんだ!」
アリナ「それって……にいちゃんを助けた?」
ミアラ、ずっと笑顔でボルグを見ている(いいとこあるんですねーという顔)。
ボルグ、顔をしかめて、目をそらしている。
  *  *  *
せまい食卓を囲んで、スープを食べている四人。
ブラン「なるほど あんちゃんは、その子の護衛なんだな」
ブランはボルグのほうを見る。
ミアラ「はい……」
ミアラ「あの時は、野卑なしゃべりで驚かれたと思います」
ミアラ「事情により、隠れて旅する必要があったものですから」
アリナ「……はっ!」
アリナ「(貴族様が、一人しか供を連れずに隠れて旅する理由……)」
「身分違い」「道ならぬ恋」「かけおち」
といった書き文字がアリナの脳内に。
ボルグ・ミアラ「?」
勝手に驚いてるアリナを、いぶかしむ二人。
ブラン「それで、この街には何しにきたんだい?」
ミアラ「それがその……路銀を落としてしまって……」
ブラン「なら……」
ブラン、即座に財布を出して、中身を開ける。
ブラン「少ねえけど、これ」
ミアラ「そんな! いただけません!」
ブラン「あんちゃんは、命をかけて俺とアリナを救ってくれたんだ」
ブラン「恩返しもできなかったら俺たち生きてる価値がねぇ」
ブラン、アリナ、真面目な顔で見つめる。
ミアラ「……」」
ミアラ、困ってボルグのほうを見る。
ボルグ「しまえ。ガキから金をとるほど落ちぶれちゃいねえよ」
ブラン「お、おう。でもよ」
しゃべりかたに驚くブラン。
ボルグ「この街には詳しいんだろ? なら手伝ってくれ」
  *  *  *
ブラン「仕事かぁ」
腕を組むブラン。
ブラン「あんちゃんの腕なら、傭兵でも、迷宮破り(ダンジョンブレーク)でも、いけるんじゃねえか?」
ミアラ「それはその……」
ボルグ「戦闘系の仕事はなしだ。こいつが腕を振るえば、正体がバレる」
ブラン「そっか。戦闘以外だと……あんちゃんは、何ができるんだい?」
ミアラ「ええと……算数は得意です。会計のお仕事とかでしたら務まると思います」
ブラン「いやー金勘定を任されるには信用がいるぜ?」
アリナ「戦闘じゃない……力仕事のお仕事はどでしょう?」
ミアラ「はい、それでしたら」
ブラン「力仕事で目立たないやつか……」

○家の前
家を出る二人。
ブラン「なぁ、仕事は明日でいいだろ? 今晩は泊まってけよ」
アリナ「お兄ちゃん、野暮はダメよ」
わけしり顔で止めるアリナ。ブランはいぶかしげ。
アリナ「お二人には事情があるんだから」
ボルグ「まぁな」
ブラン「そっか、じゃぁ仕方がないな。ま、この町で困ったことがあったらいつでも来てくれよな」
ミアラ「はい、頼りにさせていただきます」
アリナ「それでは、お二方、どうかお幸せに……」
訳知り顔な笑みを浮かべるアリナ。

○墓場
ミアラ「よいしょっ、よいしょ」
スコップで穴を掘っているミアラ。
ミアラ「ボルグさん、これでよいでしょうか?」
ボルグ「あぁん?」
ミアラ「わたくし、お墓の穴を掘るのって初めてで……」
ボルグ「俺だってやったことねぇよ。ま、それくらいでいいんじゃないか?」
ミアラ「はい、ありがとうございます」
ミアラ、次の穴を掘る。
ミアラ「ブランさん、良いお仕事を紹介していただけましたね。これなら確かに目立ちません」
ボルグ「妹のほうは、なんか妙な誤解してたけどな」
ミアラ「そ、そうですね」
そわそわするミアラ。
ミアラ「ボルグさんには、いなかったんですか? その……将来を誓い合ったお相手とか」
ボルグ「顔傷のゴツいおっさんに、嫁の来手なんてあるわけねえだろ」
ミアラ「ボルグさんの、お顔は、男らしくてかっこいいと思いますよ?」
ボルグ「……自分の顔で言われると複雑だな」
ボルグ「ミアラはどうなんだ? 貴族だと決まった相手とかいねえのか?」
ミアラ「わたくしは、秘密兵器でしたので、そういうのはなかったですね」
ボルグ「そっか……」
意味深な沈黙が流れる。
ミアラ「……」
黙々と土を掘るミアラ。
僧侶「良い感じですね。夕までに全部できそうですか?」
ミアラ「はい、この分でしたら、なんとか」
ボルグ「なぁ、こっちは儲かるからいいけどよ、墓の穴、多すぎねえか?」
ミアラ「はい、わたくしも気になってました。流行病(はやりやまい)とかでしょうか?」
僧侶「……辻斬りですよ」
ボルグ「マジかよ。捕まったのか?」
僧侶「まだです。あなたがたも、くれぐれも気をつけてくださいね」
ミアラ「はい、僧侶様、気をつけます」
僧侶が行ってから。
ボルグ「なぁ……こいつは、ちょっと儲け話になると思わねえか?」

○街路
夜。街灯の上に立つ不審な影(邪剣士)。目元を隠して、口だけが出る仮面。
邪剣士が見下ろす中、夜道をかける少女が一人(ボルグ)。
邪剣士、ふわりと飛び降りて、少女に迫る。
邪剣士、少女を壁に押しつける。口元でにやりと笑う。
少女に、右手の剣を押しつける。よく見ると、腕が変形して剣になっている。
ボルグ「邪剣士か。街の警備兵じゃ捕まえられねえわけだ」
ボルグ、不敵につぶやく。
邪剣士「!?」
ボルグ、短剣を邪剣士の胸に突き込むが、通らない。
ボルグ「ちぃっ」
邪剣士のマントの下には、鱗のある皮膚。
邪剣士「キシャァッッ!」
マントを捨てて、邪剣士の姿が現れる。
人間だが、プロポーションがおかしい。背がねじまがっており、手足が奇妙に長い。
ボルグの目の前で、さらに肉体が変容し、ねじ曲がり、背中にコウモリの翼が現れる。
片手を鞭のようにしならせてボルグを狙う。
ボルグ、かわすが、髪が二、三本飛ぶ。
そのまま、何度もかわすが、追い詰められてゆく。
ミアラ「そこまでです!」
ミアラが現れる。
邪剣士が、そちらを向く。
その瞬間に、ボルグ、もう一本の短剣で逆襲。そばを抜けてミアラに合流。
ボルグ「バカ! 隠れてろって言ったろ」
ミアラ「だってボルグさん、危なかったじゃないですか!」
邪剣士が、じりじりと近づいてくる。
ボルグ「で、どうすんだよ」
ミアラ「こうしましょう」
すーと息を吸い込んで。
ミアラ「辻斬りですーーー! 誰か来てくださーーーい!」
ミアラ「人数が増えれば逃げると思います」
ボルグ「あいつに正気が残ってりゃな」
邪剣士「……!」
邪剣士、ボルグ達のほうに滑空してくる。
ボルグ「くそっ!」
邪剣士、ミアラのほうを狙う。ボルグ、酒場の時と同じ方法で、ミアラを援護。
邪剣士「ギャギィィッッ!」
邪剣士、倒せないフラストレーションで叫ぶと両手をめちゃくちゃに振り回し始める。
ミアラ「ボ、ボルグさん」
ボルグ「クソっ、まずいぞ!」
邪剣士の両手で、結界石が破壊される。

○街外
街の外に光る魔獣達の目。
ひときわ大きな魔獣が近づいてくる。


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