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自意識はバニラを食い尽くす

先日小野照崎神社に行ってきた。
『くるぶしを濡らして』で共演した傑作さんからこの神社のことを知り、ずっと行きたいと思ってた場所。


御朱印帳を持ってて、神社巡りは趣味の一つ。
と言いたいところだけど、神社を巡るようになったきっかけなんて、他力本願、神頼みな本性の表れ。


ラクして、願いを叶えるんだ!

という甘い考えがあの手帳にはつまっている。



ただ、今回は違う。
俺も何かを差し出さなくてはいけない。
何かを差し出すことで、願いを叶えてもらう力添えをしてもらえる由緒のある神社。



まぁ、結局は他力本願神頼みであることは変わりないんだけどね。



俺はずっと何を差し出すかを決めあぐねていた。
禁煙、禁酒などなど。
ところが5月の中旬頃にコレを差し出す!と決まったものがあり、ようやく小野照崎神社へ向かえた。



いざ到着した小野照崎神社は小ぢんまりしていながらも、厳かな空気を漂わせていた。
何よりあの一帯の下町感が最高。



そして俺は賽銭箱に五円玉を放り、二礼二拍手、そして神に拝んだ。


「初めて。川島信義です。こんにちは。」



「…」



「三大国際映画祭に参加したいです。そのために禁煙してみせます!お力添えよろしくお願いします。」



「無理やで」




「え?無理?え?」




「にいちゃん、あのな、禁煙程度で夢が叶うと思うてはるの?」




「いや、まぁ、そうですけど。」




「世界はな等価交換で成り立ってるんや。禁煙差し出したかて、カンヌもベルリンもヴェネチアも行かれへん。もちろん東京国際だって無理や」




「だって。じゃあ禁煙を差し出したら、何をもたらしてくれるんですか?」




「踏切で足止めくらうことのない人生やな。」




「え、それだけ?」



「十分大きいアドバンテージやろ。しかもあんたの家の近くに開かずの踏切あるやん」



「そうだけど。でも、、神様って等価交換度外視システムでやってるんじゃないんですか?」



「あんたらが勝手に都合よく解釈してはるだけ。1000円差し出せば、タバコ二箱。そういう世の中なってんねん。」




「いやいやいや。貴方にお願いしにくるのはね、1000円を差し出せばNintendo Switchが当たるかもしれないという旨みがあるから、みんなお参りするんですよ!貴方は、ドン・キホーテにある1000円のガチャガチャと同じ!そういう認識でみんな小銭を放り、お守りを買うんです!みんな値段以上のことを貴方に託してるんですよ!」



「自らは大したものを差し出しもせえへんのに、それ以上を望むなんてホンマ傲慢やな。
そんなやつには必要以上に踏切で足止めをくらう人生を与えてやろう」



「やめてくださいよぉ!じゃあ一体何を差し出せば叶えてくれますか?」




「命」



「え?命?って何言ってるんですか!」




「人生の目標なんやろ?せやのに命賭けることもできんの?命を賭ける必要もないような目標なん?」


「…」



という妄想を行い、一礼して社務所に向かい御朱印をもらい神社を後に。


神社からの帰る道すがら、めちゃ良い感じの喫茶店があったので入ってみた。


店内には女性二人組がいて、俺はなぜかその女性二人組が視界に入る席取りをしてしまった。


背を向ける位置を取れば、この後起こる悲劇は回避できたのに。。





コーヒーフロートを注文した。


コーヒーフロートが大好き。
最近めっきり見かけなくなった、愛してやまない喫茶店シャノアールではいつもコーヒーフロートを頼んでいた。
コーヒーの水割りかってくらい薄いアイスコーヒーの上に乗った、形を全く気にしないソフトクリーム。

あれは最高だった。

コーヒーフロートというと、そのシャノアールのコーヒーフロートをイメージする。


しかしこのイケてる街のイケてる喫茶店で現れたコーヒーフロートは、オシャレ細グラスに注がれたアイスコーヒー。
その上に10センチはあるであろうソフトクリーム。
ソフトクリームのてっぺんにはコーンが置かれている。


いわゆる映えコーヒーフロート。
すごく映えていた。


店員さんがコーヒーフロートを持ってきた時に、
「え、あ、すご。」と動揺してつい言葉に出てしまうほど見応えがあった。

シャノアールの左手で作ったようなコーヒーフロートなんかとは比べ物にならない。





男性一人で、映えコーヒーフロートを食べてる!という好奇の目に晒されている気がして、俺は写真も撮れずにソフトクリームの高さをできるだけ低くすることに邁進した。


正面には女性二人組。
チラチラと俺のコーヒーフロートを見ては嘲笑している。
「男一人で映えさせてるーwww」


ソフトクリームの高さと比例する俺の被害妄想。

『人生とは、自意識との戦いである。』

とあの大作家、太宰治は言っていた。
いや、違うか。ユング?ゲーテ?井伏鱒二?




あ!そうだ!俺の言葉だった!


自意識に駆られた俺はソフトクリームを食べ終え、普通のアイスコーヒーにすることができてようやく落ち着いてタバコを吸う。

そう。禁煙も命も差し出していない俺はタバコを吸える。




フロートハプニングがなければ、かなり居心地の良い喫茶店だった。
また来よう。



レジで600円を出し、店を後にした。

ここのコーヒーフロートが600円で、シャノアールのコーヒーフロートはたしか500円とかだったよな。。


等価交換…。

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