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ある日の喫茶店にて

タバコが自由に吸えないこのご時世。
俺は暇を見つけると、
いや、暇を創出し、
いや、暇で溢れた日々のなかでよく喫茶店に向かう。
タバコを吸うために。なので喫茶店利用率はかなり高い。
子供の頃には見向きもしなかった黒くて苦い液体を啜り、子供の頃には嫌悪した肺が黒くなり苦い煙を吸うために喫茶店へ向かう。
暇だから。


喫茶店ではあらゆる出来事が起きる。

【ケースその1】
世田谷区のサンマルクにて。

スーツを着て小綺麗にしている老年男性とTHEおばさんという感じのおばさんが隣の席で話していた。
老年男性は絶えず日本の政治や日本の外交、そして今の若者への憤りについておばさんに話し続けている。

向かいに座っているおばさんは、ほぼ俯きながら、たまに顔を上げて話を聞いているふうに頷く。
男性も相手が聞いているかどうかなんて気にしない様子で、ひたすら一人で現代の日本を総括している。
もはや相手の反応など気にせずに話しているので独り言。

こんだけ呟いていたらTwitter、、Xでさえも何かしらの反応があるだろうに、おばさんは"いいね"も"リプライ"もせずに、時折頷くのみ。

SNSやスマホばかりで、今の若者は努力して得たものなどないのだ!と怒っている老年おじい。

うわっ。
SNSを引き合いに出した俺はまさにそれだ!と間接的に老年おじいに説教される俺。

頷きおばさんは体裁を守るためか、気休め程度にテーブルの下にスマホを隠しSNSをしている。
ただ誰がどう見てもテーブルの下でスマホをいじっているのがわかる。

このイカれたコミニュケーションをしている二人の関係性も全く分からず、結局二人は「そろそろ行くか」という老年おじいの号令に、初めて意思のある頷きと返事を返したおばさんは帰っていった。


俺は隣が気になりすぎて、何も手につかずひたすらコーヒーを啜って時間が過ぎていった。

【ケースその2】
中野区のドトールにて。

そこのドトールには無料で配ってるiQOSの試供品が置いてある。
しかし、そこに行くといつもその試供品の棚は空っぽ。

ある日、隣の席を見るとテーブルには20本くらいのiQOSと数本のスティックシュガーにミルク。
喫煙室内で至福を肥やすおじいさんが鎮座していた。

太古から根差す一本の枯れ木のようなおじいさんはこのドトールの喫煙室を我が聖域とでも言わんばかりに、Lサイズのホットコーヒーを啜り新聞を読み、数種類のiQOSを味わう。


そのドトールでよく見かけるこのおじいさんは、中野区で唯一タバコ税を払わずに喫煙を楽しんでいる人であろう。

ただ太古おじいさんと近代的喫煙具iQOSの相性はあまり良くないなぁと感じる。



【ケースその3】
港区のドトールにて。

男子トイレが冷凍庫くらい寒かった。



【ケースその4】
渋谷区のヴェローチェにて。

例の如くアイスコーヒーを注文し、席を探していると、バラエティー番組などでたまに見る芸人Aさんとすれ違った。

お、あの人だ!と思ったが、もちろん二度見もガン見もしない。
なぜなら俺は東京出身のシティーボーイだから。
東京出身のシティーボーイは芸能人を見かけても、取り乱してはいけない。
さも当たり前の日常の風景であるという対応を行わなくてはいけない。


それが東京出身のシティーボーイだから。



「意外と背が高いんだなぁ」とか思いつつ、コーヒーを一口啜り喫煙ルームへ向かう。

するとさっきの芸人Aさんも喫煙ルームにいた。
チラッと横目で見る。

やっぱりそうだ!
でも俺は東京出身シティーボーイ。
芸能人を見ても、動揺などしてはいけない。

なぜなら俺は東京出身のシティーボーイという十字架を背負っているのだ!


喫煙ルームにはもう一人男性がいて、計3人がタバコを吸っていた。
その一般男性は気づいているのかいないのかは分からないが、全く気にするそぶりはない。

たぶんあちらも東京出身のシティーボーイなのであろう。

ところが!
その一般男性と思われていた方はなんと!
さっきすれ違った芸人Aさんの相方芸人Bさんであった!

うわぁ!これは生粋の東京出身シティーボーイの心も揺れ動く。
すごい!
喫煙ルームにはコンビのお二方と東京出身のシティーボーイである俺。




うわぁ!!東京ってすげぇ街だなー!!!




お二方はネタについての話をしていた。
おそらくこのコンビのお二方にとって今はシビアな期間なのだ。理由は書かないがそうであるはず。


すげぇー!!芸人さんのコンビ同士での生の会話だぁー!!
東京ってすげぇや!!
かっこいいなぁー!!!



俺はタバコの火を消し、嬉しい感情を押し殺し喫煙ルームを後にした。
心の中で「Good Luck」と声をかけた。


もちろん東京出身のシティーボーイはコンビで芸人さんと遭遇してもXには呟かない。


それが東京出身シティーボーイのしきたり。
なぜなら東京出身のシティーボーイからしたら、それは日常の風景だから。

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