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忍者、事務職はじめました Vol.5

「おはようございます!」

「おはよう、ハヤクジさん、今日は何時から待ってたんですか?」

「今日は、10分前くらいから待ってました」

「さすがに、もう朝5時から待つことはないかぁ」

「さすがに、はい」

「私、営業のウカミと言います。ウカミヒロシです。よろしくお願いします」

「ウカミさん、よろしくお願いします」

ウカミさんは、いかにも『デキる営業マン』という感じで、爽やかな笑みが似合うイケメンです。

昨日も、誰よりも早く出勤していたのがウカミさんでした。

「昨日、NicePicksというSNSに、ハヤクジさんのことを書いたんですけど、私史上最多の【Nice】をもらったんですよ」

「へぇ、それは良かったですね。ところで、NicePicksとは何ですか?オイシイのですか?」

「NicePicksというのは、サラリーマンを中心に流行っているSNSのことですよ。ハヤクジさん、知らないんですか?」

「はい、パソコンは持ってるんですが、インターネットに繋がっていないので、何のことやら」

「じゃあ、給料をもらったら、スマートフォンを買えばいいですよ。そうしたら、電話とインターネットの両方が使えるようになりますし」

「おお、スマートフォンというのは、とても便利なのですね。アドバイス、ありがとうございます」

「それより、早く中に入りましょう、この雨でハヤクジさんのスーツがビショビショですよ」

傘をさすと、どうも忍者感が出てしまうため、私はなるべく傘をささずに過ごそうと考えたのです。

しかし、それが仇となり、出勤してまもなくスーツを脱ぐこととなりました。

「いやぁ、去年の会社運動会で使ったジャージがあって、よかったですね」

「はい、助かりました。というか、この会社では、運動会をやっているんですか?」

「そうです、社長が、会社員にとって健康であることが望ましい!とかなんとか張り切ってしまいましてね」

「それは私も思います」

忍者にとって健康でいることは、とても大切なことなんです。

健康でいられるからこそ、常に確実にミッションを達成できるのです。

もし病気や怪我をしたとしても、素早く治す術を知っています。

このスキルは、一般社会でも使えるなと思いました。

「ハクション!」

「あ、ハヤクジさん、風邪をひいたんじゃないですか?」

「あ、大丈夫です、たぶん」

「いや、大丈夫じゃないですよ、どう見たって風邪ですって顔してますよ」

「ゾンダゴド、アディバゼン」

「いや、鼻水も垂れてるし」

私は、出勤初日にして早くも体調不良による欠勤という不名誉を記録してしまうのでした。

結局その日は、ウカミさんにしか会うことができず、社長さんにはウカミさんから連絡してもらうこととなりました。

次の日、忍者の治癒法ですっかり完治した私は、まるで昨日のことはなかったかのように、昨日と同じ時間に出勤しました。

少ししてウカミさんが出勤してきました。

「あ、ハヤクジさん、おはようございます。もう大丈夫なんですか?」

「ウカミさん、おはようございます。もう、すっかり大丈夫です。ご心配をおかけしました」

「社長も心配してましたよ。心配だから電話してみるとか言ってましたもん、パニックになって」

「あとで社長さんにも謝っておきます」

「あ、おはようございます。あ、ハヤクジさん、大丈夫だったの?」

「おはようございます。はい、もうすっかり良くなりました」

「あ、私は、オンダです。オンダミツコって言います。みんなからは、オンミツさんって言われてるのよ」

「オンダさん、よろしくお願いします」

「うち、営業の人しかいないから、事務職の人が来てくれて、本当に助かるわぁ」

「一生懸命頑張ります!」

オンダさんは、あまり目立つタイプではない、どこにでもいそうな女性という印象です。

そういう意味でも、オンミツさんというアダ名は、言い得て妙だなと思いました。

「おはようございまーす。なんでみんな、エントランスのとこで集まってんの?」

「あ、おはようございます。ハヤクジです。よろしくお願いします」

「あ、ハヤクジさん、体調はもうオーケーなの?」

「はい、お陰さまで、完全復活です」

「今んとこ、ハヤクジさんほどディープインパクトな人は見たことないわ」

「なんか、すみません」

「まあいいや、インしようよ、ウカミ」

「そうですね、カマイさん。ここで立ち話ってのも変ですもんね」

「あ、彼はカマイさんっていうのよ。カマイタツオさん。仕事がめちゃくちゃ早い人なの。一番の古株よ」

「カマイさん、よろしくお願いします」

「あ、ハヤクジさん、ミートゥー」

カマイさんは、見た目はとても細くて、一見頼りなさそうな雰囲気でしたが、みんなから慕われているようです。

言葉の端々に英語を織り交ぜて話すのが癖のようでした。

「みなさん、おはようございます」

「社長、おはようございます。ハヤクジさん、もう大丈夫ですって」

「あ、ハヤクジさん、心配しましたよ。もう大丈夫なんですか?」

「社長さん、心配をおかけしました。すみません。もう大丈夫です、やくそ、いえ、薬を飲みましたので」

独暇の里から持ってきた薬草は、本当に凄い効き目なんですが、そんなことは誰にも言えません。

今の私が、薬草で風邪を治したなどと言ってたら、それこそパニックになるでしょう。

これ以上、インパクトを与える必要もありませんので。

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